最終章「気持ち半年後の文化祭」-その2
「さてと、俺もそろそろ休憩かな」
「アンタ何もしてないじゃない」
「何もしてなくたって疲れるんもんなの。と、いうことであとはよろしく頼むぜ蘭ちゃん!」
禊は蘭の肩を叩く。
「いたっ。アンタねぇ」
蘭が少し苛立った様子を見せるが、そんなことよりもめんどくさいタイプの声が聞こえた。
「お邪魔しまーす」
並んでる客を無視し勝手に数人の男が入ってきた。
「おいおいチンケだなぁ」
「文化祭なんてこんなもんっしょ」
「っつか最近ここ襲撃されたんでしょ? ウケるww」
「おい! 早く席案内しろよ!!」
チンピラにもなりえない男たちは大声を張り上げ周囲の空気を壊していく。
その左斜め後ろから葵が声をかける。
「申し訳ありません。ただいま満席ですので暫くお待ちいただけますか?」
「んぁ!? メイド喫茶だよなここは。ご主人様待たせるたぁどういうことだよ!!」
「他のご主人様方もお待ちくださっていますので」
「俺たちは待てないご主人様なんだよ!!」
始まった謎のクレームとその対応をする葵を見て、禊は固まっていた。
「ほれ。こういうのに対処するのがアンタの仕事でしょ」
蘭は数秒前に自分がやられたことをやり返すように、禊の肩を叩いた。
「……まさかこんな時代錯誤なクレームと、棒立ち以外の俺の仕事があるとはね」
壁にもたれていた禊が重い腰を上げる。
「てか、おねーさん、めっちゃかわいくね?」
「髪の色やばすぎだろ。こんな綺麗に染まるか普通?」
「ねぇねぇ、ちょっと触らせてよ」
男の一人が葵に手を伸ばす。
「お客様」
男の腕が葵に伸びきる前に、禊が相手の腕を掴んだ。
「当店のメイドあおいはこれより休憩に入ります。何か御用があれば後ほどお願いいただけますか?」
「んだぁこのクソガキ!」
「怪我人だかなんだか知らねえけど黙ってろ!!」
「そこまでしてここを利用しようっていう気概がわからねえ」
男の腕を握っていた禊の右手に力が入る。
「少し考えたほうがいい。此処が何処で、そこでメイド服着てる女の子がどんな訓練をしているのか」
「……ってぇこの――」
「俺も例外じゃない。それでもなおここで何かしようってんなら覚悟しておけ」
禊は目を見開き、腕を掴んでる男の顔を見つめる。
「なんだぁ喧嘩かぁ!?」
お盆と料理を持った屋敷勝浩が会話に割って入ってくる。
「末洲が急にトイレにいくもんだから何かあったんじゃないかと思ったらやはりか」
その後ろから好宮紫までが姿を現す。
「あまりにも時代遅れのクレーマーが割り込みを要求するもんだから、とりあえず外でお話でもと思って」
禊の握る力が更に強まる。
「くそっ、離せ……!!」
「禊、少し冷静になれ」
紫が禊を諭し、続ける。
「しかし、つい最近本校に襲撃事件があって、今は皆気が立っているのでな。余計なことをして生徒や教職員、事務員等々に余計な心配をかけたくは無いな」
紫が男達のもとへと歩いてくる。
「はぁ、疲れた」
禊が握りつぶしかけていた男の腕を離す。
「勝浩、あとは任せた」
「おうよ!」
「さて、あおいちゃん休憩入りまーす」
禊が葵の手を掴み教室を出る。
「あっちょっ」
「な・に・か?」
「……すいませんしたぁ」
男たちは紫の形相を見て気が変わったのか、そそくさと出て行った。
「さてと……片喰!! せいぜい今度は無事に済ませろよ!!」
「禊!! 焼きそば買っといてくれ!」
紫と勝浩が禊の背中に声をかける。禊は振り返ることなく手を振った。
「ませたな片喰……」
「俺も女の子と文化祭デートしてぇな。好宮ちゃん一緒にd」
「嫌だ」
「早すぎ!! なんでよ!!」
「私は頭の悪い奴が嫌いだ」
「酷い!!」
勝浩は半泣きになる。
「大体お前は今頃補修をしていた頃だったんだ。もう少し学習することだな」
「なんか良くわかんないけど俺が悪かったですすいませんでした!!」
「何かあったのかい?」
会話に割り込んでくるように末洲舜月が現れる。
「お前はやっぱり鼻がいいな」
「??? どういうことですか先生?」
「舜月!! 焼きそば買ってきてくれ!」
「それ片喰にも頼んでただろ」
「いや多分禊買ってこないし」
「わかった。このまま休憩入って良いんだよね?」
「やっぱ頼るべきは舜月だな!!」
「勝浩はやっぱり五月蝿いね。君はハーデスか何かかい?」
「最近別人格の頻度が高くなってんぞ!!」
「鬱陶しい。私は調理室の方へ戻るぞ」
男同士の友情の眩しさに、紫は溜め息をついた。彼らは彼らなりに文化祭を楽しんでいた。
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