第6話 まずは農場へ
学校が終わって途中スーパーによって、水と食料を買って帰宅。
うーん、部屋の真ん中にドドンとある最新式VRマシンの存在感がすごいな。
……まぁそのうち慣れるでしょう。
ということで、水分補給をして早速VRマシンに乗り込んだ。
ログインすると領館の門のところからのスタートだった。
ちなみにこのゲーム、ログアウトは一部を除き基本どこでも行えるが、ログインする場所は最後に通った安全ポイントになるらしい。
その為、ログアウトした場所が安全ではない、もしくは安全ではなくなった場合、ログアウトした場所から離れたところにログインすることもあるとのこと。
なお、ログアウトにはある程度時間が掛かるため、所謂、緊急退避にログアウトを活用することは出来ない。
「さてと」
街の中を見渡すと、早い時間なのも手伝って大分空いた感じがする。
うん、これなら子供たちが外を出歩くのも問題なさそうだね。
これでようやく孤児院にも顔を出せるな。
と、その前に、街の郊外の南側にある農業区画に移動して、
「えっと……。あ、いたいた。こんにちはー」
僕がこのゲームを始めて、最初に会った農家のおっちゃんに声を掛ける。
「ん?おぉ、この前はありがとうな。
お前さんのお陰で、大分街の中が落ち着いたって評判だぞ」
良かった。僕の事を覚えてくれてたみたいだ。
「僕も今、街の中心部から歩いて来ましたけど、ちょっと賑やかだなってくらいになってましたね」
「あぁ。その代わり、北の草原では毎日のように薬草採集の講習会が開かれてるし、西の森と東の岩山はそれぞれ樵のジョンと石工のデリーが外来人を引き連れてすごい事になってるそうだけどな。
って、お前さんは行かなくて良いのか?」
「はい、うまく回っているなら僕は後からで十分です」
僕自身、このゲームで何がしたいかは決めてないし、この調子だと後からでもお願いすれば教えてもらえそうだしね。
「それに僕は街が落ち着いた今のうちにもう一つの問題を何とかしようと思いまして」
「もう一つの問題?」
「えぇ。先日、街が大変で孤児院の子供たちが出れなくなってたり、お金が無くなって困ってるって言ってたじゃないですか」
「まあな。ある程度は町の連中が外来人と一緒に連れて行ってるそうだが。
それでうちに来たってことは、孤児院の子供たちに農業の手伝いをさせてほしいってところか。ふむ」
腕を組んで悩みだしちゃった。無理なお願いだったかな。
「あ、無理なら自分で何とかしますので」
「いやいや、無理って訳じゃねえんだ。
ただ、子供たちに任せられるのはどこまでだろうか、とか、報酬はどうすればいいか、とかな。
ここへ来たってことは、そのあたりの案があったりするか?」
「はい、それだったら、まずやらせるのは、家畜の世話、畑の石拾い、雑草抜き、害獣駆除をしてもらうのはどうでしょう。
報酬は食事や採れた野菜とかを持って帰ってもらえば、子供たち自身もお腹が膨れて、普段お世話になってる孤児院の先生や年少の子供たちにお土産が出来るので喜んでもらえるかと」
「ふむ、まぁそのあたりが妥当なところか。
しかし害獣駆除というが、角ウサギなんかの小動物は石でも投げて追っ払えば良いが、時々ゴブリンなんかが森から出てきやがる。
奴ら、子供たちを見たら襲ってくるぞ」
ゴブリンって、あの定番のゴブリンだよね。
時々強力な奴が出てくる話もあるけど、始めの街に出てくるんだから弱いよね、きっと。
「例えば、木刀を持った子供が4人がかりでゴブリンを囲ったら楽に勝てますか?」
「そうだな……。初見だと危ないかもしれないが、慣れればいけるだろう」
「分かりました。なら5人一組で作業をしてもらうようにするのと、最初にゴブリンの倒し方をレクチャーするようにしましょう」
「ふむ。……よし、いいだろう。
5人くらいなら、何とかうちで雇ってやれるだろう。
ゴブリン相手くらいなら俺の方で教えてやることも出来るだろうしな」
と承諾をもらえたと思ったら、ズバシッ!!と大きな音と共におっちゃんが吹っ飛ばされた。
「何なまっちろい事言ってんだい!
外の子がこの街の為に走り回ってくれてるんだよ!
こっちも誠意見せないでどうするってんだい!!」
そこに立っていたのは、おっちゃんの奥さんかな?
まさに肝っ玉母ちゃんって表現が似合いそうな30後半くらいの女性だった。
その人が僕を見てにっと笑った。
「あたしはエリナサスって言うんだ。エリスと呼んでおくれ。
で、あんた、名前は?」
「あ、テンドウです」
吹っ飛んでいったおっちゃんは放置。多分いつもの事なんだろうね。
僕は慌てて挨拶を返した。
「テンドウか。あんたのお陰で大分街が前の落ち着きを取り戻してきた。ありがとうよ」
「いえ、なりゆきで動いただけですから」
「それでもさ。しかも今度は孤児院の子供たちまで何とかしようってんだろ。
ありがたいことさ。
近所の農家にも声かけておくから、20人でも30人でも連れておいで」
さっきの一撃を放ったとは思えない程やさしい、慈愛に満ちた顔をしたエリスさん。
「ありがとうございます。
といっても、孤児院の方に話を持っていくのはこれからなんです。
だからまだどうなるか確定してないんですよ」
と挨拶を交わしてたら、吹っ飛んでたおっちゃんが戻ってきた。
「いてて、かあちゃん、もうちょい手加減してくれよ」
「何言ってんだい。あれくらいじゃあんたはビクともしないだろうに。
でもまぁ、これから孤児院に行くなら顔なじみが一緒の方が良いだろう。
娘のエルザを連れて行くと良い。
おーーい、エルザー。ちょっとお使いを頼まれておくれ」
「はーい、ちょっと待って~」
人の背丈くらいの高さの植物が育っている畑の中から返事が返ってくると共に、18歳くらい(?)のつなぎを着た活発そうな女の子が出て来た。
「おまたせ、母さん。トメトが丁度良い熟れ具合になってたから採ってきたわっ」
そう言うと彼女は背負っていた籠を下ろして中を見せてくれた。
中には真っ赤に熟れたトマトっぽい野菜がいっぱいになっていた。
「うん、いい出来だね。じゃあ折角だからそのトメトを持って、そこの彼と一緒に孤児院まで行ってきてくれるかい」
「分かったわ。って、お客さんが来てたのね。初めまして、エルザです」
お辞儀に合わせて、後ろでポニーに束ねた髪が勢いよく跳ね上がる。
それに合わせて僕も挨拶を返す。
「初めまして。テンドウです。仕事中邪魔しちゃって申し訳ないですが、孤児院までご一緒してもらっていいですか?」
「ええ、もちろん。元々このトメトは孤児院にもお裾分けする予定だったから気にしないで。じゃあ行きましょうか」
「はい。それでは、おっちゃん、エリザさん、行ってきます」
そうして、おっちゃん達に挨拶を交わした後、トメトの籠を持ったエルザさんと孤児院に向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます