第36話:公園で

 樹が家に帰る途中の公園に立ち寄ろうとして遭遇した。


「「あっ……」」


 声が重なり目が合った。

 その相手は──


「天宮……」

「桐生さん……」


 天宮であった。どうしようか悩んでいたが、立っているのも疲れるので、お互いベンチに座ることにした。

 樹は取り敢えずココアを天宮に手渡した。


「ありがとうございます」

「おう」


 何を話そうか。そう思っていた樹と天宮は口を開いた。


「あの」

「あのさ」

「「あっ……」」


 言葉が重なった。


「……先にどうぞ」

「……天宮こそ」

「いえ。桐生さんこそ先に」

「いや、俺は後でいいよ」


 どちらも先を譲るのだが、途中で可笑しくなり笑う。


「あははっ!」

「ふふっ」


 ひとしきり笑った二人。最初に口を開いたのは樹であった。


「結局一条が誘ってくれたクリスマス、さっき断ったんだ」

「……え?」


 樹の言葉に、天宮は驚きを顕にそう口を開いた。

 まさか自分と同じく断るとは思っていなかったのだ。

 天宮も、実は私も同じなんです、と答えた。


 樹も予想外だったのか、驚いた表情で天宮を見た。


「クリスマス、暇になっちまったな……」

「ですね……」


 何となくに空を見上げる二人。

 日が傾き辺りは暗くなり始め、街頭が付き始めた。

 静寂が公園を包み込む。聞こえるのは生活音と虫の鳴き声だけであった。


「「あの(さ)」」


 再び重なる声。


「桐生さん先にどうぞ」

「……わかった」


 譲り合いは先程もして面倒になったので、先に話すことにした樹。


「天宮さえ良かったらだが、クリスマス一緒にいないか?」


 樹の問に天宮は驚いた表情をしていた。

 正しく同じ問を樹にしようとしていたのだから。


「私も同じことを聞こうと思っていたいたところです」


 ふふっと笑う天宮に、樹の頬は若干紅く紅潮した。

 天宮の蜂蜜色の髪の毛が風によってキラキラと靡いた。甘い香りが樹の鼻腔をくすぶる。


 顔が赤くなったのを誤魔化すかのように樹は口を開いた。


「な、なら家で料理でも作ってゆっくりしようか。クリスマスは寒いからな」

「ですね」

「なら予定は後で決めるとするか」

「はい」


 それから天宮を送って行った樹は家に帰るのであった。


 ──翌日。


 樹が学校に到着すると一条がおり目が合った。こちらに寄ってきた一条は樹の肩に腕を回して耳元で囁いた。


「天宮さんもクリスマス断ったらしいぞ?」

「……知ってるし。てか昨日帰りにたまたま会って聞いたよ」

「そうかそうか。あとはそちらで任せるよ」

「ありがとよ」


 こうして席に着いた樹は天宮と目が合い挨拶を済ませる。


 それから授業が始まり思い出した事があった。


(天宮の誕生日っていつだ?)


 ふとそんな事を思い出した。

 過ぎていなければ日頃の感謝を込めて、プレゼントを渡そうと考えていた。


(朝比奈に頼んでみるか……)


 本人に聞くなんて出来なので、そこは朝比奈の方が良いだろうと思い至ったのだ。

 そうと決まれば実行あるのみだ。


 樹は机の下で朝比奈にメッセージを送るのであった。



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