君はユミト・オートリを知っているか?
加賀七太郎
導入 記者 ハリー・コールマン
9月28日。
世界が平和を迎えた「安寧記念日」であり、彼の命日。そして彼の誕生日の前日でもある。
式典が行われる東京の公園では、大勢の人たちが集い、花束や食べ物を石碑の前に御供えしていた。食べ物は米製品やお菓子が多いだろうか。中にはゲームや雑誌なども並べられており、その場所だけ厳かな式典からすると場違いな、賑やかな雰囲気を醸し出している。
ガードフェンスに区切られた空間には、式の主賓たちがパイプ椅子に座らされていた。あからさまに政治家と思われるスーツの集団や、軍服姿の様々な国籍の人々。それに学生服姿の青少年に、特徴のない一般人のような人まで。多用多種な人物が一同に集い、一人の英雄へ祈りを捧げている。
そんなパイプ椅子のある空間の後ろで、私は他の取材陣に紛れ窮屈な思いをしながらカメラを回していた。彼への献花はすでに済ませているので、あとは式典の記録と、関係者へのインタビューを進めたい。
この1年でかなりの人数に取材を申し込んできたが、まだまだ。彼の人となりを知るためにも、より身近な人物に話を聞きたいものだ。
時刻は11時。
平和を祝い、彼を讃える音色が響いた。
※
今から1年前。
世界中を恐怖と混乱に陥れた怪物を『スペクター』は、たった一人の『ユミット』の活躍により忽然と姿を消した。
彼が残した「1ヶ月ちょっとで全部いなくなるはずだから、大丈夫」という言葉は、現実となって我々の世界を明るく照らしたのであった。
各国の研究者や調査員、軍隊がスペクターの行方を探ったが「スペクターは存在した」という情報ばかりが集まり、あとは何もわからなかった。本当に、煙のようにこの世から消えてしまったのだ。
誰もが歯痒い思いをしながら、誰もが胸を撫で下ろしている。
脅威は去った。一人の伝説的英雄と共に。
誰もが口々に彼を褒め称える。
英雄、救世主、聖人、神の使い、現世の毘沙門天、人類の希望……
私は、そんな世界最高峰のユミットについて調査しようと思い立ち、世界各国を巡った。彼の足跡をたどりながら、彼の人生を追い、彼の生きざまを記録したいと思った。
※
一時間半ほどの式典のプログラムは全て終了し、ぞろぞろと人が動き始める。
一刻も早く窮屈さから解放されたい私は、カメラを素早く片付け、出口付近に移動した。インタビューに応じてくれる人を探すために。
少しの間張っていると、一人の人物と目が合った。軽く会釈をし、近寄る。少し驚いた様子の相手に怪しまれないよう名刺を渡し、自分の素性と、インタビューしたいということを伝える。
相手は納得してくれたようだ。私は早速ボイスレコーダーを回し、質問をした。
「さて。君はユミト・オートリを知っているか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます