014 遠方より来たる (2)

「それで師匠、用事は何ですか? 単に様子を見に来ただけ、じゃないですよね?」

「第一の目的はそれだぞ? いきなりこんな田舎に放り出したからな。困窮しているようなら、連れ帰らないとまずいだろう? 戻ってくる旅費も無い、なんて状態だと、さすがに私も心が痛む」

 笑いながらそんな事を言う師匠に、私の口もへの字に曲がる。

「むぅ……幸い、食べるのには苦労していません。ちょっと田舎過ぎて、素材の売却とか現金の扱いとかには少し困ってますけど」

 なかなかに厳しい訓練も怪我をすることも無く無事に終わり、風呂で汗を流した私たちは、共に食事を囲っていた。

 テーブルに並んだ料理の大半は、師匠の鞄から出てきた物。

 文句なく美味しい。たぶん、マリアさん作。

「だろうな。ここからだと、サウス・ストラグまで卸しに行こうと思っても……サラサなら一日ぐらいはかかるか?」

「はい。日帰りはまだちょっと厳しいです」

「サラサはまず体力を付けないといけないな。お前の場合、魔力でカバーしてしまえるところがあるからなぁ。多少鍛えれば、数時間で往復できるようになるぞ?」

「うぐっ」

 「無理だ!」と言いたいところだけど、王都から三日でここまで来た師匠に言われると、何も言えない。

 実際、筋力が足りないときには、魔力を使った身体強化に頼っているところがあるので、師匠の言い分も間違っていないのだ。

 普通の錬金術師なら、魔力不足であまり強化できないところでも、私なら魔力量に任せて普通以上に強化ができるため、素の筋力が少なくてもなんとかなってきたのだから。

「……頑張って鍛えます」

「そうだな……スタミナや筋力が付きやすくなる錬成薬ポーション、やろうか?」

「そんなのあるんですか?」

 滅茶苦茶便利じゃない?

 体力作りなんて、地味で苦しいのが定番なのに。

「あるぞ。一般人が買えるほど安くは無いが、金持ちには使う奴もいる。暑苦しい騎士なんかは『邪道だ!』と言う奴もいるが。あいつら、自分の身体を虐めるのが好きなマゾだからな」

「いや、マゾって……」

 厳しい訓練を頑張っている頼りになる人たちですよ、騎士の人は。

 実際、うちの国の騎士のレベルは高いって話ですし?

「ちなみに、副作用は?」

「別に無い。手元には二、三本しか無かったはずだから、無くなったら自分で作らないといけなくなるが……確か六巻に載っていたか? サラサ、今どこまで行った?」

「まだ三巻の半分も行ってません」

「あー、まぁ、仕方ないか。金もかかるしなぁ。それに店をやってたら、時間も取れないだろ?」

「はい、そうなんですよ! お客さんが来てくれるのは嬉しいんですけど」

「独立した錬金術師の悩みだな。錬金術の店だと、なかなか普通の店番では対応できないから」

「ですよね」

 錬成薬ポーションなどの販売だけならともかく、錬金素材の買い取りとなると目利きが必要となる。

 錬金術師でなければ状態が判別できない素材は当然として、それ以外の素材であっても、錬金素材の種類は膨大。普通の人では値踏みするのも難しい。

「結局は教育だな。長く続けてくれる店員を雇って教育すれば、かなりの事は任せられるようになる。ウチのマリアぐらいになれば、かなり楽だぞ?」

「マリアさんですか。かなり長いんですか?」

「そうだな。私が独立してすぐに雇った店員だからな」

「え……」

 この年齢不詳の師匠が独立した頃って……。

 外見的には若く見える師匠だけど、マスタークラスの師匠の実年齢が若いはずも無く、当然、一緒にやって来たマリアさんも同様だろう。

 ちょっと年上のお姉さんぐらいにしか見えないのにっ!

「サラサもそう言う相手を見つけることだ。便利だぞ?」

「マリアさん、住み込みで師匠の私生活まで面倒見てますもんね。師匠、マリアさんがいなかったら、かなり生活が乱れそうです」

「はっはっは! 否定はできないな」

 笑いながらあっさりと肯定する師匠。

 ダメじゃないですか、それ。

 普段の様子を見たのは最終日、お祝いをしてくれた翌日だけだったけど、その時の雰囲気からして、予想は付く。

 朝食の準備もマリアさんがしていたし、なんかもう、仕事しかしない父親と、その世話をする奥さんという感じだった。

 師匠は女性なんだけど、昔、まだ生きていた頃の私の両親に何となく似ていた。

「師匠、マリアさんに捨てられないように気を付けてくださいね?」

「大丈夫だ。働きに見合うだけの給料は出している」

「お金だけじゃなくて、気持ちも大事ですよ? 『いつもありがとう』とかそう言う言葉、大切です」

「む……考慮しよう」

 自分の言動を少し顧みたのか、師匠が少し神妙な顔で頷いた。

 まぁ、問題になるならもっと前に問題になってると思うし、今まで付いてきているんだから、マリアさんも師匠のことは理解しているとは思うんだけどね。

「それで、他の用事はなんですか?」

「ああ、そうだな。第二の目的は、ここに転送陣を置くことだ」

「転送陣、ですか?」

「うむ。知っているだろ?」

「それは、知ってはいますが……」

 転送陣とはその名前の通り、二点間で物を転送することができる錬成具アーティファクトである。

 それだけ聞くと便利そうなのだが、実際にはあまり実用性の無い物、というのが一般的な見方である。

 まず第一に、設置場所の両方に同じ錬金術師が赴く必要がある。

 今回であれば、師匠がまず王都のお店に転送陣を設置してから、こちらにやって来たのだろう。

 だが、この設置自体が一筋縄ではいかない。

 対になる二つ目の転送陣を設置するときには、最初の転送陣に対して“接続”する必要があるのだ。

 この“接続”の難易度は距離に比例するため、並みの錬金術師では視界から外れただけでも接続が困難、多少腕が立つ錬金術師ですら、町一つ離れると難しい。

 これを何とかクリアしても、次に問題となるのは必要魔力。

 距離と転送する品物の量に比例して魔力が必要となるため、あまり大量の荷物を遠くに運ぶことは難しい。ついでに言えば、生物を転送することもできない。

 更に、一度設置すると動かすこともできない。

 『ちょっと邪魔だから他の部屋に』などとやってしまうと、最初からやり直しである。

 そんな制限の多い転送陣だけに、存在自体は学校で習っても、実際に使う可能性はほぼ無いだろう、というのが教えてくれた教師の言葉である。

「一応、一部では使われているぞ? 手紙を送る程度だがな」

「町一つ分ほどでも、早馬よりはマシですか。ですけど、ここから王都まで――いえ、師匠に言うのは愚問ですね」

 できない事を師匠が言うはずがない。

 私にはとても無理なんだけどなぁ……。

「魔力は問題ないだろう? サラサなら。多少は改良して、必要量も減らしているしな」

「確かに私は人より多いですけど……。そもそも何で転送陣?」

「お前に素材を買うとは言ったが、送るのは大変だろう? 転送陣を使えば一瞬だ。それに、お前が欲しい素材も送ってやれる」

「それは正直、ありがたいですが……」

 輸送期間が一ヶ月ともなれば、それに必要な輸送費もバカにならない。

 その上、ここでは入手が困難な素材を送ってもらえるならば、錬金術大全を熟していく上でも随分と助けになる。

 はっきり言って、良いことずくめである。

「解りました。場所は……工房の隅で良いですか?」

「邪魔にならないところならどこでも良いぞ? あぁ、一応、一階が良いな。二階はちょっと大変だから」

「大変って……普通は不可能なんですけど」

 最も良いのは地面に直に接している状態。

 石畳程度ならそれほど影響が無いらしいので、床が石造りになっている工房を提案したんだけど……師匠に“普通”を言うのは無意味か。

 かといってあえて難しい場所にする必要も無いので、素直に工房に案内する。

「このへんでどうですか?」

「ふむ、問題ないぞ」

 作業時間、わずか数分ほど。

 一般的に難しいと言われていることなど微塵も感じさせず、師匠は作業を終了させた。

「これで送れるだろ」

 師匠がバッグから取り出した小瓶をその転送陣の上に置き、魔力を込めると、一瞬にしてその小瓶は姿を消した。

「よし、問題ないな。サラサ、買い取った物を適当に送ってこい。王都の相場で買い取ってやる。あと、必要な素材があれば、それもメモに書いて送れ。手に入る物なら調達してやる」

「ありがとうございます。でも良いんですか? 適当に送ると、師匠のお店の在庫とか」

「王都ならどうとでも処分できるさ。ま、あんまり同じ物を大量に送ってきたら、それに応じて買い取り価格は下げさせてもらうがな」

 多少下がったところで、“王都の相場”という時点で非常に有利な取引。

 基本的に王都周辺ではあまり素材が採れないため、ほとんどの素材は遠くから運んでくることになり、その輸送費分が価格に上乗せされる。

 つまり、大半の素材はサウス・ストラグの相場よりも大幅に高い。

 転送陣を設置したのは師匠なのだから、輸送費分を買い叩いても良いのに、王都の相場で買ってくれるとか、つまりは完全に師匠からの支援って事になる。ありがたいことに。

「さて、これで用事は終わりだな。まだ寝るまでは時間があるだろう? ここでのお前の活躍、聞かせてもらうとするか」

「活躍ってほどのことはしてませんけど……そうですね、何から話しましょうか」

 結局その日は、夜遅くまで師匠と雑談をして過ごした。

 そして翌日には、師匠はうちの倉庫に溜まっていた素材を現金で買い取り、更には「前払いだ」と言って大量の現金までおいて帰って行った。

 おかげで懸案となっていた現金不足は解消されたんだけど……遠くからやって来てくれたのに、なんともせわしない訪問である。

 あんまり長い間お店を空けておくことができないんだから、仕方ないんだけど。

 ちなみに帰り際、「次来た時にも剣の腕は見せてもらう。サボるなよ?」との言葉を残していってくれた。

 ……そこは錬金術の腕、じゃないですかね、師匠?


    ◇    ◇    ◇


「え、サラサさんの師匠が来られてたんですか?」

「そうなんだよー。だから昨日は疲れて……筋肉痛」

 翌日、私はお店のカウンターの上で『ぐてぇ~』と溶けていた。

 普段あまり動かないものだから、一日訓練しただけで完全な筋肉痛である。

 その状態のまま、遊びに来たロレアちゃんに昨日のこと話す。

「はぁ……錬金術の修行でも身体を酷使するんですね」

「いや違う。あ、錬金術でも身体を酷使するのは違わないけど、私の筋肉痛の理由は、違う」

 酷い誤解である。

 誤解して当然と言えば当然だけど。

「ほぼ一日、剣の修行を付けられたからなんだよ」

「……はい? 来られたのって、錬金術じゃなくて、剣の師匠だったんですか?」

 ロレアちゃん『どういうこと?』と首を捻る。

 意味分からないよね、師匠が来たのに剣の修行をしたとか、ホントに。

「いや、もちろん錬金術の師匠だよ?」

「……サラサさんが何を言っているのか解りません」

「私も解らなくなりそうだよ。ま、簡単に言うと、錬金術の師匠が『身体も鍛えろ~』って、剣の手解きをしたって話」

「えーっと……錬金術師って、剣を扱えるんですか?」

「扱えるのです、実は。もちろん、ピンキリだけどね。学校では採集の実習もあるから」

 頭の上にハテナを浮かべているロレアちゃんに、簡単に学校のカリキュラムを説明する。

 一般人からすると、錬金術師と言えば何となく頭脳労働者というイメージがあるんだけど、それだけじゃないんだよね、実際には。

「ちなみに私の師匠はピンキリで言えば、ピンの方。生半可な腕じゃないよ、あれは」

「そうなんですか?」

「たぶんねー。私も少しは自信があったんだけど……」

「私としては、サラサさんが剣を扱えること自体が不思議なんですけど」

「ま、実際に自分で素材を取りに行く錬金術師なんて、ごくわずかだと思うけどね」

 自分で取りに行かなければ手に入らない素材が必要な依頼なら、断れば良いだけのこと。

 そんな無理をしなくても、十分に稼ぐことはできるのだ。

 もし全員が上を目指して必死に努力していれば、マスタークラスの錬金術師ももっと増えているんじゃないかな?

「とは言え、師匠から剣をもらっちゃったから……」

「わぁ、綺麗な剣ですねぇ」

 私が取り出した剣に、ロレアちゃんが目を輝かせる。

 余計な修飾などは一切無く、形としては実用一辺倒な剣なのだが、その刀身の輝きは昨日の訓練を経ても一切変わらず、刃こぼれはもちろん、傷すら付いていない。

 これ、買ったら絶対に高いやつである。決して、ただ丈夫なの剣では無い。

「埃を被らせるわけにもいかないから、訓練、続けないといけないなぁ」

「錬金術師なのに?」

「うん。まぁ、この村に来て、ちょっと怠け気味だったから、ちょうど良い機会かな?」

 無事に卒業して錬金術師になれた嬉しさから、のんびりとした日々を過ごしていたが、少々たるんでいたかも知れない。

 実際、学校に通っている間は、ある程度の体力作りは続けていたんだし。

 病気になったりしたら致命的だからね。

 治療にはお金も必要だし、「風邪を引いていたので、成績が悪かったんです」なんて言い訳は通用せず、スムーズに退学させられるのが、錬金術師養成学校クオリティなのだからして。

「怠け、ですか……? 私、サラサさんが遊んでいるところを見たこと無いんですけど」

「いやいや、何もしていない時間って結構あるから。――店番しないといけないから、仕方ない部分はあるんだけど」

 カウンターで出来る作業はするけど、やっぱり工房じゃないと出来ない作業の方が多いから、ただ座っているだけの時間も多くなっちゃうんだよね。

 学校に行っていた頃なら本を借りられたのだが、当然この村に本を借りられるような場所は無いし、貧乏人の私が持っている本なんて、錬金術大全のみ。

 店番中は、とにかくできる事が少ない。

 体力トレーニングという手もあるけど、お客さんがいつ来るか解らない状態でそれをやるのはちょっとリスクが高い。

 店の床で腹筋をしている店員――どう見ても怪しい。

 私なら入口できびすを返すね、絶対。

「せめて店番を雇えれば良いんだけど……ロレアちゃんは無理だよね?」

「え? いえ、大丈夫ですよ? 役に立つかは判りませんが」

 ダメ元で聞いてみたんだけど、ロレアちゃんから返ってきた答えは予想外の物だった。

「あれ、そうなの? 実家のお手伝いは?」

 結構遊びに来てくれるロレアちゃんも、さすがに毎日はやって来ない。

 その分、実家のお手伝いをしていると思ったんだけど……。

「お父さんたち、最近は月一ぐらいでしか買い出しに行かないから。その間の数日お休みが頂けるなら、大丈夫です。お給料、頂けるんですよね?」

「それはもちろん。特別高くは出来ないけど」

「十分です。家のお手伝いだと、ゼロですから。兄弟もいないし、手伝わないわけにもいかないんですが」

 まぁ、家のお手伝いを子供がするのは当たり前だからね。

 そういえばロレアちゃんのところって、他に兄弟がいないんだよね。

 こういった田舎だと一人っ子はかなり珍しいんだけど……亡くなっていたりすると気まずいので、こういったことは訊きにくい。

「もしあれでしたら、知り合いの子を紹介しますけど」

「あ、ううん。ロレアちゃんが問題ないなら、その方が都合が良いかな? 気心も知れているし」

「あー、サラサさん、村の子供たちとは交流、ないですもんね」

「はい。ほとんど知りません……」

 ディラルさんの所に食事に行ってるから、その道中で合う人には挨拶してるし、食堂で会った人とも話してるけど、子供は来ないからねぇ。

 私のお店に来る人も、大半は採集者で、子供なんて用がないし。

「でも、この村って、紹介できるような子供っているの?」

「あ~~、今仕事していない子となると、結構幼くなっちゃいますね。私ぐらいだと、普通に仕事してますから」

 少し気まずげな表情になるロレアちゃん。

 農村では一〇歳も越えれば、家の仕事を手伝うのが当たり前のことであり、ロレアちゃんの様に一三歳ともなれば、大人と同じように働かされる。

 仮に家に手伝える仕事が無い場合でも、他の家の手伝いに行ってお金を稼いだり、農作物を報酬として分けて貰ったりするものなのだ。

 ロレアちゃんも、これまでは家の仕事として店番をしていたワケだけど、親が担当するようになってやることが無くなり、そろそろ何か考えないと、という状況だったみたい。

「それならお願いしようかな?」

「はい! 是非に! ――でも、私で大丈夫ですか? 錬金術師のお店で働くのって普通は難しいんじゃ……」

「そうだね、結構大変かな?」

 私の言葉に、ロレアちゃんが不安そうな表情を浮かべるが、私はそんな彼女の肩をポンポンと叩いて微笑む。

「大丈夫。必要な事はちゃんと教えるから。でも、ロレアちゃんには頑張って長く働いて欲しいかな?」

 できたら、師匠とマリアさんみたいな関係になれたら嬉しい。

「はい! サラサさんが辞めろと言うまで頑張ります!」

「うん、真面目に働いてくれれば辞めろなんて言わないから、頑張ってね」

 そう言って差し出した私の手を、ロレアちゃんは少し緊張したような表情で強く握り返した。


    ◇    ◇    ◇


 ロレアちゃんは「頑張る」と言ってくれたけど、残念ながらまだ未成年。

 私のような孤児ならともかく、さすがに親に何も言わずに雇うわけにもいかないので、その日はお店を臨時休業として、ダルナさんを訪問。

 そして、少し緊張気味にロレアちゃんの雇用を切り出したところ、ダルナさん、マリーさん共に諸手を挙げて「是非に!」と賛成してくれた。

 やはり二人としても、ロレアちゃんの仕事については考えないと、と思っていたみたい。

 雑貨屋の店番自体は、ダルナさんかマリーさん、どちらか一人いれば十分みたいで、そこにロレアちゃんが加わるのは、正直、人手過剰なのだろう。

 更に、買い出しに行っている間の店番についても相談したら、こちらも「不要だから、ロレアをしっかりと働かせて」と言われてしまった。

 錬金術師のお店が無い関係で、頻繁にサウス・ストラグとの間を往復しなければいけなかったこれまでと違い、普通の雑貨しか扱っていない今であれば、月に一度も往復すれば十分。

 その程度の期間であれば店を閉めておけば良いし、ダルナさん一人で十分な場合も多いため、その時はマリーさんが残って店を開ける。

 元々ロレアちゃんが生まれる前は、そういうやり方をしていたんだって。

 ただ、採集者からすれば何日も店が閉まっているのも不便だと思うし、ダルナさんたちがいない間は、よく売れる物に関してはうちで委託販売を行うことを提案した。

 店番はロレアちゃんだから、商品知識も問題ないからね。

 これに関してはダルナさんもすんなりと受け入れてくれたんだけど、難航したのは賃金交渉。

 と言っても、「もっとくれ」と言われたわけでは無く、逆に「多すぎる」と却下されたのだ。

 ロレアちゃんの場合、読み書きができて計算もできるから、「少しぐらい多く払っても」と言う私に、ダルナさんたちは、「子供の時から大金を持つのは良くない。それに、周りとの違いが出すぎる」と固辞する。

 私は王都のバイトで貰える額を基準に提案したんだけど、それではこの村ではあまりに多かったみたい。

 うーん、都会と田舎の賃金格差だね。

 生活に必要となる金額も違うから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。この村の場合、物々交換も多いから、現金が無くても生活できるところあるし。

 でも一番の問題は、やはり周囲との兼ね合いなんだろう。

 小さい村だけに、一人だけ儲けているっていうのは嫉妬の対象になりやすい。

 私のような錬金術師みたいに、儲けて当然、と言う立場とは違うから。

 そして、色々すりあわせを行った結果、ロレアちゃんの賃金は、同年代よりも少し多め、というレベルに収まった。

 ダルナさんは同じぐらいで良いと主張したんだけど、読み書き計算の能力はきちんと評価しないと。

 それにちょっぴり“周囲よりも高い賃金を払っていたら、辞めにくいよね”という打算もある。

 私が師匠の店でずっと働き続けたのも、他のバイトよりも大幅に給料が高いという理由が大きかったから。

 もちろん、錬金術の修行になる事や、師匠やお店の人と仲良くなったのもあるけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る