エピローグ

 私の地獄はその日から始まりました。

 それは最愛の妹を失ったからではなく、帝国の飼い犬となったからでもありません。聞けばくだらないと思うかもしれませんが、自分が本当に必要とされる喜びを知ってしまった事こそが地獄の始まりだったのです。


 それからの私はと言えば窃盗から用心棒・・・・・・傭兵。

 そして腕が立つ事が広まると国は私を暗部として使う事を決めました。まさに、ろくでもない人生の標本ですし、用心棒や暗部としての事を必要とされる事に含むほど愚かではありません。なのであれ以降で私の人生に私を必要とする馬鹿者は一人しか現れていません。


 それは私が帝国に拾われてから幾日、当時は王子だったこの馬鹿者、カルマのお目付役を命じられた時でした。


 その馬鹿者は出会いがしらの私に自分の名前がない事を知ると笑ってこう言いました。


「じゃあ君は今日からJだ。トランプって知ってる?キングとクイーンを守る人!それがJ君だよ」


 その男と出会うまで、私はただ、悲しく、満たされない生を歩んできた様に思います……そう考えると、私はもう少し彼に優しく接するべきなのかという疑問が浮かび上がりますが......。


『ふっ……まさかですね。あの方にはこれくらいでちょうどいいでしょう』


 自嘲気味に笑った後、妙な事を思うのでした。

 今の私をヘレンが見たらどう思うだろうか……そんな答えのない疑問ですが、答えは案外と容易く思えました。


 多分、常識のない彼女ならば私の手が血にまみれた事より、私に新しい友がいる事を喜んでくれるのじゃないかと思うのです。


 思えば貧相な人生でしたが、土産話には事欠かない人生でした。


『ヘレン、もう少し待っていて下さい』


 私は遠くの空を見ていつか訪れるだろう安息の地を思い、彼女にそれを告げました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る