第31話:再び桐生家での食事

 電車に揺られること一時間と少し、樹と天宮の二人は無事に駅へと到着した。


「はぁ……」

「桐生さん?」


 樹のため息に天宮が反応した。


「いや、母さん達に根掘り葉掘り聞かれると思うと……」

「あ、アハハ……」


 それを聞いて苦笑いする天宮であったが、とうとう桐生家へと到着した。

 玄関へと向かい扉に手をかけ──開けた。


「ただいま~」

「お邪魔します」


 そう言って家の中に入ると、リビングに続く扉が開き楓が出てきた。


「おかえり真白ちゃん! ゆっくりしていって」

「おかえり天宮さん。いらっしゃい」

「おかえり天宮さん。ゆっくりしていってよ」


 続けて東、菜月と帰宅した樹と天宮に声をかけた。

 ふと東が樹を見ると、プルプルと震えていた。


「どうした樹?」

「……お前ら息子に対する言葉はないのか!? なんで天宮だけなんだ……」

「「「可愛いから」」」

「即答かよ!? しかも理由になってないのだが!?」

「ふふっ」


 樹のツッコミに笑み浮かべ笑う天宮は思った。


(やっぱり桐生さんの家族は心が温まります)


 養子である天宮にとって、家族の温もりはないに等しかった。今の両親から冷たくされていた。そんな天宮には、この桐生家の温もりは羨ましかった。


「さて、玄関も冷えるから上がりなさい」

「お邪魔します」


 二人は上がってリビングに入ると、料理の匂いが充満していた。

 それからみんなが席に着き夕飯を食べ始めた。


 今日の事を談笑しながら食べていると、菜月が聞いてきた。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「結局のところデートはどうだった?」

「「ッ!?」」


 菜月の言葉に顔を赤くする樹と天宮。

 それだけで分かったのか、菜月を含め東と楓の三人は、ふ~ん、と意味深げに笑みを浮かべグッドサインを樹と天宮に向けた。

 恥ずかしくなる二人。


「さて、いいこと聞いたしさっさと食べよ~っと」

「そうね」

「ああ」


 顔が真っ赤な二人を放置して食べ始め、樹と天宮の二人も食べ始めるのだった。


 夕食を食べ終わり、天宮は前回同様に楓と共にあと片付けを手伝った。

 片付けが終わり、みんなでお茶を飲みゆっくりしていた。


「あの、そろそろおいとまさせていただきます」

「あら、もうそんな時間なのね」


 時計を確認した楓がそう呟いた。時計の針は二十時半を過ぎていた。

 帰る支度をして玄関に向かう天宮に樹は声をかける。


「家まで送って行く」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」


 天宮は素直にお礼を言った。

 樹も元々一人で帰らせるつもりは無かったし、そもそも楓達が天宮を一人で帰らせるつもりはないからである。


 玄関で靴を履いた天宮は振り返り頭を下げた。


「ご馳走様でした。楓さんの作る料理美味しかったです」

「あら嬉しいわ~」


 頬に手を当てて喜ぶ楓。


「天宮さんまた今度来てね! それか私が天宮さんの家に行くから!」

「はい。是非いらしてください」

「やったぁ!」


 菜月は喜び花が咲いたかのような、満面の笑みを浮かべた。


「天宮さん。いつでも家に来てくれて構わないからな」

「東さんありがとうございます」


 一通り礼を伝えた天宮。


「それじゃ送って行くよ」

「気を付けなさいよ~。それとファイトよ樹!」

「頑張れ樹!」

「お兄ちゃん頑張って!」

「……何に対してかは聞かないでおく」

「それではお邪魔しました」


 こうして二人は家を出るのだった。







 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る