競争令嬢

ニート

第1話

 あたくしは生まれつきIQが人より高かったらしい。両親はいたって普通だったのだが、知能指数検査では低い数値しか出ないものでも動作性と言語性ともに195を超え、検査によっては両方とも210を大きく超えることもあった。学校の勉強は簡単すぎた。つねに8学年以上上の問題を解いていたがそれでも物足りなかった。運動神経も動作性IQが高いためかかなりのものだったようだ。スポーツは何をやっても人並み以上にできていた。50メートル走は小学校の時に6秒台、高校では5秒台も出したことがある。はじめて鉄棒に触った瞬間にゲイロード(前方二回宙返り懸垂)を決めたりガタイの良い男の教師をスパーリングで20オンスのグローブで失神させたこともある。だから別のことを始めることにした。軽い遊びがてらに始めたレーシングカートである。はじめて走ったコースではいきなりコースレコードを大きく更新するタイムを中古タイヤで簡単に出せてしまったり、ステアリングの遊びが少なく簡単でつまらないものと思っていたのだがやってみるとなかなか奥の深いものだと感じた。地元の連中には同じマシンでも同じ重量や排気量、馬力が大きいカートに乗ってる相手にでもまけることがなくなった。なので世界中のモータースポーツ愛好家たちがこぞってレースしに来るもっとも大きいサーキットで、ワールドカーティングマスターズのジュニア、そして最高峰のクラスに参加して優勝したこともあった。関係者の評価はうなぎのぼりに上昇し始めてスポンサード額は三日で2400円、一週間で2600万円、一月経ったことろには3000億円を突破した。そしてカートレースだけではなく国の大きなレーシングカーレースであるウルトラフォーミュラやナショナルウルトラGTチャンピオンシップにも参加してレース日程の関係であらかじめ棄権したレース以外すべて無敗で優勝することができた。これで晴れてオンラインだけではなくライブでも国の代表としてレーシングドライバーの国際大会代表としてやっていけることになった。モーターレーシングに厳密にはプロというものは世界中探しても基本的にそういった制度がある国はわたしの知る限りほとんどないはずではあるが、運よくこの国にはサーキット走行会などをたしなむ金持ちが大勢いたためそういった貴族階級のインストラクター兼遊び相手としてそれなりの報酬を得られる仕事に就くことまでできた。その縁もあってか王太子とも親しい仲になったことで王族との縁談の話まで決まった。平民出身のわたしが王族と結婚するなど本来ならありえないことであるはずなのだが、カーレーサーの実績によって示したものがそれを覆したとでも言うのだろうか? そんな不可能が可能になったのである。まさにわたしのために至れり尽くせりの国家であることに感謝していた。それがまさかあんなことになるまでは……


 今考えれば当然のことかもしれないのだが、そんな才能一つで上がってきたわたしを妬む上流貴族全員がそう言った下克上を気分よく思ってるわけがなかった。同性の貴族の妬み僻みについては言うまでもないだろう、だがとくにひどかったのは異性の嫉妬だったようだ。男は女より知性が上であって当たり前! そういった古い考え方が今も根強く残っているこの国の貴族社会では女の私が男女混合でこの国のチェッカー界のトップであるという事実を受け入れられるわけがなく、どうにかしてわたしが得た地位を奪いそれだけではなくわたしがもっとも苦しんで死ぬようにするにはどうすれば良いのかを毎日どんな時もずっと考えていたらしい。いくらわたしがチェッカーが強いと言っても人間の嫉妬心というものはことさら複雑だ、とくに私のような家柄こそ良くなかったものの小さなころから思ったことは何でもできて誰にも何でも負けることはなく、挫折や劣等感を感じたことなど一度もなかったのだから……


 国は同じ貴族たちが統治する国内のモータースポーツ協会とグルになってわたしを潰す政略を水面下で着々と進めていたのである。しかし私がそれを知るはずもなかった。この国を代表してモーターレーシングを通じ、他国と代理戦争し勝つことがあたくしに課せられた唯一無二にして絶対である使命だと信じて疑わなかったのだから……。

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