ラストリア大陸戦記
三浦 久明
セルジリア鉱山 解放戦
プロローグ 全てを失った日
物心ついた時には空に憧れていた。
一年、また一年と、成長して行くたび空に手を伸ばし続けた。
今は届かないこの手も、一年後の自分ならと思い続けて止まなかった。
もちろんその時はただのガキだ。だからこそ、その空の途方も無い広さなんて知る由もなかった。
ただただ、空に憧れて手を伸ばし続けたんだ。
"いつか届く"と。
あの日、七星の輝きを失うまでは。
今でも覚えている残酷な光景。
鳴り止まない街の警鐘。それを掻き消す様に人々が五月蝿く逃げ惑う光景だ。
何を思って現れたのか、無慈悲に人の命を狩るバケモノの侵攻。それがこの惨事の発端。
"零等級"指定の呪獣バルディフィア。雲をつけ抜けんとする体躯。頭蓋には禍々しい角を生やした竜の姿をしたヤツだが、間近では人間が見ることができるのはごく一部に過ぎない。
ただ言えること。それはヤツが通る道全てには死が等しく待っていると言うことだけ。子を守る親も、その子までも。足掻くだけ無駄だった。
それは当時十二だったルーサスも同様だ。逃げる事の出来ない絶望に死をただひたすら待つしか無かった。
次は誰が死ぬんだろう。次は僕なのだろうか。お母さんは?父さんは?友達は?幼馴染のあの子は?
誰も答えてくれない。大切な人たちの生死すらも分からない。ただそこにはあるのは絶望と死。
やがて、バルディフィアの鱗から突如として瞳が現れルーサスを睥睨する。不気味な瞳だ。人の命をなんとも思わないバケモノの瞳。人間を恨んで死んだ神により生み出された、呪われた獣の瞳。それを見るだけで絶望が増す。
希望があるとすればこの国、七星王国の軍"七星団"。そして、"零等級"指定の呪獣が現れた時に結成される大陸連合軍だけだ。
しかし、終ぞ彼等がこの国を救う事はなかった。
この日、この時をもってこの国は滅亡したのだ。
あの日、今は亡き七星王国に現れた呪獣はバルディフィアだけでは無かった。"一等級"指定が三体。"二等級"指定が二体。"三等級"指定の二体、合計八体だったという。
そして、この事態を重く見た七星王国ほか大陸中の国々は即座に大陸連合軍を発足。唯一召集に応じなかった帝国兵分を補うように、通常よりも倍の兵を各国収集し各呪獣へと戦力を分散した。
いくら未曾有の大災厄といえど、これだけの戦力があれば乗り越えることが出来た。故に多くの犠牲を出しながらも彼らは辛くも勝利し王国中を凱旋した。
帝国兵に連れられ、首だけという変わり果てた姿となって。
○○○○○
これが人類の裏切りたる由縁だ。
生に歓喜し、仲間の死に涙した兵士たちは当然の如く疲弊していた。それを狙ったかのように、突如として現れた帝国兵に瞬く間に大陸連合軍は壊滅させられたと言う。
その後、帝国兵は七星王国 王都ロザンナールへ侵攻。王都防衛の任務に就いていた第二星団と第三星団は防衛戦を展開するものの、帝国側の優勢のままに幕は閉とじた。
ラストリア大陸戦記 第一巻序説
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