010 まずは開店!

「とうとう、開店、だね!」

 やっぱりゲベルクさんの仕事は早かった。

 柵の作製に一日半、看板の方もその翌日には完成させて、朝のうちにやって来て設置してくれたんだから。

 古い看板を多少手直しする程度かと思ってたんだけど、屋根に掲げられた看板はこれまでとは全く雰囲気の異なる、柔らかくちょっと可愛い感じがする物。

 正直に言えば、あのゲベルクさんが作ったとは思えないほどにセンスが良い!

 一応、元の看板も材料として使っているみたいだけど、完全新作と言っても良いんじゃないかな、これ?

 入口の扉を開けて店の中に入ると、まだまだスカスカながら商品の並んでいる棚が目に入る。

 三カ所ある窓には、装飾も兼ねて空色のカーテンを付けたので、お店の雰囲気も少し明るい。

 カウンターの上には私手作りの『受注生産承ります』の看板。

 その裏に回って椅子に腰掛ければ、準備完了だ!

 さあ、お客さん!

 いつでもいらっしゃい!


    ◇    ◇    ◇


「……誰も来ない」

 開店して一時間ほど。

 あまり期待はしてなかったが、やっぱりお客さんは一人も来ていなかった。

 あんまりにも暇なので、師匠にもらった錬金道具をカウンターの裏に並べ、今は時間つぶしに魔晶石を作っている。

 これなら、お客さんが来た時、すぐに中断できるからね。

「ごーり、ごーり、ごーりごり」

 魔晶石の原料となるくず晶石をハンマーで砕き、薬研やげんでさらに細かくする。

 天然物の魔晶石はとにかく高価なので、一般的に錬成具アーティファクトに使われる魔晶石は、錬金術で作った人工魔晶石なのだが、少し大きい物になると作るのは結構大変。

 細かくした屑魔晶石を錬金釜に入れて溶かし、不純物を取り除いた物を固める。

 いずれの工程も魔力が必要なので、魔力の少ない人は一つ作るのも結構大変。

 ちなみに、大きい錬金釜を使うと消費する魔力も大きいので、人によってはこれ専用の手のひらサイズの錬金釜を持っている人もいるとか。

 私は師匠のくれた片手鍋サイズでやっているけど、学校の実習で使ったのは二回りほどは小さい、小型のティーカップサイズだったりする。

「砕く、錬成具アーティファクトが、欲しく、なる、ね!」

 屑魔晶石自体は安い物だが、純度が低いほどたくさん砕かないといけない。

 なので、それ専用の錬成具アーティファクトという物も、もちろん存在する。

 師匠みたいに余裕が無いと買えないけどね。

 手作業でなんとかなることだから。

 だから私は無心にハンマーを振るう。

 ガン、ガン、ガン。

「こんにち――なんですか、サラサさん!」

「ふぅ。あ、ロレアちゃん、いらっしゃい」

 お店の扉を開けて入ってきたのは、雑貨屋のロレアちゃんだった。

 一緒にお布団を作って女子トークをした私たちは、すでにまごうこと無くお友達。

 呼び方も『ロレアさん』から『ロレアちゃん』に親密度グレードアップ。

 私の方も『ちゃん』付けでも良かったんだけど、一応年上だからと『さん』付けのまま。一番最初の方が砕けた話し方だった気がするのは、もしかして年下だと思ってたのかな……?

「はい。開店おめでとうございます。……って、そうじゃなくて何してたんですか?」

「これ? えーっと、錬成の下準備?」

 不思議そうにカウンターを覗き込んでくるロレアちゃんに、細かくなった粉を見せる。

 これ自体も錬成と言えなくもないけど、砕いているだけだから、誰でもできる肉体労働でもある。

「へぇ~、錬金術って、もっとこう……シュッとしたイメージがあったんですけど、違うんですね」

「なに、シュッとしたイメージって?」

 洗練されたスマートなって言いたいのかな?

 何となく言いたいことは解るけど。

 私も学校に入って、学ぶ範囲の広さに驚いたもの。

「まぁ、普通の人が思うより色々やるかな? 作る物が多岐に渡るから、大工やガラス工、鍛冶、料理とかできないといけないこと、多いから」

 上手いかどうかは別ですけど。特に料理。味と性能は関係なかったから。

 基本、厳しい王立錬金術師養成学校も、直接錬金術と関係がない部分に関しては案外甘い。

 例えば、木工が苦手なら、その部分は木工職人に頼めば良いだけ。

 なので、機能的に問題が無いのであれば、多少拙くても卒業はできるのだ。

「そうなんですねぇ。やっぱり錬金術師になるのって大変なんだ……。あ、この布、私にくれた物と同じですか? この色も綺麗! って、高い!」

「あー、それでもちょっと安めなんだよ? 王都だともう二、三割は高いから」

 ロレアちゃんが見て驚いたのは、私が少しお買い得な目玉商品として並べた、若草色、薄桃色、空色の環境調節布。

 王都なら、染色していない薄汚れた茶色の環境調節布がこれくらいの値段で、綺麗に染めてある場合は何割も高くなる。

「良かったんですか、私がもらっても?」

「構わないよ。実際、手伝いに来てくれて嬉しかったからね!」

 開店祝いにも来てくれてるし、ロレアちゃん、ホント、良い子!

「私が随分得してますけど……ありがとうございます」

「ま、宣伝も兼ねてるから、何か必要な物があれば、ウチで買ってちょうだい」

「はい、もちろんです! ――他の商品は、今のところ錬成薬ポーションだけですか?」

「店頭に並べてるのはね。正直、この村での需要がよく解らないし」

「う~ん、普通の村人は錬成薬以外、知りませんから、需要と言っても難しいですね」

「……あ、そっかぁ」

 イメージの沸きやすい錬成薬ポーションに比べ、錬成具アーティファクトに関しては、“こういう物がある”ということを知らない限り、欲しいとも思わないよね。

 王都なんかだと、貴族や金持ちが使ってるから、知る機会もあるんだけど、この村では……これって案外致命的な問題なんじゃ?

「サンプル品、置いた方が良いかなぁ?」

「あったら知る機会にはなりますけど、ぶっちゃけちゃうと、この村の人、そんなにお金持ってないですよ? 多少あるのは、ウチかディラルさんのとこ、それに村長ぐらいです」

 自給自足が可能な村だと、そうなってしまうのか。

 お金を持っているのが、採集者相手に商売している宿兼食堂のディラルさん、雑貨屋のダルナさん、それに国の仕事を請け負っている村長ぐらいとなれば、村人相手の商売は難しいかも。

 何か考えるべきかなぁ?

「あれ? この看板、何ですか?」

「あ、それ? 一応、村の人と、ここを拠点にしている採集者相手の優遇措置、かな?」

 ロレアちゃんが見つけたのは、私が錬成薬ポーションを陳列した棚に置いておいた看板。

 “当店の使用済み薬瓶をお持ちの方に割引販売いたします”と書いてある。

 一応、色々考えて決めた、ウチの店のアピールポイントかな?


 通常、錬成薬ポーションの空き瓶という物は、二束三文の価値しかない。

 瓶を作るのは面倒なわりに、ポーションの種類毎に違う加工をした瓶が必要になるため、回収した所で単純には再利用ができないのだ。

 溶かして作り直せば使えるので、買い取ってはもらえるのだが、正に二束三文なため、大抵の採集者は持ち帰るのを面倒くさがって、その場で捨ててしまう。

 でも、その瓶が自分で作った物なら?

 きちんと印を付けて区別が付くようにしておけば、綺麗に洗浄してそのまま再利用ができる。

 ぶっちゃけ、初級錬成薬ポーションにかかる手間のほとんどは瓶の作製なのだ。

 錬成薬ポーション自体は大きい錬金釜があれば一気に作れるが、瓶は一個ずつ作らないといけない。

 正直、面倒くさい。

 だからこそ、お店に修行に入った見習いに、最初に任されるのがこの瓶作りだとか。

 先輩から届く手紙には『瓶作りばっかり!!』との愚痴が書かれていたし、私もバイトの時は良く作っていた。

 けど、その隣で師匠が私の何倍もの速度で作っていたし、それ以外にも色々やらせてくれたから特に不満は無かったけどね。

 自分の店の瓶のみ買い取るとか、都会なら難しいと思うけど、ここなら買っていくのは村人とこの村を拠点にしている採集者ぐらい。

 つまり、上手くすれば常連になってくれる可能性が高い。

 そこで、この瓶を高く――初級錬成薬の半額ぐらいで買い取れば?

 結果的に半額で錬成薬が使えるのだから、採集者も気軽に使えるし、採集作業も安全になって嬉しい。

 私も面倒な瓶作りから解放されて嬉しい。

 それで多少利益が下がっても、結果的には価値があるんじゃないかな?


「なるほど、そういう事ですか。確かにそれなら、村の人も使いやすくなりますね。瓶を無くす心配も無いですから」

「普通は家で使うからね」

「これはかなり嬉しいですね。今までウチが錬成薬を扱っていたんですが、滅多に使わない病気用の錬成薬も揃えておこうとすると、どうしても高くなってしまいますから」

「あ、もしかして、ロレアちゃんのところの商売敵になっちゃう?」

「いえいえ、まったく。錬成薬ポーションに関しては、完全に利益無しですから。街で買った値段に輸送費だけを上乗せする、村の人向けの完全なサービスです」

 雑貨屋さんは村の中でも稼いでいる方なので、そのくらいは貢献しないとやはりマズいらしい。

 それでもたまに輸送中に破損することもあるので、完全な赤字。

 ウチが売るならそれが必要なくなるので、正直助かるのだとか。

 ちなみに、もう一つの稼ぎ頭ディラルさんのところは、夜の憩いの場を提供しているので、大丈夫らしい。

 う~む、やっぱり村社会って難しいんだねぇ……。

 私も何か考えないと、村八分になっちゃう?

「あ、サラサさんは大丈夫ですよ?」

「そうなの?」

 私が不安そうな顔をしたのに気付いたのか、ロレアちゃんがパタパタと手を振って笑う。

「錬金術師が村にいる、そのことに価値がありますから。安心感、でしょうか」

 おおっ、さすが錬金術師、医者よりも信頼されているだけのことはある。

 実際、そのへんの医療知識も勉強してるからねぇ。

 資格が無くても名乗れる医者とは違って、一定の知識があることは保障されてるんだよ。

「それに錬金術師が稼いでいても妬む人はいませんよ。それが羨ましいなら錬金術師になれ、ってだけですから」

「……ああ、そっか」

 完全実力主義。

 孤児からでもなれる錬金術師は、この国では成功者の代名詞で、一般的には儲けているイメージなのに、妬まれることが驚くほど少ない。

 門戸は開かれているのだから、妬むぐらいなら努力しろと言われるのがオチ。

 孤児から資格を得た人がいる以上、環境が悪いなんて言い訳も許されない。

 それに、病気や怪我の時、錬金術のおかげで助かった人は案外多いのだ。

「でも、実際、錬金術師って、思ったより儲からないんだよ」

「え、そうなんですか!?」

「うん、少なくとも私が昔思っていたほどには。扱う商品が高いからそう思うんだろうけど」

 驚いた表情を浮かべるロレアちゃんだけど、私もそう思って錬金術師を目指したんだから彼女のことは笑えない。

 何万レアもする商品を扱うから儲かっていると思うんだろうけど、実際はそう単純じゃないのだ。

「例えば、ロレアちゃんが高いと言ったあの布」

「はい」

「錬成に失敗すれば、あれが一瞬で無価値になる」

「……え、本当に?」

「うん。失敗したら、素材、使えなくなるから。何万レアかけて準備しても、失敗すればそれが吹っ飛ぶ」

 一度錬成窯に入れた物は、もう二度と分離ができない。

 失敗の度合いにも寄るけど、大抵は廃棄処分となる。

「一〇〇万レアとかする錬成具アーティファクトを作っているときに失敗なんかしたら、シャレにならないよね~」

 しかも、注文を受けておきながら「失敗したので作れません」なんて事は言えるはずも無い。

 新たに素材を買い集め、作らないといけないのだ。

 そもそも、最初に必要な素材を集められるだけの資金が無ければ、注文を受けることすらできない。

「だから、錬金術師はある程度お金を貯めておかないと、首が回らなくなるんだよ」

「はえぇ、そんな夢のある職業じゃないんですねぇ」

「腕が良ければ儲かると思うけど、それは他の職業でも同じだしねぇ」

 それでも、孤児院出身者が人並み以上の稼ぎを出せる職業なのは確かだから、“夢がある”のは間違いないんだけど。

 どうしても孤児となると、就職には不利だから。

 職人や商人もわざわざ孤児を雇わなくても、縁故で採用する方が色々安心というのも解るんだけどね。

「ま、身も蓋もないこと言っちゃうと、初級錬成薬ポーションをチマチマと作っているのが一番堅実に稼げるのかもね。リスクが低いから」

「うわー、なんだかすっごい物を作ってるっていう錬金術師のイメージ、壊れちゃいます」

「あはは、イメージを保ちたいなら、遠くから眺めるぐらいがちょうど良いかもね。凄い物を作るのは大変なんだよ、金銭面でも、リスクの面でも」

 子供(?)の夢をちょっと壊しちゃった気がするけど、理想と現実が違うのはどの職業でも同じ、だよね?


 結局、開店初日の来客数は採集者が数組のみだった。

 あとは、ロレアちゃんと、開店のお祝いを言いに来てくれたエルズさん、村長、それにロレアちゃんの回収に来たマリーさん(ロレアちゃんの母親)のみ。

 売り上げは錬成薬が十数本のみだから、微妙……でもない?

「よく考えたら、一日の利益としてはそう悪くないんだよね」

 ウチで一番安いのは初級傷薬の五〇〇レア。

 ほとんどすべての素材が庭で採取できるため、都会に比べるとかなりのお値打ち品。

 採集者も喜んで買って行ってたし。

 割引制度も説明したら、更に喜んでいた。

「半額で売ったとしても、二〇〇レアは利益があるわけだしねぇ」

 ディラルさんのところでランチを注文すると四〇レア。

 私には十分な量があるし、お酒も飲まないから、追加料金はかからない。

 朝夕の食事は、やっぱりディラルさんの所から買ってきたパンで済ませたり、食べに行ったり。

 お値段も似たような物なので、つまり、初級傷薬一本売れれば一日の生活費は賄える。

 昨日ロレアちゃんに語った内容じゃないけど、これを続けていれば生活は安定するよねぇ。

 まぁ、私はもっと成長したいし、お世話になった孤児院にも仕送りしたいから、頑張って稼ぐつもりだけど。


    ◇    ◇    ◇


 開店して二週間。

 私のお店も程々に売り上げを伸ばし、この村を拠点としている採集者とも、おおよそ顔見知りになっていた。

 提供している割引サービスもかなり好評で、『怪我の不安が無くなった』、『使用金額は増えたが、稼ぎは更に増えた』と喜びのお声を頂いております。

 まぁ、怪我してしまうと、その間仕事ができなくなるから、下手に節約するより錬成薬を使った方がお得なんだよね、実際。

 ただ、安い物じゃないから使用を思い切れるかどうかは普段の稼ぎ次第な所もあり、割引サービスのおかげでそのハードルが下がったんだと思う。

 それに採集品もウチで買い取るようになったため、より多くの物が採集の対象になり、普段の稼ぎも増えている。

 他の町まで日持ちしないような物は、錬金術師がいないと買い取れないからね。

 そして、『採集者向けに』と作って並べたいくつかの錬成具アーティファクトのうち、結構売れているのが、虫除けの錬成具アーティファクト

 二万レアもするから決して安くないんだけど、ウチに来ているほとんどのパーティーが「街で買うより安い!」と買っていった。

 それだけ大樹海の中では虫に悩まされているんだろう。

 まぁ、気持ちは解る。

 学校でも採集実習というカリキュラムがあり、その中では採集の基本的知識や実践も学ぶ。

 つまり、実際に採集に行くわけで、もちろん私も経験したんだけど……正直、しんどかった。

 王都近郊の比較的安全な場所で行われる真似事に過ぎないとはいえ、実際に森に入るから、暑さ、寒さの他、獣や虫にも当然悩まされた。

 引率はいるから危険性は低いんだけど、あれは一種のサバイバルだったね。

 あれを思えば、虫除けの有用性はとても理解できる。

 逆に売れなかったのは明かりの錬成具アーティファクト

 私は便利だと思って作ったのだが、この村の採集者は基本的に日帰りのようで、朝早く出かけて、暗くなる前に戻ってくるのが基本パターンらしい。つまり、明かりは必要ない。

 獲物が豊富だから、わざわざ時間を掛けて奥まで行かなくても稼げるからみたいだけど……本当の希少品はもっと奥にしか無いから、錬金術師としてはちょっと残念かなぁ。

 師匠に送る珍しい素材が手に入りづらいから。

 それに、そういう素材は高く売れるから、上手くやれば採集者としても一攫千金が手にできる。

 まぁ、危険性を無視して煽るのは、無責任だからやるつもりはないけどね。


    ◇    ◇    ◇


「おーい、サラサちゃん、ちょっと良いかい?」

「はい、なんですか?」

 いつものように、カウンターで簡単な作業をしながら店番をしていると、店の前から聞き覚えのある人の声が聞こえてきた。

 手を止めて店から出ると、そこに鎮座していたのは巨大な熊。

 その前に得意げな表情で立っているのは、この村では比較的腕の良い採集者のアンドレさんだった。

「アンドレさん、おかえりなさい。見事なアンガーベアーですね」

「だろう? 比較的近くで斃せたから休まず引きずってきたんだが、買い取ってくれるか?」

 文字通り休まずだったのか、パーティーメンバーの二人は――たしか、ギルさんとグレイさんだったかな?――熊に掛けられたロープを放り出し、その横でへたり込んでいる。

「えぇ、大丈夫ですよ。メインの傷は頭。眼球は一つ潰れてますね。内臓は大丈夫そう。鮮度も……問題無さそうですね。毛皮が少し傷んでいますから、四万三千レアでどうです?」

「マジで!? そんなになるのか!」

 私の提示した額にアンドレさんが声を上げ、へたり込んでいた二人も目を輝かせている。

「はい。これなら私が処理できますから。死亡後一日も経ってないみたいですし」

「うわ~、今まで苦労して斃しても、肉ぐらいしか役に立たなかったのに……」

「中途半端に解体してあると、無価値になることもありますから、難しい獲物ですけどね」

 アンガーベアーの中で一番お金になるのが、心臓、肝臓、眼球の三つ。

 しかし、いずれも下手に取り出すと、使えなくなってしまう。

 今回みたいに全部持ってきてくれれば錬金術師が処理できるけど、アンガーベアーのサイズがサイズだけに、短時間で持ち帰るとかなかなかできないからねぇ。

 一番良いのは錬金術師が採集に行くことだけど……まぁ、ほとんどいないね、そんな奇特な錬金術師は。

 基本、頭脳労働者だからスタミナ、少ないし、危険を冒さなくても稼げる職業だもの。

「四万三千レアかぁ……サラサちゃん、マジでこの村に来てくれてありがとう!」

「いえいえ、こちらも利益がありますから」

 感極まったようにアンドレさん、更にへたり込んでいたギルさんとグレイさんも交互に握手を求めてくる。

 喜んでくれるのは嬉しいんだけど、力が強くてちょっと手が痛い。

 そっと身体強化して、笑顔で耐える。

「それじゃ、お金取ってきますね」

 一度お店の奥に入り、持ってきたお金をアンドレさんに渡すと、満面の笑顔で受け取った彼はそれを握りしめて、声を上げた。

「よっしゃぁぁ! これで今から飲みに行くぞっ!」

「「おうっ!」」

「そいじゃな! サラサちゃん! また頼むな!」

「はい~」

 そんな私の言葉もそこそこに駆けていく男が三人。

 まだ日も高いのに、お酒ですかぁ。

 お祝いだから良いんでしょうけど……私は、急いで処理しないとね。

 せっかく良い状態の物を買ったんだから。

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