第2話

母の自殺を目撃したショックで私は熱を出した。一週間ほど寝込んでしまったようだ。

ショックが大きすぎたせいだろうか。私は前世の記憶を思い出した。

日本という国に私はいた。

死因は不明。何歳で死んだのかも分からない。

ただ私は前世で乙女ゲームにはまっていた。

ヒロインの名前はメリダ・マキシマム。子爵令嬢だけど元は庶民だ。母親が庶民でマキシマム子爵の愛人だった。

彼女の母親が死に、天涯孤独になったメリダを子爵が引き取った。子爵夫人はできた人でメリダを実の子供のように可愛がっていた。

物語の中心は学校に行ってからになる。

メリダは攻略対象者と呼ばれる人たちと親しくなり、彼らとの恋の物語が始まる。そんな彼女を邪魔に思っているのが悪役令嬢であるヴァイオレット・レオパール。つまり私だ。

似たような境遇のはずなのに彼女はたくさんの人に愛されていることに嫉妬して、彼女を虐めるのだ。

ヴァイオレットの未来はメリダが誰を選んでも死が待っている。

「・・・・最悪」

目が覚めた私の体はぐっしょりと汗ばんでいて気持ちが悪い。最低限の看病はされていたようだけど、本当に最低限だけだ。

体を起こすとまだ少しだるさが残る。

私は使用人を呼んで体を拭くものを貰う。拭いてくれる気はないようだ。

この家にとって私はいてもいなくてもどうでもいい存在なんだから当然だ。

前世ではヴァイオレットのことをメリダを虐める最低な悪女だと思っていたし、メリダを虐めるのは逆恨みだと思っていた。

でも自分がヴァイオレットになってみて、この理不尽な環境で一人生き続けてきたことを思うと彼女が悪役令嬢になったのは仕方がないと思う。

こんな環境で性根の真っすぐな子が育つわけがない。

ヴァイオレット・レオパールはなるべくしてなった悪役令嬢なのね。

体を綺麗に拭いて、着替えをすませた私はまだ体がだるいでのでベッドの中に入る。

体をゆっくり休めながら自分の待っている未来について考える。

私は死にたくない。

前世、何で死んだのかは分からない。でも、死の恐怖だけは覚えている。考えるだけでも体が震え呼吸が荒くなる。

貴族の暮らしに未練はない。でも、子供が家を飛び出して一人で生きて行けるとは思えない。

それに私は生まれてから一度も邸を出たことがない。だから、外の世界を知らないのだ。大人になって邸を飛び出したとしても世間知らずのままでは生きて行けない。

私は現在五歳。ゲーム開始年齢は一六歳から。

学校に入学しなければ、ヒロインを虐めなければバッドエンド回避になるだろうという考えは安直すぎるだろうか。

前世でやっていた乙女ゲームの世界に転生するなんて初めての経験だし、そういう事例も聞いたことがないので不確定要素が多すぎる。

私は邸の中で嫌われている。公爵家の使用人なんてみんな身元がはっきりしている人だ。私の母は踊り子で身元がはっきりしているわけではない。

私が本当に公爵家の血を引いているのかも怪しいと思われているけど、でも魔力量は多いから間違いなく貴族の血を引いていると辛うじて思われている。

上級使用人は無理だ。

下っ端の下っ端なら私と仲良くしてくれるかもしれない。

それに下っ端の使用人は公爵たちが住んでいる上の階まで来ることがないから私の存在は知っていても顔までは知らないはず。

ならば身元を偽って、親しくなり、外の世界を教えてもらうことはできるかもしれない。

取り合えずの行動は決まった。

ならばあとは体調が回復するまで休むだけだ。

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