2nd beat「雨だれブルース」

窓をたたきつける変拍子に思わず顔をしかめた。

ポツポツと不規則に打ち付ける音に持っていかれて、心がざわざわする。

つけていたゲーム機をスタンバイにすると、ますます音が際立って聞こえた。


落ち着かない。一人でいたくない。

雨の日はどこか憂鬱になる。その気分を共有してくれる志庵はこんな時に限って不在だ。

雨に打たれるのが好きな志龍と零志は連れ立ってどこかへ行ってしまった。

その後ろ姿を見送った志庵がつぶやいた一言に思い出してくすりと笑う。

”誰が診ると思ってんの?”


雨足が強くなってくる。

ノイズキャンセル付きのイヤフォンでは今度はホワイトノイズの所為で気分が悪くなる。


雨がきらいだから、一人でいたくないんです。

リビングにいるであろう、城前さんに正直に言いたくなる。

けれど、勇気がなかった。

言い訳を探して、英語の教科書とノートを手に取る。


リビングに入ると、ダイニングテーブルに座っている城前さんがいた。

正面に座って、英語の教科書とノートをひらく。


「ここの訳、自信がないので教えてもらってもいいですか?」

絵を描いていた黒瀬さんの手が止まる。

「……話せるけど、そういうのは苦手だよ。」

うん、知ってます。そして、おそらくその部分は完璧です。ただの言い訳なんです。と言ってしまいたくなる。

そう思っていると、黒瀬さんが顔を上げてふっと笑った。


「してほしいことはきちんと伝えるべきよ。」

その言葉にぎくりとする。

ぼくの内面を見透かす目。

止まない不規則な変拍子。


なんとなく。なんとなくだけれども、この人の前では何でもないようにふるまうことができなかった。

まるで志庵や志龍の前に引きずり出されたみたいに。


不規則さの中に混じる、規則性のある鳥の鳴き声につられて。

城前さんに、自覚していなかった心の水たまりをさらわれて。

思わず言葉があふれ出てきた。


「いっしょにいてもらっていいですか?」

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