第21話:聖女様からのお詫び料理

 その日の放課後。

 天宮からメールがあり、今日のお詫びをしたいからと家に誘われた。

 もちろんお詫びなんて要らない樹なのだが、天宮からの厚意を有難く受け取ることにした。


 そんなこんなで樹は公園でコーヒーを飲みながら待っていた。その間に樹は家に電話し夕飯を要らないと伝えた。


「すみません、お待たせしました」


 丁度コーヒーを飲み終わったタイミングで天宮がやってきた。


「いや、気にするな」


 樹は飲み終わった缶をゴミ箱に捨て、天宮と共にマンションへと向かった。

 マンションに着き中に入る。


「今日は危ない所を助けて頂きありがとうございます。そのせいで桐生さんが怪我を……」


 天宮は頭を下げ樹に感謝を伝えた謝った。

 樹は思いのほか大丈夫だったので、そこまで心配してもらう必要はなかった。

 だが、助けられた天宮からしては、感謝してもしきれないでいた。

 だから今回のような形になったのだ。


「気にすんなって。まだ少したんこぶになってるだけだから。明日くらいには治るよ」

「でも……」


 樹は照れ隠しか頭を掻きながら天宮に。なら、と口を開いた。


「今日は美味い飯を作ってくれよ。それで俺は充分だから」

「……わかり、ました。桐生さんがそれでいいと言うなら」

「おう。天宮の手料理は美味いからな。最高に美味いのを頼む」

「ありがとうございます。では、桐生さんは座って待っていて下さい」

「そうさせてもらうよ」


 ここで樹も手伝うと言ったら天宮は反対するだろう。

 なのでここは天宮に任せることにした。


 それからエプロンを付けた天宮はキッチンに向かった。

 その間、樹は天宮を見ていた。

 別にいやらしい目で見ているわけではなく、料理を作る天宮を見ているだけである。


 そんな樹の視線に天宮は気づいたようだ。


「あの、桐生さん。そ、その……」

「どうした?」

「その、あまりジロジロと見られると、えっと、その……恥ずかしいです」


 そう言った天宮は顔を一気に真っ赤に染めた。


「~~~ッ!!」


 樹も天宮の恥じる姿を見て顔を真っ赤にする。


(か、可愛い……)


 聖女様が恥じらう姿はとても可愛らしかった。

 恥じらう天宮に樹は急いで謝る。

 もう少し見ていたかったが、これ以上は可哀想な気がしてきたのだ。


「悪い。そんなつもりは無かったんだ」

「そ、そうですか……」


 天宮は料理を続け、樹はソファーに背をかけてくつろぐ。少しすると良い匂いが樹の鼻腔をくすぐり、ギュルルル~っと腹を鳴らす。


「腹減った……」


 天宮が作る料理は絶品なので余計にお腹が空いてしまうのだ。ちょっとした飯テロである。


「そろそろ出来ますから待って下さいね」


 天宮はそう言って微笑んだ。

 樹は、聞こえてたのか、と頬を掻きながら小さく呟いた。

 少しして天宮が料理を運んできた。


「手伝うよ」

「……ありがとうございます」


 手伝ってもらうか悩んだ天宮だったが、断っても手伝うのだろうと思い礼を述べた。

 席に着いた樹と天宮。


「これは……」

「はい。ハンバーグにしてみました。自信作ですよ?」


 天宮の自信作と言う言葉に、樹はゴクリと唾を飲み込んだ。

 漂う匂い。


「この匂い……我慢できない。早速だが」

「はい」

「「いただきす」」


 樹はハンバーグを一口サイズに箸で切った。

 そこで樹は驚くことに。


「まさか……チーズ入り!?」

「えっと、チーズは嫌いでしたか?」

「まさか! チーズインハンバーグはさらに大好きだ!」


 そう。ハンバーグを切った瞬間、肉汁と共にチーズがとろ~っと流れていたのだ。

 いても経ってもいられなかった樹は、チーズとデミグラスソースを絡めてから口に運んだ。


「──ッ!?」


 樹は感動した。これぞ肉の爆弾。噛み締める事に肉汁が溢れ出してくる。これほどのハンバーグに樹は出会ったことが無かった。


「──美味い!!」


 ゆっくりと味わい飲み込んだ樹は、天宮の目を見てそう口を開いた。


「ありがとうございます。その、お詫びになったのでしょうか?」

「これはお詫び以上だ。ハンバーグに感動するなんて初めて食べた以来だ」

「良かったです」


 天宮は樹に助けてくれたお詫びが出来てホッとするのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る