現実世界の王子様たち

東山 月菜

第1話 夢ヶ丘学園の5人の王子

今年春、夢ヶ丘学園に入学した私は、幼なじみのお兄ちゃんに会うために桜の木の下へ急いでいた。しかし、そこに行くまでに大勢の女子達のおかげで前に進めなくなってしまった。桜の木の下に行くには渡り廊下を通らないと行けないのに…!

イライラしながら通ろうとしていると、不意に黄色い歓声があがった。歓声の上がった方を見ると、5人の男子が並んで歩いているのが見えた。

周りの声を聞きながら判断する。左から順に、ふわふわカワイイ系男子が宮坂修。次に、メガネを掛けているインテリ系男子が東悠貴。真ん中にいる俺様系王子様が矢神強也。その更に横にいるのが正統派王子様の竹野秋夜。で、最後に…

「え、颯太お兄ちゃん…!?」

思わず変な声を上げてしまった。颯太お兄ちゃんは私に気づいたようでスマホを見ろと動作で示した。慌ててスマホを見るとお兄ちゃんから学校のカフェで、という短い文章が送られてきていた。

どういう事か全く分からないし、この歓声の中じゃ叫んでも聞こえそうにないし…とりあえずカフェに行ってお兄ちゃんに聞いてみるしかなさそうだ。一体どうなる事やら…。


その後、私は素早くカフェに移動した。しかしそこも女子でいっぱいだった。ここにあの5人が来るってもうわかっているようだ。そんなに人気なのか…あの5人は…。まぁ、確かに5人ともイケメンだったけど。そんなことを考えながら待っていると、再び黄色い歓声が聞こえた。もはやGPS機能並みに黄色い歓声が機能してるんですけど…。私は何とかお兄ちゃんに話しかけられるように前に出た。周りの女子からの目線が痛かったけどここは耐えるしかない。

「よう、紗更」

はっと顔を上げるといつものお兄ちゃんがいた。

「お兄ちゃん…」

「紗更、おいで」

お兄ちゃんに手を引かれ女子の集団の中から連れ出される。それを見た女子たちの悲鳴が聞こえた。思わずギュッと目を瞑ると、お兄ちゃんの握る手に少し力が入ったのがわかった。それだけでなんとなく安心してしまった。やっぱり、お兄ちゃんはお兄ちゃんだ。私は安心して目を開けた。


お兄ちゃんに連れてきてもらったのはカフェの奥の個室。女子たちもここまでは来ないようで、さっきの歓声に比べるととても静かに思えた。5人はそれぞれ適当に座った。お兄ちゃんはここに座れと言うように、自分の座っている隣をポンポンと叩いた。

「紗更、驚かせてごめんな」

私が座ると早々にお兄ちゃんは私に謝った。

「いや、いいよ。…ちょっとびっくりしたけど…」

おどおどしながら私が答えると、東さんが口を開いた。

「まぁ、驚くのも無理ないかな。自分の身近な人が

あんなに周りにちやほやされてるなんて普通思わないだろう」

…あの、他人事みたいに言ってますけどあなたもちやほやされてる人の一員ですよ…?

「あ、みんな、前も言った通りこいつが俺の幼なじみの神崎紗更」

お兄ちゃんが紹介してくれた。それを見て、どことなく不安げな口調で尋ねられた。

「でも、大丈夫なの?颯太くん。いくら幼なじみだからってひとりの女の子特別扱いしたら虐められちゃわない?」

心配そうに口を開いたのは宮坂さん。声もかわいいようだ。下手したら、いや断然、私よりかわいい。

「そうだね。でもまぁ、もし困るようなことがあったら僕達が助けてあげればいいじゃない。そんなことも気にならないくらい颯太にとっては大事な子なんだからさ」

そういったのは竹野さん。さすが王道王子様、言うことまで王子様並みだ。にしても、お兄ちゃんの大事な子って…そんなに直球で言われると照れる…。

「俺は知らねぇよ」

遮るように冷たい声が場を貫いた。全員が声をした方を見る。私の目の前に座っていた矢神さんと目が合った。

「こいつがいじめられようと何されようと俺の知った事じゃねぇ。俺様にさえ迷惑かけなければなんだっていい」

私が思わず息を飲むと矢神さんは立ち上がって私を見下ろした。

「せいぜい頑張ってみれば?神崎」

不敵に笑う矢神さんを見て、これからどうなるかを予想した私は、思わず青ざめたのだった。


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