その剣は誰がために

SEKAI.WORLD

第1話 手合わせ

「はぁ~。」

 大きくため息を吐く。

「また負けた。こんなんじゃ明日の生活きびしいなぁ~。」

 エレナ・フェリム22歳、職業プロの剣士。ここ日の国で剣士は職業として扱われている。

「苦労してプロ剣士ライセンスをとってもこんな結果じゃいつ剥奪されてもおかしくないなぁ~、なんとかしなきゃ。」

 剣士になるにはライセンスが必要になりライセンスは公式の試合での勝利数によって昇格していくランク制になっている。現在エレナのランクは華ノ壱。最低ランクだ。

「何とかしてランク上げないと!そのためには特訓だ!」

 ぐぅ~。大きな空腹の音が響いた。

「…帰ろう。お腹すいた。」

 エレナが歩いた先、行きつけの定食屋ヤオヨロズがある。

「ただいまぁ〜、いつもので。」

「お!エレナの嬢ちゃん。また負けて帰ってきたんか?」

「うぅ〜、ギンパチさぁ〜ん。言わないでくださいよ〜わかってるくせにぃ〜。」

 定食屋ヤオヨロズの店主ミチノ・ギンパチ51歳。

「はっはっは。ほらよ!できたぞ。」

「待ってました!これこれ〜この味〜。」

 ご飯に卵焼きに味噌汁、シンプルな定食だがこれがまた最高にうまい。

「はっはっは。たまには勝ってこの飯を食ってもらいたいんだな。」

「うぅ〜、次の試合は勝ちますよ!」

「そのセリフ何回目だよ。はっはっ…。」

「どうしました?ギンパチさん」

「気付かねぇか。おい誰だ!」

 扉が開くとボロボロの布を纏った男が入ってきた。

「久しぶりだなギン。いつもの用意できるか?」

「お前さん!カイリか!?久しぶりだなぁ〜、元気してたか?」

「あぁまぁな。それにしてもここは何にも変わらねぇな…なんだそこのお前?」

 男はエレナを指差した。

「え?私。」

「そうだよ、お前だよ。この店に入れるってことはギンに認められたってことだ。ここ数年そんな奴はいなかった、おいギン!どういう風の吹き回しだ。」

「あー。嬢ちゃん、コイツはカナムラ・カイリ。俺とは昔馴染みでな…SWORDソードの人間だ。」

 SWORD、日の国直属の少数精鋭剣士部隊。隊員の情報は一切公開されていないが全員が剣の道を極めた者である。

「SWORD…ってすごいんですか?ギンさん。」

 体勢を崩すギンパチとカイリ。

「なんなんだこの女。」

「はっはっは。なぁ?おもしれぇだろ?まぁ細かいことは置いといて飯にするだろ?カイリ。」

 そう言うとギンパチは厨房に戻りカイリに出す料理の支度を始めた。

「ま、いいや。おい女、ギンの奴が戻るまで少しばかり時間がある。それまで俺と手合わせしないか?」

「え?いきなりですか。」

 厨房から銀八が顔を出す。

「嬢ちゃん。その勝負受けとけよ、今後の試合に役立つかもしれないぞ。」

「だそうだ、どうする?」

「ん~…わかりました。その勝負受けます!」

「よし、じゃあついてこい。おいギン!下借りるぞ。」

「おう、好きにしろ。嬢ちゃん!気合入れて行けよ!」

 カイリに連れられエレナは地下に連れられた。電気がつくとそこには広く真っ白な場所が広がっていた。

「さて、ルールは公式試合と同じだ。わかるだろ?」

剣士の試合のルール、それは相手を気絶または降参させれば勝利。

「はい!では、お願いします。」

互いに剣を抜く、緊張感がエレナを襲う。

「さぁ、来いよ。どっからでも。」

「では、行きます。」

エレナは一直線にカイリに切りかかる。カイリはその場から動かない。エレナの剣がカイリの頭に触れようとした瞬間エレナの視界からカイリが消えた。

「遅いな、そして雑だ。」

振り返るとカイリはエレナの後ろに立っていた。

「次はあてます!」

今の動き、全く見えなかった。でも攻撃を続ければ当たるはず。エレナは再びカイリに切りかかるがエレナの剣はカイリにかすりもしない。

「ハァハァ、なんで当たらないの?」

「どうした、もう終わりか?じゃあ反撃いくぞ。」

来る。凄まじい圧がエレナに襲い掛かる。

「まず一発。」

重い拳による一撃を咄嗟に剣でガードしたが衝撃に耐えられず剣は遠くに飛ばされエレナはその場に膝をついた。

「終わりか。まぁ剣が折れなかっただけ幸運だな、さてと飯にするか。」

「ま、待ってください。まだやれます、まだ降参してません!」

「そんな震えてる足でまだやる気か。まぁいいや、全力でやってみろよ。今度は避けない、記念に一発くらってやるよ。」

「ありがとうございます。じゃあ、全力で行きます!」

飛ばされた剣を拾い構えて目を閉じる。すると足の震えは止まり凄まじい圧がカイリに向けて放たれる。

「開いて閉じる、そして蓄えられついに開放される。」

「嘘だろ?なんでその技言ぎごんを知ってんだ!」

「穿つ剣の名はスカーレット!」

そう唱えるとエレナの剣が赤く輝きだした。そして今までにない速さでカイリに切りかかる。

「やべぇなこりゃ、すまん、一発くらうの取り消し。」

カイリは持っていた剣を地面に突き刺しエレナに向かって走り出した。

「沈み落ちろ、そして眠れ。剣の名は悪夢ナイトメア。」

カイリはエレナの剣に拳を叩き込むと剣は輝きを失い元の剣に戻った。それと同時にエレナは気を失った。

「まじか、こんなところで見つかるなんてな。ギンの野郎が認めたわけだ。」

カイリはエレナを抱きかかえるとギンパチのいる食堂に戻った。

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