68話 畜生カメラマン
お久しぶり。今は生徒会の仕事が終わって、帰ろうってところ。
日も落ちてきて夕暮れの校舎はオレンジ色に染まっている。疲労のたまった目を回復させようと目頭をもんでマッサージすると、何か危ない物質が出ているんじゃないかと思うほど気持ちよかった。
とりあえず今日の仕事もひと段落して、今の俺は達成感に満ちている。仕事は嫌だけどこの達成感だけは、なんだか良いなと思ってしまう。長距離走は嫌いだけど走り終わった後の感覚は好き、みたいな感覚に近い。これは俺研究によると恐らく身体が社畜用に進化しているとの話だ。
まぁそんなことを考えられるくらい気分アゲアゲで帰路に就こうと下駄箱についたとき、いつか見た顔の女子がいた。
彼女は確か前に先輩に進行を変わってもらった会議で最初にプリント配りを手伝ってくれた後輩だ。黒縁眼鏡が印象的な背の低めの女子。まぁ、そんなことを今更言われても、皆さんは憶えていないと思いますが、そういう方は別に新キャラという認識で全く問題ありません。前と違うのは、首から一眼レフのカメラをかけているところだ。
「先輩。遅くまでお仕事お疲れ様です」
そういきなり話しかけてきた。少し含みを持たせるような話し方で警戒しろと本能が言っているようだった。
「あ、ああお疲れ。なにか用事?」
「そうですね、用事があります」
「そう……」
「それでその用事なんですが……」
嫌な予感がした。彼女の首にかかっている一眼がギラリと夕陽を反射させる。ドキッと心臓が嫌な音を立てた気がした。
「なんだよそんなにもったいぶって。それに顔が悪だくみしてるって顔だぞ」
「悪だくみだなんてそんな。私は先輩と交渉したいなと思っているだけです」
交渉ときたか。俺たちはほとんど初対面も同然だ。俺に用があるのか、それとも生徒会の協力員としての俺に用があるのか。どちらにせよ、相手の顔つきから察するに楽しいことではなさそうだ。
「交渉って、一方的に押し付ける交渉を世間ではそれを悪だくみって言うんじゃないか?」
国際会議にランスロット連れてくる反逆系王子様がいた昔。
「まあ悪だくみと言われればそうかもしれませんね。でも、逃げないほうがいいですよ。さもないとこの画像が明日には全校生徒の手元に行き渡っていることでしょうっ!」
悪い笑みを浮かべてそう言うと、一眼で撮った写真をこっちに見せてくる。
それは――
俺が先輩とまるで夫婦のように子供と遊んでいるところだった。さらに。
「なっ!!!」
次の写真では俺と先輩がまるで親子のように――
「消せぇぇぇぇぇっっ!!! 今すぐ消せ! さもなくば〇すッ!」
俺は、反逆を誓った。撃っていいのは撃たれる覚悟の何とやら。
※ ※ ※
夕焼けに燃える屋上。真夏が目前に迫った七月の夕暮れは、日が落ちているとは思えないほどの熱風に晒されていた。勿論それは、日は落ちれども、俺の心には今にも爆発せんとする火が、いや炎が燃え盛っているからだった。知らん。
「ここまでよっ! クズナちゃん!」
そしてもう一人。俺の隣には、およそマトモな更新のない一年の間キャラを見失った、生徒会長である月宮葵女史が空高く声を響かせている。
今しがた月宮先輩にクズナと呼ばれた畜生カメラマンこと
「クズじゃないです! くすなですぅッ! それよりどぉーなんですかコレは! 生徒の模範たる生徒会長が神聖なる生徒会室でこんなコト!」
そう言ってクズは、制服の裏から写真を人差し指と中指でつまむようにして取り出す。それは、まぁなんというか形容するのならばそういうプレイをしているかのような、相当イタイタしい様子が描写された写真だった。
「クズだかクズナだか知らないが、お前はそんなことして何が望みだ。盗撮だ、盗撮!」
何だこの小物感しかないセリフ。自分で言ってて恥ずかしすぎる。
「望みですか? 良いでしょう教えてあげます」
コホンとわざとらしい咳払いをして、真っ直ぐな瞳をしてクズは言った。
「この学校の一大スクープを! 手に入れる為ですっ!」
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