第30話:秩父神社と帰り道
秩父神社へと向かっている最中、天宮は樹に尋ねた。
「あの、一条さんと何を話していたのですか?」
「い、いや、大した事は話してないよ。ただ、秩父神社はいい所だからよく見て行けって」
多少動揺はしたものの、自然体で答えられた。
恋愛の話なんて言えるわけがない。
「……そうだったのですか」
「そっちは?」
樹の質問にビクッとする天宮。
「こ、こここっちもそちらとは同じ感じ、でしたよ」
天宮は滅茶苦茶動揺していたが、樹は敢えて聞かない事にする。聞いてはいけない気がしたからである。
二人は歩き秩父神社へと到着し、鳥居から真っ直ぐに拝殿が見えた。
「寶登山神社と見比べてると小さく感じてしまいますね」
「だな。でも埼玉県の有形文化財に指定されているだけはあるよ」
「はい。色鮮やかですよね」
「秩父夜祭も行ってみたいな~」
「日本三大曳山祭の一つですよね」
「そうそう。機会があればだな」
「そうですね」
毎年12月3日に行われる例祭は、『秩父夜祭』として国の重要無形民俗文化財と重要有形民俗文化財に指定され、京都の祇園祭、飛騨高山祭と共に日本三大曳山祭のひとつに数えられている祭りなのだ。
「早く行きましょう」
行けたらいいなぁ~、と思っていたら、天宮が樹の手を引いて歩きだした。
(や、柔らかい……じゃなくて!)
つい手の感触に釣られそうになったが、余計な邪念は振り払い口を開いた。
「お、おい天宮」
「はい?」
「……手」
「手?」
そう呟いて視線を自身の手を見ると──樹の手を繋いでいた。ボンッと赤く染まる天宮。
「す、すすすみません!」
「いや、俺は別にいんだ」
「……ふぇ?」
疑問符を頭に浮かべる天宮に、樹は恥ずかしながらも頬をポリポリと掻く。
「い、いや、なんでもない」
「そうですか?」
「ああ。それよりも早く見て回ろうか」
「はい」
二人は神社を参拝した。
参拝を終えた樹と天宮は、秩父神社を後にして駅へと向かった。
雑談をしているとすぐに駅へと着いた。丁度の時間で電車も到着し二人は乗り込んだ。
電車に揺られながら今日の出来事を話していた。
「ま、まさか一条と朝比奈がいるとは思わなかったな」
「ですね……」
そのことを思い出した樹と天宮の二人は遠い目をしていた。そして一条と朝比奈に言われた事を思い出したのか、二人は顔を赤くする。
樹のケータイのバイブレーションがし確認する。
どうやら楓からのメールであった。内容を確認すると、夕飯食べないで帰って来るなら家で食べていけば、との連絡であった。
「そ、そう言えば夕飯はどうする? さっき母さんが家で食べて行かないかって」
「え? いいのですか?」
「ああ。それに菜月だって喜ぶからな。まあ、みんな大歓迎だけどね」
そう言って苦笑いを浮かべた樹。天宮は迷い少しして口を開いた。
「それではお邪魔いたします」
「おう」
楓に天宮が家で食べていくことを伝えた。
すぐに返信が来た。菜月が楽しみにしているようだ。
そんなこんなで樹と天宮の二人は雑談を交え、家に帰るのであった。
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