αCore-未完成魔法の試験生-

曲 くの字

プロローグ

 二〇八五年、人類史に大きな転換期が訪れる。きっかけはひとつの隕石が落下したことによる。場所は日本。全長約二十メートルのそれは、直径四百メートル程度の鉄拳を地球へと食らわせた。この隕石による被害者は奇跡的にもゼロだった。衛星による発見から退避まで、約3時間の猶予を残して落下位置からの全員退避が完了した。避難ができていたこと、落下予測位置の誤差も無かったことから、日本政府は迎撃をせず、そのまま落下させることを決定した。そうして、落下した隕石の調査に乗り出されることになる。この隕石が原因で、核兵器廃絶を完遂した世界で再び戦争の火種が落ちかねない状況に陥ったことが理解されるのにそれほど長い年月はかからなかった。

 きっかけは「青白い光が見える」と言いだした謎の症状を訴え病院に訪れる人が大量に現れたことである。原因は判明しなかったが、医療関係の人間が答えを出す必要は無いものであったし、それは他の形ですぐに証明されることとなる。

隕石は地球上に存在しない細菌を地球全土へとばら撒いた。排除をする間もなくその細菌はわずか二十四時間で人類全てを汚染した。しかし、謎の光が見える以外には大した症状も出ず、病気らしい病気などにも発展せず、細菌は人間の体内に長時間潜伏する能力は無く、すぐに死滅した。大きな傷跡を残して……。

 人体に異変が訪れると最初に報告があがるのは、やはり病院であるのだということが証明された。

「人体に新しい器官が生成された」。

 原因は考える必要も無い。ほぼ同時刻、政府は隕石調査の結果、及びそれによって生じた人類の変化について発表をすることになる。


 ――そう。人類は遂に、「魔法」を獲得したのだ――。


 発表された内容は三つ。

一、人類に発現した新たな器官、そしてその機能。心臓の横に現れた器官「魔核(コア)」は、人間に新たな概念的要素を知覚させる。「魔素(エレメント)」と命名されたそれは、体内に取り込まれると魔核へと集約する。後にそれを人体に作用可能な組織「魔力(エナジー)」へと変換する。

二、魔力の体内での活動。変換した魔力はそのまま消滅してしまう。しかし、心臓に機能変化が訪れるパターンがある。魔力の貯蔵、そして血管を用いて魔力を運ぶ、その支持の作用を持つことがある。心臓に機能変化の訪れた者は「超魔核(アルファコア)」と呼ばれる。

三、魔力の起こす結果。魔力は血管を通り移動するが、物質と別概念であるそれは血流の影響を受けない。皮膚の先端から外部へと作用をもたらして放出することが出来る。放出の方法は直線的物体加速、分子移動や化合、熱量変化などが存在する。また、触れているものへ魔力を流し込みその表面から作用することが可能である。これを「魔法」と呼ぶこと。

これらの報告が出たのが隕石落下より約七十二時間後。これが生真面目な日本人が出したユニークなジョークではないことは、全員がすぐに理解した。そうして世界は、これから起こる脅威に目を向けていた。


魔法の使えるものが現れ、第三次世界大戦への火種となりかねないと考えられていたが、犯罪者の横行とそれを食い止めることに必死だった各国政府は世界に目を向ける余裕は無く、魔法使いの扱いに関して制度を固めている間に争いへの直接的火蓋を切る大儀名分を騙ることの出来ない雰囲気を作り、意外にもより協力的な体制が出来上がった。魔法を利用した犯罪に対抗するべく国家のあらゆる組織に魔法対策課が用意され、企業も魔法を使える優秀な人材を確保していった。

教育もまた魔法を取り扱うようになった。健全な魔法の使い方、魔法の社会利用、学ぶべきことは増えた。

そして二〇九四年、優秀な魔法適正のある学生を集め魔法をメインに育成を行なう高校を国家と民間の共同出資によって設立される計画が発足した。

「国立超魔核試験学校」として二〇九七年に試験的に運用が開始される。三年間の試験運用の後、問題が無ければ国立私立等々様々な超魔核専門の学校が次々に設立されることになる。

 超魔核は現在、警察や自衛隊、民間防衛会社など主に武力面での部門に多く長けているが、今後新たな活躍の場が期待されている。

 ――魔法は未だ、人類史において未完成である。

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