第四章「巻き込まれた協力者」-その1
「どうした? 追ってこないのか」
禊が追ってこない相手に対し少し気がかりになり呟く。
(今は好都合か。とりあえず部屋入るとこだけ見つかんなけりゃいい)
禊は周囲を確認し、武器庫に入る。
「動かないで!」
入室早々禊は再び命の主導権を握られた。
「またかよ。具合が悪くなってくるぜ。俺が悪かった」
禊は不貞腐れながら両手を挙げる。
「……片喰禊?」
禊はこの声に聞き覚えがあった。今朝寝ている禊に対して言いがかりをつけた生真面目な少女、三咲蘭である。
「わかったら銃を下ろしてくれ三咲。そのクソみてえな鉄の塊で脅されるのは正直反吐が出るぜ」
「ごめんなさい」
三咲は慌てて拳銃を下ろした。
「さて、聞きたいことがある」
「私だって! 大体アンタ何してたのよ」
禊は溜め息を漏らす。
「お嬢様のお守りと、そいつをしくって捕虜にアップグレードだ」
「その『お嬢様』って保食さんのこと?」
三咲は察したのか、少し呆れたような表情を見せた。
「そうだよ。奴らの狙いも彼女さ」
「それで保食さんは捕まったの? 何やってんの」
「そいつがな、黒幕はお嬢様のおうちの秘書ときた。おかげでぶん殴り損ねた」
三咲はこの状況でも冷静にものを判断する能力はあるらしく、禊の言葉を聞き、事態を把握した上で、納得したように回答した。
「なるほどね。隙を見て逃げたって所かしら」
「いや。外に出してくるところを蹴散らして此処に来た」
そして、やはり三咲は冷静にものを判断する能力はあるらしく、禊の言葉を聞き、事態を把握した上で、納得できずに少々怒り気味に回答した。
「なんでそんなバカなことしたのよ。逃げてりゃ助かったんでしょ? アンタは自分のことを最優先に考える人間だと思ってたんだけど。いきなりヒーローにでもなりたくなっちゃったわけ?」
禊は深く息を吸って言葉をひりだしていく。
「お前こそバカだな。英雄気取りなんじゃなくて、なるしかないんだよ」
三咲が声をあげる。
「はぁ!? 脳みそどっかに置いてきたの?」
「武装した兵士がいるんだぞ。叫んでんじゃねえよ。少し考えてみろ」
禊は三咲を制しつつ主張を纏めていく。
「まず、俺が言うとおりに外に出ようとしたとする。あいつらは既に校内に人感センサーを設置済みなんだ。お前は見たか? あいつらの生配信」
「ええ。むやみに進入すれば人質を殺すって言ってたわね」
「ちょっと違うな」
三咲は頭にクエスチョンマークを作るように眉を潜めた。
「奴らが人を殺す条件は『人感センサーが反応すること』だ。センサーはどっちから誰が来るかなんて関係なしに反応しやがる。俺が外に出るのと、警備隊が突撃するの、どっちも同じってワケだ。悪いが学友を殺すトリガーを引くほど、自分が生きるために肝を据わらせてるわけじゃねえ」
「つまり相手は殺す口実が欲しかったってこと?」
「見せしめにとりあえず一人やっとこうみたいなもんだろ。あくまで今後の政権を担おうみたいな中途半端な頭の壊れ方だ。無駄に筋を通したいんだろうよ」
三咲は目を逸らす。
「歪んでるわ」
「当たり前だろ。次に外に出てからだ。俺は防衛大臣に仕えてきた秘書がダブルクロスだっていう事実を知っている。俺が何わめこうが『ガキの戯言』扱いで無視される可能性もあるが、基本的に今は騒がれたくない話だ。逃げてる後ろをズドン、なんてのもありえる。より確実にするなら地雷仕掛けてるかもな」
三咲は静かに聴いている。かけるべき言葉が見つからず、探しているうちに口を出すタイミングを逃してしまう。
「あとは自分が生きる術だ」
禊は自分の拳を握るとき、自分が震えていることに気がついた。
「もう黙って待ってるなんて野暮なことはできねえ。助けが来るまで捕まってる全員が生きていられる保証はない。自分だけが救われる術を捨てておいて、今更殻に篭るのは、それこそただ自分が人を殺したわけじゃないって言いたいだけだ。仮に全員助かったとして、俺が見捨てれば少なくともあそこにとっつかまった人は救う術のあった俺を憎むだろう」
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