第35話:結局

「クリスマスって何するんだ?」


 下校途中、樹は一条にそう尋ねた。

 いつもは家族で少し豪華な料理を家で食べていたのだが、友達と一緒のクリスマスが初めての樹はそう尋ねたのである。


「それは──ダブルデートだ」

「……は? 今なんて?」

「俺と結花、樹と天宮さんでのダブルデートだ」

「………………はぁぁぁぁぁぁ!?」


 驚き叫ぶ樹へと、通りを歩く人達から視線を集めていた。それに気づいた樹は、すみません、と謝罪をし、一条を問い詰める。


「おい。どういうことだ? 説明してくれるんだよな?」


 一条に詰め寄る樹。その顔は笑ってはいるのだが、目だけが笑っていなかった。


「そ、それはだな」


 一条は慌てて説明を始めた。


「樹と天宮さんの関係を深めさせようと思って」

「つまりは?」

「告白させようと……だって好きなんだよね?」

「……それは否定しないが」

「だったらいいじゃないか。雰囲気は俺と結花で作る。だから──」

「結構だ」

「……え?」


 樹の予想外な回答に、一条はそんな声を漏らした。

 一条にとっては二人の焦れったい関係から、上手くクリスマスを利用して恋人という関係にさせようと思っていたのだ。


「告白するかしないかは自分が決めることであって、一条、お前が決める事ではない。それだけは分かって欲しい」

「……分かったよ。それとごめん」

「気にするな。一条だって俺のためにしてくれたんだ。礼を言うのはこっちの方だよ」

「ハハッ、流石樹だな」


 相変わらずの樹に一条は笑った。


(焦れったい二人の恋愛を見守るのも悪くないかな)


「なら俺と結花は見守る事にするよ」

「悪いな。それと、やっぱりクリスマスは断らせてもらう」

「……分かってるよ。悪いのはこっちなんだから」


 一条は樹に頭を下げる。


「やめてくれ。友達だろ」

「……分かったよ。本当に悪い」

「別にいいって、じゃあな」

「また明日学校で」

「おう」


 樹と一条は各々の帰路で帰るのだった。


 樹と一条が話していたその頃、朝比奈と天宮の方はと言うと。


「あの、一条さんと帰らなくて良かったのですか?」

「いいのいいの! あっちあっちで話があったみたいだし」

「そうだったのですか」


 気にしないでと手を振った朝比奈。


「それでつっきーとはどうなの?」

「……ふぇ!? そ、その言ってる意味が──」

「進展はあったのかってことだよ」

「……」


 顔を少し赤くしながら押し黙る天宮に、朝比奈はないと分かり続けた。


「今回誘ったクリスマスはね、つっきーを入れたダブルデートなんだよ」

「だ、ダブルデートですか!? 聞いてませんよ!」


 バッと朝比奈の方を振り向いた天宮。朝比奈はイタズラが成功したような小悪魔の笑みを浮かべていた。


「そこで上手く二人を付き合わせられればな~なんて」

「桐生さんと……それってつまりこ、恋人……」


 樹と付き合った事を想像した天宮は、顔を一気に真っ赤にさせてしまった。

 そんな天宮をニヤニヤと見て。


「上手くいけばつっきーから告白されるかもね」

「こ、告白って……! でも桐生さんが私の事好きだとは……」


 樹が自分のことを好きだと言う確証はない。


「すみません。クリスマスのお誘いは断らせていただきます」


 立ち止まり頭を下げる天宮。


「どうして?」

「それは──」


 天宮は一拍間を置いて口を開く。


「告白とかは他人に協力してもらった方が良いのかもしれません。ですが私は今の関係でも十分なんです。それに……告白まだ早い気がします」

「……そっか。まっしーの気持ちは分かったよ。ならダブルデートは二人が付き合ってからって事で」

「ダブルデートは分かりませんが、すこし頑張って見ようと思います」


 天宮は他人の力を借りることを断った。

 言った通り、協力してもらった方が良いのかもしれない。だけど天宮は、樹との関係を告白と言う形で壊したく無かった。


「うん。応援してるから!」

「ありがとうございます」

「それじゃまっしーまた明日ね!」

「はい。また明日学校で」


 こうして樹と天宮のクリスマス予定は無くなったのであった。



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