012 素材を卸そう (2)

 少し不安に駆られながら向かったもう一軒。

 こちらの方が少し広くて、店前も掃除しているのか、ゴミも落ちていない。

 これなら師匠も文句は言わないだろう。

「こっちのお店は、期待が持てるかも?」

 私の気分も少し持ち直し、軽くなった足取りで店に入る。

「いらっしゃいませ」

 迎えてくれたのは、四〇歳前後の女性。

 柔和な笑みで挨拶してくれたので、思わず私も頭を下げて挨拶を返す。

「こんにちは。少し見せてください」

「はい、ごゆっくりどうぞ」

 商品の傾向は変わらないけど……錬成薬ポーションの種類は少し多め?

 ちょっと変わったところでは、痩身薬とか日焼け止め薬とかも置いてある。

 前者はともかく、後者は村では売れないかなぁ。日焼けを気にしていたら、農作業とかできないし。

 いや、本当は使いたいのかもしれないけど、毎日畑に出る度に日焼け止めを塗るなんて、農家の収入では難しい。お金持ち向けの商品だよね。

 錬成具アーティファクトも、帽子やショールなんかが置いてあって、少し女性っぽい品揃え。用途によっては、このあたりは私のお店でも売れるかも。

 問題は、デザインや元となる品物をどうするかだけど。

 村には専門の職人なんていないし。

 一応作れる、ってだけだからねぇ、私の場合。

 そのあたりは、あまり自信が無いのである。

 ――よし、商品の調査はこのくらいで良いか。

 さて、こっちはどうなるか。

「あの、これを買い取って欲しいんですが」

「ほう、なんだい? ……これは、アンガーベアーの心臓だね。新鮮で処理も悪くない。一二万でどうだい?」

「……結構、高いですね?」

 私の予想より二割は高い。

 不当な安値も困るけど、相場からあまり外れるのも疑問なんだけど……。

「最近は滅多に手に入らないからねぇ。あなた、錬金術師?」

「はい、ヨックの村……ご存じですか? ゲルバ・ロッハ山麓樹海の傍の村、そこで最近店を開きまして」

「わぁ! あそこで!? それは助かるわ。あそこの爺さんが店を閉めて以降、良い素材が流れてこずに困ってたから」

「もしかして、それが高いのも?」

「そうよ。かなり品薄なのよ。しかもこれ、すぐに処理したでしょ? このレベルの物はそうそう手に入らない」

 値段が高くなったのは、品薄だからかぁ。

 あとは品質も評価してくれたみたい。

 確かに、この品質で心臓を取れる機会なんてそう無いしね。

 今回は運が良かったけど、普通はなかなか村の近くで斃される事なんて無いからなぁ。 

「あなた、若いのに良い腕だね。どこで修行してたの?」

「……師匠ということであれば、オフィーリア・ミリスって事になりますね」

 久しぶりに口にした師匠の本名に、店主は目を丸くして立ち上がった。

「えっ!? オフィーリア・ミリスって、あのオフィーリア様?」

「たぶん? マスタークラスのあの人です」

「本当に? あの人の弟子がこんな辺境に?」

 訝しげだけど、嘘じゃないからねぇ。

 普通の独立とは少し違うけど、弟子として餞別を貰ってるし、教えを受けていたのも本当。

 『卒業してすぐに店を構えました』とか、少し外聞が悪いから、これくらいは言っても問題ないよね?

「ええ、まぁ。『店をやるから、珍しい素材を送ってこい』と。あと『修行にもちょうど良い』とか言われて……」

「うーん、さすがマスタークラスの師匠。結構厳しいわね」

 唸って苦笑する店主。

 確かにこれだけ聞くと、辺境の村に放り出されたように感じるね。

「あ、いえ、私が希望した部分もあるので」

「若いのに向上心が強いのね! 気に入ったよ!」

「ははは……」

 まさかこんな田舎で店を持つとは思ってなかったけどね。

 私が希望したのは、普通にどこかのお店に就職することだったから。

「私はレオノーラ。この店の店長よ。あなたは?」

「あ、はい、サラサと言います。あの村でお店を開いたので、今後ともお世話になると思うので、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。正直、かなり助かるわ。あの村から流れてくる素材、爺さんの店が無くなって、どうしようもなくなってたから。サラサみたいに腕の良い錬金術師がいれば、また採集者も増えるんじゃない?」

「あはは、そうなれば良いんですけど」

 錬金素材は採取後、すぐに処理が必要な物も多いため、近場に錬金術師がいなければ、その多くは大きく品質が落ちる。

 村からここまで運んでくると、数日。それだけの時間が経てば、一部の素材以外、その買い取り価格は非常に低くなる。

 すると採集者も採算が取れなくなり、必然的に村から離れていったのだろう。

「最初はちょっと大変かも知れないけど、なんとかなるわよ。――懐かしいわぁ。私も独立して店を開いたときは、日々減っていく貯蓄に随分と心細くなったものよ。サラサも何か困ったことがあれば相談に乗るわよ。可能な範囲で手助けしてあげる」

「ありがとうございます」

「ま、この心臓が買い取れるなら、問題ないかもね。心臓があると言うことは、他の部位もあるんでしょ?」

「はい、眼球は一つですが」

 眼球や肝臓、その他のアンガーベアーの素材はもちろん、他に買い取った素材もまとめてカウンターに並べる。

 レオノーラさんは私が並べる素材を一つずつ手に取って調べ、頷いた。

「うん、どれも、良い処理だね。――そのリュックサックもかなり良い物みたいだけど」

「ええ、師匠の餞別です」

 自慢の一品です。

 もちろん、売りませんよ?

「さすがマスタークラス、私が作るようなのとはレベルが違うねえ。これらは全部買い取りで良いの?」

「はい。あといくつか仕入れたい素材があるんですが……」

 私がメモを読み上げていくと、レオノーラさんがその素材をカウンターに並べていく。

 そう特別な素材では無いし、街にあるお店だけあって、欠品している物は無いみたい。

 最終的に販売額と購入額とを相殺して私が受け取ったお金は、おおよそ三八万レアあまり。

 予想外にアンガーベアーの素材が高く売れた。

「レオノーラさん、正直助かりました」

「ん? 何が? むしろ私の方が助かったんだけど」

 私が売った素材をカウンター奥の棚に収めていたレオノーラさんが振り返り、私の顔を見て不思議そうに首を捻った。

「この街の錬金術師のお店、大差ないと聞いていたので、先にもう一つのお店に寄ったんですけど……」

「あぁ、アイツの店ね。どうだった?」

「心臓、一万二千とか言ってきました」

 面白そうな表情を浮かべるレオノーラさんに私が苦笑しながらそう言うと、彼女は思いっきり爆笑した。

「あはははは、どうしようも無いヤツね!」

「笑い事じゃないですよ。こっちのお店も同じだったら、別の街まで走るハメになるところでした」

「ははは、止めはしないけど、結構遠いよ? アンガーベアーの素材があるなら、まとめて師匠のところに送った方がまだ良かったかもね」

「ええ、ここがダメなら、それも考えました」

 師匠には珍しい素材を送れ、と言われてるからね。

 アンガーベアーでこの品質なら、まぁ、及第点は貰えそう。

「あんまり同業者を悪く言いたくは無いけど、噂を聞く限り、ちょっと阿漕あこぎなところがあるみたいね」

「ちょっとですか? 相場でも半額以下ですよ?」

「アイツは人を見るのよ。サラサなら騙せると思ったんじゃない?」

「『見る』だけで、『見る目』は無いみたいですけどね」

 私が憮然とした表情で肩をすくめると、レオノーラさんはまた楽しげに笑う

「正にその通りだね! あっはっは。おかげで私が良い素材を手に入れられたんだから、私としては見る目のなさに乾杯、だね」

「ま、取引することも無いですから、もうどうでも良いですけど。今後、私の代理で誰かが素材の売買に来てもお願いできますか?」

「あぁ、遠いものね。錬金術師本人が毎回来るのは無理か。もちろん、適正価格で取引させてもらうわ。共存共栄でいきましょ」

 ニッコリと差し出された手を握り返し、私は胸をなで下ろす。

 良かった。頻繁にお店を休むわけにはいかないから、ダルナさんに代理を頼めればかなり楽になる。

 金銭的には私が来る方が良いと思うけど、お客さんに迷惑が掛かるからね。

「ところで、あの村との間に乗合馬車は無かったと思うけど、馬でも持ってるの?」

「あ、いえ。徒歩ですよ。半日はかかりますけど、馬より早いですし。――まぁ、馬を持つ余裕も無いですけど」

 馬は高い上に、飼育に費用と手間が掛かる。

 それでいて、普通に売っている馬なんて、私が走るよりも遅いのだから……。

 師匠からもらったリュックが無ければ買ったかもしれないが、私には当分必要ない。

「あぁ、そっか……ん? いやいや、半日の距離じゃないでしょ!?」

「もちろん身体強化を使ってですよ。私はあまり得意じゃ無いから、二時間毎に休憩を入れると、そんな感じですね」

 錬成薬ポーションを使っても、今はそれが限界。せめて今の倍ぐらい維持できるようになれば、日帰りも視野に入ってくるんだけど、現状では途中で日が落ちちゃうから。

 比較的安全な地域とは言っても、さすがに一人で夜の街道を走るのは避けたい。

「いやいや、それも異常だから。そもそも身体強化なんて、何時間も続けるものじゃないでしょ」

「え? 師匠なんか、平気で丸一日、使い続けてましたよ? 錬成しながら」

「マスタークラスと一緒にするな! 普通は数十秒、長くても数分程度しか使わないの。別の作業しながら、身体強化の魔力操作を続けるとか、どんな集中力よ……」

 レオノーラさんに呆れたような視線を向けられ、私は首を捻る。

 う~む、どうやら苦手と思っていた身体強化、一般的には得意な部類に入るみたい?

「慣れたら結構無意識でできるようになりますが……もちろん、疲れるから休憩が必要ですけど」

「あなたもオフィーリア様が弟子にするだけのことはある、ってわけね」

「でも、私の場合、元の身体能力が微妙ですから……もうちょっと体格が良ければマシだったんでしょうが。最近、多少は鍛えてるんですけどねぇ」

 ふんっ、と腕を曲げるが、力こぶなんて出やしない。

 プニプニである。さっぱり成果は出ていない。

 朝晩の体操だけだと、やっぱり足りない?

「えぇ~~っ、せっかく可愛いのに!! あんまりムキムキになったら勿体ないわよ!」

「いや、さすがにムキムキにはならないと思いますけど、少しでもベースを底上げできれば楽になりそうですから」

「まぁ……確かにサラサは、如何にも勉強しかしてませんでした、って感じよね」

 はい、その通りです。

 実習以外、ほとんど野外活動なんてしていませんね。

 図書館に籠もって勉強ばかりでした。

 それに対し、レオノーラさんは少し大柄で、かなりガッシリした体格にみえる。

「レオノーラさんは結構鍛えてます?」

「まあね。駆け出しの頃は自分で素材を探しに行ったこともあったわ。あ、サラサは止めた方が良いわよ? 大樹海、初心者が入る場所じゃないから」

「解ってますよー。学校の実習で使う森でも大変だったんですから」

 しかし、自分で採集に行くとか、レオノーラさん、なかなかに活動的。

 私が自分で採集に行くかはともかく、やっぱり多少は鍛えておいた方が良いよね。

 可愛いと言ってくれるのは嬉しいけど、あの錬金術師みたいに変に舐められるのは嫌だし。

 武器とか、使えるようになるのが良いかも。ふんふんっ!

「――あ、話は変わるんですけど、この街で安心して泊まれる良い宿屋、知りませんか?」

「そっか、今日は泊まりになるわよね。んー、良かったらウチに泊まる? 部屋、あるわよ?」

 少し考えて、上を指さすレオノーラさん。

 ウチのお店みたいに店舗兼住宅で客間もあるって事かな?

「えっと……良いんですか?」

「男なら泊めないけど、サラサは女の子だからね。今後、取引相手にもなるわけだし、構わないわよ。タダで泊めてあげる」

「助かりますけど……」

「気になるなら、私が村に行ったときにでも泊めてちょうだい」

「来る予定あるんですか、あの村に」

「今のところ、無いわね」

 そして、きっと今後も無い。

 私が買い取りをしている以上、素材の買い付けに来る必要性も無いわけだから。

 でもせっかくだから、お言葉に甘えよう。

 よく解らない宿屋に泊まるより、きっと安全。

「ありがとうございます。お世話になります」

「いいのいいの。後進のサポートぐらい何でもないわ。それに、オフィーリア様の話とか、聞いてみたいしね」


 結局その日はレオノーラさんのお店に泊めてもらい、この街のことを聞いたり、師匠の話をしたりして過ごした。

 ついでに、私がお昼を食べたお店についても訊いてみたんだけど、雰囲気だけではなく、味も上位レベルと評判のお店だったみたい。

 私が「師匠のお店の従業員が作るお菓子の方が美味しい」と言うと、レオノーラさんは「さすがマスタークラス、従業員もレベルが違う!」と妙な感心の仕方をしていた。

 多分、マリアさんが特殊なんだと思うけど。

 他の従業員の人たちは普通だったし……。

 普通、だよね?


    ◇    ◇    ◇


 翌日、朝早くにレオノーラさんのところを辞した私は、朝市でチーズや香辛料、それに加えて目に付いた美味しそうな物を買い込み、軽い足取りで村へ向かって走り出した。

 正直、予想以上の高値で売れたので、足取りも軽けりゃ心も軽い、そして財布は重い。

 言うこと無しだよ!

 そんな私の軽い気持ちを反映してか、村に着いたのは昼前。

 朝市で時間を使ったことを考えれば、確実に行きよりも早い。

 まぁ、道の傾斜の関係もあるから、単純比較はできないけどね。

 せっかく早く帰り着いたので、閉店の看板を取りのけ、店を開ける。

 お客が来るかは解らないけど、休憩がてら店番をするのも良いだろう。

「そうそう、チラシを作ろうかな」

 あの態度の悪かった錬金術師、ぼったくられる危険性ありと注意喚起をしておこう。

 決して復讐や私怨では無いよ?

 お客様のため思ってのお役立ち情報なんだよ?

「でも、チラシを貼るなら、掲示板でも欲しいよね」

 壁に直接貼っても良いけど、何か雰囲気がイマイチ。

 あのカフェほどじゃなくても、私理想のお店に近づけたい。

 良い雰囲気のお店と言うだけで、明確な物があるわけじゃ無いけど。

「例の如く、ゲベルクさんに頼むかな」

 看板の出来を見ても解るように、ゲベルクさんの能力は非常に高い。

 職人的技術の高さだけじゃ無く、デザイン面でも優れているのだから、文句の付けようが無い。

 『お店の雰囲気に合わせて』と言っておけば、きっと良い感じに仕上げてくれるに違いない! ――だよね?

「あと、ついでに小さいテーブル、ベッドも……二個頼んでおこうかな」

 二個あれば、レオノーラさん以外にお供の人とかいても、泊まってもらえるしね。

 村に来る可能性は低そうだけど、その時に「ベッドがありません」じゃ、さすがに申し訳ない。

 私はしっかりとベッドと布団を借りたのだから。

「布団も作っておこう。綿はあるし、悲しいかな、環境調節布も売れてないからあれを使えば良いよね」

 ダルナさんからお礼にもらった綿が丸々残っているので、あと二組ぐらいは布団を作れる。

 私が空色で揃えた布団を使っているから、薄桃色、若草色で揃えた布団を作ろう。

 ついでに、部屋のカーテンの色も揃えようかな?

 私の部屋、布団が空色でカーテンは桃色にしたけど、せっかくだから一緒の色にして、部屋ごとに色を変えるのが良いかもしれない。

 コーディネートだよ、コーディネート。

 デザインなんて除外して、とにかく安い物を購入していた頃の私とは違うのだよっ!

「むふふふ、なんだか楽しくなってきたよ!」

「あの~~、サラサさん?」

 私がそんな空想にふけっていると、やや控えめな声と共に肩が叩かれた。

 そちらを見ると、少し困ったような顔をしたロレアちゃんが。

「はっ!? ロ、ロレアちゃん、いつの間に!」

「いえ、声を掛けて入ってきましたけど」

 気付かなかった。

 防犯のためにも、ドアを開けたら音が鳴る仕組みでも――声を掛けて気付いていないなら意味ないか。

 気まずげな表情を浮かべる私に、ロレアちゃんは気にした様子も無くニッコリと微笑んだ。

「お帰りなさい。早かったんですね?」

「うん、仕事がスムーズに終わったからね。あ、お土産あるよ、食べる?」

 仕事で出かけたのに高価なお土産もどうかと思ったので、この村では見かけないフルーツを朝市で購入しておいたのだ。

 少し硬い緑の皮に覆われた五センチほどの球形で、見た目はあまり美味しく無さそうなんだけど、試しに食べたらとっても甘かったんだよね。

 もちろん、硬い皮を剥いてだけど。

「わぁ、ありがとうございます」

 そのままだと剥きにくいので、ナイフで切れ目を入れて渡してあげる。

 私も自分のを剥いて、一口。

 う~ん、甘い。

 これで一五個一〇〇レア(値引き交渉済み)。

 毎日食べるにはちょっと贅沢かもしれないけど、たまに買ってくるぐらいなら良いよね?

 ロレアちゃんも果肉を口に入れては頬を緩めている。

「美味しぃ~。久しぶりに食べました。たまーに、お父さんがお土産で買って帰ってくれるんですけど、本当にたまにですから」

 ニコニコと嬉しそうに食べてくれると、私も買って帰った甲斐があるよ。

「ところでサラサさん、さっきはどうしたんですか? なんだか嬉しそうでしたけど」

「あ、あぁ、あれ? 大したことじゃないよ? 単に布団とカーテンをもう二組ほど作ろうかな、と思っていただけで」

「何でです? 売り物ですか?」

「ううん、誰か泊まりに来ても良いように、寝室を使えるようにしておこうかな、と言うだけ。あの布も売れないしね」

 私は少し苦笑して、棚の上に鎮座したままの環境調節布を指さす。

「あの快適さを知ると欲しい人はいそうですけど、なかなか思い切れない値段ですからねぇ」

 この村の収入だと、ごく普通の綿入りの布団でも、家族分揃えている家庭の方が少ないらしい。

 環境調節布ならシーツ一枚分でも、綿入り布団以上の効果があるんだけど、普通の布団一セット分より高いとなれば、やっぱ売れないかぁ。

「誰か泊まりに来る予定でもあるんですか?」

「いや、無いけど……。無いけど、来るからと言われてすぐに用意できる物じゃないでしょ、ベッドと布団って」

「それはそうですね、この村だと注文してから作りますから。……私、お手伝い、しましょうか? 一人で作るの、大変でしょう?」

「良いの? 家の手伝いとかは?」

「大丈夫です! 今は親がいますし、ウチの場合、畑とか無いので」

 正確にはあるにはあるけど、家庭菜園レベルだから、わざわざロレアちゃんが手伝うほどではないんだって。

 農家の子供だと「時間があれば手伝え」というのが普通で、商売をしている家でもそれは同じ。

 でも、雑貨屋の仕事は基本的には店番だけ。両親がいればすることも無い。

 その代わり、両親が買い出しに行っている間は、ずっと店番しないといけないんだけどね。

「手伝ってくれるのは助かるかな。代わりというほどじゃないけど、私が払うから、ディラルさんのところにお昼、食べに行きましょ。好きなの注文して良いから。食べ放題で」

「良いんですか!? ありがとうございます!」

 私からすればディラルさんの食堂はかなり安いお店なのだが、村の子供が好きに注文できるほどには安くない。

 だからか、育ち盛りのロレアちゃんにとっては、『食べ放題』は十分魅力的な報酬になったみたい。

「サラサさん、早く行きましょう!」

 嬉しそうに私の手を引くロレアちゃんに引っ張られ、私はお店の前の札を『お昼休み』に切り替えた。

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