第10話
若い新入りに、皆浮ついていた。話題は彼等のことで持ち切りだ。誰かとすれ違うたびに香織について訊かれた。鍵を借りるだけなのに一苦労だ。
優子に「香織は動物の世話が好きで今は兎小屋にいる」と話すと、快く鍵を貸してくれた。
「仲良くしてあげてね。それと、好きな食べ物とか上手く聞き出して欲しいな」
優子は香織の素性を既に知っているようで、特別気にかけているようだ。
「わかった」
私は鍵を握りしめて行こうとした。
「ああ、あと……」
振り向くと、優子は斜め下に目をやって逡巡していた。言いにくいことがある。彼女は、そう訴えていた。
そして悩んだ末に、優子は「うん、なんでもない」と媚びた笑顔で言った。
私は彼女のじれったさに腹が立ち「何それ、ちゃんと話してよ」と言った。
「……あの男の子の靴下が畑から出てきたの」
幼い新入りが悪戯に畑を掘っていると出て来たらしい。
私は適当に返事をして、そそくさと逃げた。
つくづく自分が嫌になる。
兎小屋の南京錠を開けた。錆び付いた扉が軋み、兎達は四方に散らばる。近くにいた茶色の兎を捕まえて膝にのせた。香織が隣にしゃがみ、人参の端くれを兎の口へ寄せた。しかし、兎は興味を示さず、鼻をひくつかせている。
「私達もそろそろ夕ご飯の時間だよ。歓迎会もするから豪華な料理が出るよ。きっと」
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