第2話 第1章 地図にない場所 1

 金太は土曜日の午後、秘密基地の奥に置いてある木製の机に向かい、大嫌いなニンジンのサラダを出されたときのように、眉間に深い皺を寄せて小首を傾げていた。

 いま金太のいる6帖ほどの秘密基地は、中学校に上がったばかりの頃、爺ちゃんの畑の隅を借りた道路工事会社が資材置場として使っていたもので、一時は母親に反対されたものの、爺ちゃんの鶴のひと声でようやく念願の秘密基地を手に入れることができた。

 秘密基地を夢にまで見ていた金太は、ひとつ年下の遊び仲間である袴田孝弘はかまだたかひろ、通称ネズミとふたりで『ロビン秘密結社』を立ち上げたのだが、いまではメンバーも増えて4人になった。

 当初金太はベッドに入っても眠れないくらい嬉しくて、学校から帰ると毎日一目散に小屋へ向かった。しかし、悔しいことにほとんど授業の終わるのが早いネズミのほうがひと足先に来ていて、メンバーの持ちよった「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」を無心になって読んでいた。ネズミに先を越された金太は、しかたなく大きな溜め息をついてネズミが読み終わるのを待った。

 ――だがそれもすでに2年も前のことになってしまった。

 あれほど秘密基地が楽しくてならなかった仲間もすっかり熱が冷めてしまい、いまでは時間潰しか気分転換のために秘密基地に顔を出すくらいだ。

 それでも金太は勉強から逃れて頻繁にこの小屋を出入りしている。ここにいると不思議なことになにもかも忘れることができた。

 この日金太がひとり秘密基地で机に向かって難しい顔をしているには理由があった。

「ボラーァ」

 突然小屋の入り口で大きな声がした。ロビン秘密結社の決められた挨拶である。

 これは、金太が中学1年のときに所属していた地理クラブでフィジーのことを調べていた際に、現地で使われている挨拶が気に入り、それを自分たちも引用することに決めた。

 金太が驚いて顔を向けると、そこにはノッポが笑顔で真っ直ぐに立っている姿があった。

 ロビン秘密結社は基本的にニックネームで呼び合う決まりになっている。ノッポとは金太が柳田トオルにつけたニックネームだ。はじめて見たとき、痩せて背の高いところから直感で決めた。

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