第10話 同士を見つけるとテンションが上がる

午前8:20


いつもの日課を終えて登校して自分の席に着いた。

うーん、体を動かしたお陰で眠気は飛んだけど、やっぱり寝足りないな。

授業開始まで少し寝ておくか。


「おはようございます。橋渡君。疲れてるみたいだけど、大丈夫?」


椅子の背もたれに体重を預けて、さて、と思ったところでクラスメイトの織田ほのかさんが挨拶して来たので慌てて態勢を戻す。

織田さんはお淑やか系の女の子だけど、しっかりした物の考え方をしているお陰で男女問わず友達は多い。

去年、塾の帰りに酔っ払いに絡まれていた彼女を助けて以来、こうして僕にも声を掛けてきてくれる。


「おはよう、織田さん。昨日寝るのが遅くなってね。ちょっと寝不足ぎみなんだ」


と言いつつあくびをしてしまった。

それを見てちょっとびっくりした顔をしたあとクスクス笑われた。


「ふふっ。珍しいね。いつもはキリっとしてるか、携帯PCで何かしてるのに」

「うん、この前デパートの福引でフルダイブのVRマシンが当たってさ。

それが一昨日届いたから遊んでたんだけど、色々と大変でさ」

「え!?それってもしかしてAOF?」


フルダイブといった瞬間、織田さんの目が光った気がする。

あれ、なんかすごい食いついてきた。これってつまり、


「そうだけど、織田さんもやってるの? その様子だともうだいぶ先まで進んでる?」

「やっぱりそうなんだ! 私は半年くらい前からやってるの。今は……」


キーン コーン カーン コーン♪


「あっと。もう朝礼始まっちゃうね。続きはお昼休みでも良いかな?」

「うん、じゃあまたお昼休みに」

「ええ」


そう言って織田さんは席に戻って行った。

ただ、続きが気になるのか、昼休みになるまでちょくちょく僕の方に視線を送ってきていた。

そして昼休みになると速攻で僕の所に来る織田さん。

お淑やかさを残しながらも興奮気味に迫ってくるのがすごい。


「さぁ、橋渡君、行きましょう。橋渡君はお弁当じゃないよね」

「うん。購買でパンでも買ってくるよ。話をするなら食堂よりも中庭に行こうか」

「天気もいいし中庭にしましょう。私、先に行って場所取っておくわね」


言うが早いか、織田さんはお弁当を持って行ってしまった。

相当楽しみにしてたんだな。

なら待たせても悪いので急ぎ目で購買でパンを幾つか見繕って中庭に移動すると、ちょうど日陰になってるベンチを確保した織田さんと合流した。


「お待たせ」

「うん。それにしても、橋渡君がAOFをしてるって聞いて驚いたわ。

あれってフルダイブVRマシンが必要でしょ?

そのせいもあって、今までAOFでリアルの友達って居なかったから、共通の話題で話せる人ってあまり居なかったの。

橋渡君は一昨日始めたばかりって事は、まだ最初の街かしら。

2つ目の街を抜けるくらいまではあのゲーム、何かと大変だから良かったら私のクランに入らない?

その方が色々とお手伝い出来るし、一緒に活動出来たら楽しいと思うの」


おっと、また凄い勢いだ。

織田さんて好きなものにはのめり込むタイプみたいだね。


「織田さんってAOFが大好きなんだね」

「えぇ。今まで幾つかVRゲームはしてきたけど、あそこまで体感がリアルなのも初めてだし、私魔導士で活動してるんだけど、魔法を使った時の感じとかも凄いの。

多幸感って言うのかしら。体の中から魔力が溢れてくる感じが気持ちいいの」

「確かに五感が凄くリアルだよね。体の中を血液とか気というか魔力?が流れてるのも手に取るように感じられるしね」

「そうなのよ。もう現実以上にリアルな感じだし、現実でもあれくらい動けたり魔法が使えたりしないかなって思っちゃうくらいで。

流石にそれは無理って分かってはいるんだけどね。でもそれくらい凄いし、それを共感してくれる友達をずっと探してたの」

「うんうん、分かる分かる。確かにニュースで大人になってから中二病再発がって話題になってたよね。

……ただ、さ。クランに入ったり一緒に活動したりってのは、ちょっと待ってもらっても良いかな」

「え……。嫌、だった、かな。もしかして引いちゃった??」


あ、ちょっとしゅんとしちゃった。うん、確かに凄い勢いだったけど。

えっと、そうじゃなくて。


「嫌じゃないし、みんなで楽しむってところは共感できる部分はあるんだけど。

えっと……今最初の街でイベントが発生してるのは知ってるよね。

それ関連で何かと忙しいから、それが落ち着くまで待ってほしいんだ」

「もちろんイベントの事は知ってるわ。そのイベントだったら私のクランも参加する予定よ。

って、あれ?あのイベントってクラン単位での参加って話だったよね。

もしかして橋渡君。もうどこかのクランに入っちゃったの!?」


クラン単位っていうと街作りのほうだな。

織田さんかなり先に進んでるクランに所属しているみたいだし、最初の町のイベントに絡むことはないか。


「いや、どこのクランにも加入してないよ。

ただ、それとは別口で、裏方というかサポーターというか、お手伝いをしててね。

それのおかげでイベントの内情なんかも知ってるから、今僕がクランに入ったらインサイダー取引だって怒られると思う」

「あ。朝色々大変だって言ってたのは、その事だったのね。

良かった~。てっきり引かれちゃったのかと思って焦っちゃった」


そう言ってほっと一息入れた織田さんはさっきより大分落ち着いたみたいだ。

あと頻りに引かれたり嫌われたりするのを心配しているところを見ると、相当同胞に飢えてたんだな。


「全然大丈夫だよ。確かに織田さんの意外な一面が見れたなとは思うけど」

「あぅ。いつもは大丈夫なのよ。今日は突然だったからつい興奮してしまっただけで!!」


と思ったら、ちょっと恥ずかしかったのか耳元が赤くなってる。

そうかと思えばまたがばっと顔を上げた。


「えっと。クランは無理でも、フレンド登録はさせて貰っても良いかな!!?」

「もちろん。僕はゲーム内ではカタカナで『テンドウ』って名前だから」

「あ、うん!私は『ホノカ』で登録してるから、今日ログインしたらフレンド申請送るね♪」


ふぅーー、とやり切った感を醸し出して、今度こそ落ち着いたみたいだ。

まぁなんだろう。

最後のは「私たちって友達だよね!?」って改めて聞く時のドキドキ感だったのかな。

その後はお互いお弁当と購買のパンを食べつつ、いつもよりちょっとだけテンション高い状態でおしゃべりをして教室に戻った。


放課後、特に部活などには入っていないので、帰りがけにスーパーに寄ってから帰宅して、VRマシンを起動する。


【「ホノカ」様からフレンド申請が届いています。承認しますか[はい/いいえ]】


織田さんやること早いな~と思いつつ、僕は「はい」を選択した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る