第32話:不安

 ──翌日。


 昨夜はなんの展開もなくいつもと変わらぬ日々。

 樹と天宮は共に学校に向かっていた。


「学校で一条と朝比奈になんて言われるのか……」

「広まっていないと思うのですが……」


 あの二人だ。そんな事しないと分かっているが、少し心配になる二人。


「「不安だ(です)……」」


 不安で仕方がない。広まっているかではなく、ちょっかい出されないか、からかわれないかである。


 樹と天宮の二人は、一条よりも朝比奈の方が不安なのである。


「「はぁ……」」


 同時にため息をつく二人であった。


 学校に着きバラバラに教室に入る。

 最初に天宮が入り樹は遅れてから。それがお決まりになっていた。


 樹が教室に入り席に着いた途端、一条が話しかけてきた。


(予想通りか……)


「おはよう樹。あれからどうだった? 進展は?」

「おはよう一条。それと俺にそんな期待をするな」

「……マジで?」

「……マジだ」


 信じられん、とでも言いたげに目を見開いた表情でこちらを見る一条。そこに先程まで天宮と話していた朝比奈がやってきた。


 天宮の方を向くと若干顔を赤くして俯いていた。

 目が合ったが逸らされた。


(……どうしたんだ?)


「つっきーおはよう!」

「おはよう。相変わらず朝から元気だな」

「当たり前だよ! なんつったって元気だけが取り柄だからね!」

「そうかいそうかい」


 朝比奈は樹の耳元で、一条に聞こえるくらいの声量で告げた。


「それで? まっしーとは進展無かったんだ」

「ちょっ、お前なんでそれを知って──」


 一条と目が合いウィンクされた。


「お前か!?」

「だってなぁ?」

「傍から見ていても丸わかりだよ?」

「朝比奈、お前……」


 ガックシと項垂れる樹。


「意気地無し!」

「ヘタレめ」

「酷い……」


 そこまで言うか、と二人に言いたいが、確かにヘタレだとは思うので言い返せないでいた。


「まあ、頑張れよ」

「応援してるね!」


 ばいば~い、と言って朝比奈は他のグループの所に行ってしまった。


「一条……」

「どうした?」

「いや、何でもない」

「? そうか」


 少ししてチャイムが鳴った。全員が席に着きホームルームが始まるのであった。


 放課後。樹は一条と帰っていた。


「珍しいな。朝比奈と一緒じゃないのは」

「ああ、その事か。結花なら天宮さんと帰るみたいだ」

「天宮と?」

「なんか話したい事があるのだとか」

「……不安だ」


 主に樹の気持ちをバラされるかと。

 そんな事を思っていると、一条は樹の肩に手を置いて。


「大丈夫だよ。結花はそんな事はしないから」

「そうか」

「そうだ。久しぶりにゲーセン行かないか?」

「行くか」


 たまにはそんな帰りも良いだろう。

 そして近場のゲームセンターに着いた樹と一条は、ある二人と遭遇した。

 その二人とは──


「あっ! つっちーとつっきーだ!」

「結花、それに天宮さんも」


 天宮と朝比奈であった。


「二人もゲームセンターに?」

「そうそう! 行ったこと無いって言うから」

「そうだったのか。こっちはたまには二人ってのも悪くないなって思っていたが……」

「そうだったんだ」


 樹と天宮も目が合う。


「来たこと無かったのか」

「はい。こういう所は苦手で」

「なるほどね。なら初めてなのか」

「はい」


 静かだなと思い、天宮と樹は顔を向けると。

 一条と朝比奈がニヤニヤしていた。


「な、なんだよ?」

「いや、二人で楽しんでくれば~?」

「そうだよ。私とつっちーは二人で楽しんでくるから」

「お前ら……」

「うっちー早く行こー!」

「おう」


 先に中に入って行ってしまう二人。

 しばしの間無言になり。


「俺達も行くか……」

「ですね……」


 ゲームセンターの中に入るのであった。

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