第12話 魔物の食物連鎖事情
あれからしばらくは農家を含めて、街の初心者講習クエストで問題が起きていないか見回ったり、一緒に活動したり、領主様に呼ばれて街作りの相談を受けたりして過ごしていた。
その甲斐もあって……
ポンッ
【一定基準を満たしたので、クエスト「始まりの町カウベの復興支援」をクリアしました】
と通知が出て来た。
ふぅ。ようやくこれで肩の荷が下りたな。
復興はまだまだ途中って感じだけど、あとは地元民の人に任せても大丈夫って事なんだろうね。
よし、クエストも終わった事だし、もうそろそろ次の街に行ってみようかな。
そう思って最初にお世話になった農家に向ったところで、何かの叫び声と悲鳴が聞こえて来た!
「みんな逃げろーー!! デカいゴブリンが出たぞーーー!!」
それを聞いた瞬間、僕は声の元へ向けて走った。
これまでもゴブリンが森から出て来た事は何度もあった。
でもそれらはすべて、農家のおっちゃんとエルザ、手伝いに来ている冒険者(=外来人)と子供たちで十分撃退出来ていた。
今回みたいに、逃げろって声を上げるのは対処出来ないくらい大量のゴブリンが現れた時と、上位種のゴブリンが出た時で「デカい」ってある通り、後者なんだと思う。
現場に向かう途中で街の方に向かう子供たちとすれ違う。
彼らの役目は冒険者ギルドに駆け込み、救援を要請することだ。
そして僕のするべき役目は、皆の安全を確保しつつ敵の足止めをすることだ。
それらは事前に決めていた事なので、お互い止まることなく走り続ける。
そして、畑の区画のすぐ外側でおっちゃんと対峙する身長3メートル近い武装したゴブリンがいた。
他にも20匹くらい居て、そっちはエルザが足止めしていた。
エルザは一見荒事とは無縁じゃないかと思ったけど、畑仕事のお陰か、土属性魔法が得意だ。
今も土の槍を地面から出して攻撃しつつ壁を作ってゴブリンたちの足止めをしてる。
……うん、エルザの方は大丈夫だな。問題はおっちゃんの方だ。
おっちゃんも昔は冒険者をやってた事もあったらしくてそれなりに闘いになれてるんだけど、現役から退いて長いのもあってかなり苦戦してる。
僕との距離は30メートルくらい。
この距離だと僕が辿り着く前に巨大ゴブリンにおっちゃんが倒される方が早いかもしれない。
そう判断した僕はアイテムボックスから手拭いと拳サイズの石を取り出す。
そして手拭いの両端を持って石を真ん中にセット。全力で振り回すと同時にタイミングを見計らって手拭いの片方を離した。
ビシュッ!!
手拭いから飛び出した石は淡い光を帯びながら見事巨大ゴブリンの頭部を吹き飛ばした。
……って、あ、あれ? なんか威力高すぎない!?
僕としてはあいつの勢いを止めてこっちに意識を向けさせられたら良いかなってくらいだったんだけど。
突然頭が吹っ飛んで消滅するゴブリンを見て、おっちゃんも他のゴブリンも呆然としてる。
まぁ、結果オーライだよね。
みんなが止まっている間におっちゃんの所まで移動して、アイテムボックスから格闘杖(一部を鉄で補強した約190cmくらいの木の棒)を取り出して構える。
「今の攻撃はテンドウか。正直助かったが、今のは何だ?上級の魔導士が扱う魔力弾みたいな速度と威力だったが」
僕の姿をみて、安心した様子を見せつつも、そんな質問を投げてくる。
うん、ただの投石だったんだけど。
「間に合って良かったです。さっきのはただの投石です。
ま、その話はまた後で。今は残っているゴブリンたちを何とかしましょう」
「そうだな。だが気を付けろ。さっきのデカいの程ではねぇが、今残ってるゴブリンは上位化したやつばかりだ」
そこにエルザも合流してきた。
対峙していたゴブリンはとみれば、石の槍で出来た柵で足止めを食らっている。
「テンドウくん、来てくれてありがとう。私の方も魔力が限界だったから助かったよ」
「うん、後は任せて。エルザの作ってくれた石槍のお陰でだいぶ楽に戦えそうだ。あ、あとこれ。下級のMPポーションも飲んでおいて」
「ありがとう。助かるわ」
エルザには後退してもらってMP回復に専念してもらう。
もしかしたら第二陣が来るかもしれないしね。おっちゃんにも後ろの守りを任せて前に進み出る。
それを見たゴブリン達も僕を標的にしてくれたみたいだ。
……ゾクッ!!
いざ勝負!と構えた所で、強烈な視線を感じた。
視線の先には巨大な蜘蛛の魔物が森からこっちに歩いてきていた。
この蜘蛛、間違いなくさっきの巨大ゴブリンよりも強い。
見た目は足を含めて幅2m、高さ1mくらい。茶色の毛はナイフくらいなら余裕ではじき返しそうだし、8つの赤い目がこっちを見据えている。
そんな巨大……きょだい、アシダカグモ??
あれ、何だろう。違和感を感じる。
あ、さっきまで僕を見ていたゴブリンたちが蜘蛛を見て震えあがってるし。
これってもしかして、そうなのかな。
僕は急ぎおっちゃんの所まで後退して聞いてみた。
「おっちゃん、もしかして、あの蜘蛛ってゴブリンの天敵なの?」
「あ、あぁ。昔見かけたのより大分デカいが、あの蜘蛛、レッグスパイダーは森の守護者って呼ばれていてな、怒らせなければ俺たち人間を襲う事はないし、ゴブリンなんかの魔物を食ってくれるんだ。もしかしたらこのゴブリン達もあの蜘蛛から逃げて来たのかもな」
そう言ってる間に、いつの間にか凄い速度で近づいてきた蜘蛛が、ゴブリンたちを逃げる間もなく捕食していく。
といっても、ゲームだから絶命した魔物は光になって消えるので見た目はグロくない。
死んだ後の光は蜘蛛の口に吸い込まれていった。あれで多分食べた事になるんだね。
そしてあっという間に最後のゴブリンが消えて行く。
あっ、あの蜘蛛、良く見たら右足を怪我してる。凄く痛そう。
あれで良く走ってこれたな。
おっちゃんも敵じゃないって言ってたし気付いたんだから仕方ないよね。治療してあげよう。
僕はアイテムボックスから、初級HPポーションを出して蜘蛛に投げる。
『!?』
一瞬ビクッと驚いたみたいだけど、回復薬だと分かってすぐに受け取ってくれた。
ただ一本じゃ足りないか。出血が止まったように見えるから効いてはいるみたいだけど。
多分HPの総量が桁違いなんだろうな。
折角だから完全回復するまで投げ続けてみよう。
そうして、合計10本投げたところで回復しなくなった。
蜘蛛はその間、僕らに襲い掛かってくる事もなく、特に森に帰るでもなく、僕の方をじっと見ていた。
『アリガトウ。キミはモリにハイリコンデキタ、Gとミタメはニテるけど、ぜんぜんチガウみたいだね』
頭に直接響くような声が聞こえて来た。
え?蜘蛛って話せるの??
それとGって何の事だろう。僕に似てるって……。
『ヒトのコトバはハナセナイけど、アイショウ…ハチョウ?があえばイシはつたえられるよ。
ネンワっていうらしいね。ドウジにぼくにむけられたイシもウケトルことがデキるんだ』
僕の疑問を感じ取ってそう説明してくれた。
『Gってのはアレさ。
ゴブリンとか、いくらでもあらわれて、モリをあらすガイジュウのこと。
サイキンはガイライジン(ぼくらはシンシュのGってよんでる)がタイリョウにやってきて、モリにゴミをすてていくもんだから、それをカテにゴブリンどももタイリョウハッセイするしシンカするしでコマッテいるんだ』
G、か。よく一般家庭に出る黒くてカサカサ早くて空を飛ぶあれをイメージするけど。
あ、もしかしてこっちの世界で迷惑してる人や魔物から見ると、僕らって似たようなものかも。
幾らでも沸くし、邪魔だしどこにでも沸くし、いくら殺してもキリがないし。
って、もしかしなくても、この話の原因って僕だよね!?
なら何か手を打たないと。
『あ、コンカイのことって、サイキンがとくにヒドイだけで、まえからもあったからそんなにキにしなくてもいいよ』
そう言ってフォローしてくれた。
う~む、何というか凄く良い人というか蜘蛛。
これも何かの縁だし、友達になれないかな?それとも、流石にそこまでは無理?
『あははっ。キミってかわってるね。キミたちニンゲンにトモダチになろうってイワレタノはたぶんハジメテだよ』
そう言ってすぐそばまで近づいてきて右足(手?)を差し出したので、僕も握り返す。
ポンッ!
【エルダーレッグスパイダーと友誼を結びました】
【称号「こころを通わすモノ」を取得しました】
お、何か称号まで手に入った。後で詳細は確認しておこう。
それよりも気になるのは、名前とか無いのかな。
蜘蛛さんって呼ぶわけにもいかないし。
『僕たちに固有の名前は無いよ。普段はお互いに呼び合ったりしないから。でも、うん。そうだね。君が名付けてくれないかな』
さっきよりずっとクリアに声が届くようになってる。これも友誼を結べたお陰かな。それにしても、名前かぁ。
第一印象がアシダカグモだったから『アシダカさん』っていうのはどうかな。
『あしだかさん、アシダカさん。……うん、良いね。凄くいい。ありがとう!
僕は今から「アシダカさん」だ。これからよろしく♪』
そう言ったアシダカさんは一瞬光ったかと思ったら、全身が深い緑色に変わっていた。
ポポンッ!
【エルダーレッグスパイダーは真名「アシダカさん」を得ました】
【エルダーレッグスパイダー「アシダカさん」は、フォレストガーディアンスパイダーに進化しました】
【アシダカさんとの関係が友誼から盟友に変化しました】
おおっと、軽い気持ちで名前を付けたら凄いことになっちゃったよ。まぁ問題は無いから大丈夫かな。
『ん?うん、分かりました。……あ、すまない兄弟。
知り合いから相談に乗ってほしいって連絡が来たから、僕はそろそろ行くよ』
兄弟って。別に盃交わした訳じゃないと思うけど。まいっか。
アシダカさんも結構交友関係広いみたいだな。
恐らくは念話の上位バージョンで遠くから連絡を受けたみたいだ。
相談か。なんだろう。もし僕で力になれる事があったらいつでも呼んでね。
『ありがとう、兄弟。それじゃあまたね』
そう言って、アシダカさんは右足を振って挨拶してから森へと戻っていく。
途中、追加で森から出ようとしていたゴブリン数匹を、ついでとばかりに一蹴しながら森の奥へ消えて行った。
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