第20話:樹のナイスプレー

 天宮とデートの打ち合わせをした翌日の学校。


「樹、次は体育だぞ」

「うげ……まじか」


 一条のその発言に樹は嫌な顔をする。

 樹は体育が苦手だ。というよりも運動が苦手なのだ。

 動けば疲れるからだ。バスケとかならまだ大丈夫だったのだが、声を漏らしたのには訳があった。

 それは──


「走りたくない……」

「ははっ……樹は体力がないからな」


 体育の時間ずっと走るからだ。

 今日は体育の教師が不在なので、自習として走るだけなのだから。

 そんな樹の言葉に苦笑いする一条。


 体操着に着替えて校庭へと向かう。

 寒いので上下ジャージを着ている樹に対して、一条は下ジャージを穿いて上は半袖の格好であった。



「一条は寒くないのか?」

「寒いが走れば熱くなるからな」

「それはご最もで」


 確かに一条の言う通り、運動することによって代謝が上がって体が熱くなるだろう。


 授業が始まり走りだした。

 男女共同授業なのだが、女子の方が走る距離は少ない。


「樹それじゃ俺は先に行くよ」

「ああ。頑張ってくれ。俺はゆっくり走ってるから」

「おう」


 一条はそう言って先に行ってしまった。

 樹は一人でゆっくりはしているのだが、最初にスタートした女子が樹を抜かして行く。


 その先頭を走っていた女子が天宮であった。

 一緒だけ目が合い微笑み先に行ってしまった。


「あれ、バカにはされてないよな?」


 そんな勘違いをする樹であった。



「はぁ、はぁ、はぁ……」

「樹は疲れすぎじゃないか?」

「しょうが、ないだろ……運動は苦手、なんだよ」

「そうかそうか。ならこれでも飲めって」


 一条は自販機で売っていたスポーツドリンクを手渡した。


「サンキュー」

「別に構わないよ」


 ニッと笑みを浮かべる一条。

 そのイケメンスマイルに樹は、このイケメンめ、と小さく愚痴を零した。


 そんなこんなで体育の授業が終わり一同は教室に戻った。

 午前中の体育の授業であったためか、樹の腹がぐぅ~と音を立てた。


「丁度昼休みだし飯買いに購買でも行くか」


 席を立ち上がった樹は購買に向かった。

 その途中の階段で、友達と話しながら階段を上る天宮とすれ違う。一瞬目が合い微笑まれるだけ。

 学校で話したら良からぬ噂が広まったりするからでもある。

 

「あっ」


 樹が振り返り天宮の背中を見たその時、天宮が階段を踏み外して樹の方へと落ちてきた。


「天宮さん!!」


 一緒に話していた天宮の友達が声を上げたが、彼女では間に合わない。


「危ないっ!」


 天宮が階段を登りきる直前で足を踏み外したのだ。

 下に落ちれば怪我は確実にするだろう。

 樹は無意識に体が動いていた。


 天宮を守るよう両腕で抱きしめそのまま転がり落ちた。何度も階段を転がり落ちる衝撃が樹を襲った。


「うぐっ!」


 衝撃が収まり目を開いた樹。その樹の目の前にはギュッと目を瞑っていた天宮の顔が。


「もう目を開けても大丈夫だぞ天宮」

「……ふぇ?」


 天宮との顔の距離は握りこぶし二つ分の距離だ。

 お互い顔が赤くなるも天宮は樹が庇ってくれた事を思い出し慌てて口を開いた。


「そうでした! 桐生さん大丈夫ですか!? 私のせいで!」

「気にするなって。それより、俺の上からどいてくれると助かるんだが。このままじゃ起き上がれない」

「ご、ごめんなさい!」


 慌ててどいた天宮。そこに天宮と一緒にいた女子も慌てて降りてきた。その女子は、同じクラスの陽ノ下 茜ひのもと あかねである。


「天宮さんに桐生くんも大丈夫!?」

「ああ何とか。所々痛いけどね」

「私は桐生かんのおかげで……」

「桐生くん、保健室連れていこうか?」

「いや、大丈夫だよ」


 そう言って立ち上がった樹だったのだが──


「痛っ」


 樹は頭を抑えた。どうやら少し打ったようだ。


「だ、大丈夫ですか!? 取り敢えず保健室に」

「だ、大丈夫だって」

「ダメだよ桐生くん。折角天宮さんが心配してるんだから見てもらってきなよ。先生には私から報告しとくから」

「はぁ……分かった。そうするよ」


 樹と天宮の二人は保健室に向かうことにした。

 その途中で天宮は樹に謝った。


「ごめんなさい。私のせいで怪我を」

「だから気にしてないって。それに天宮が怪我するよりは俺が怪我した方がマシだからな」

「そんな……私なんて」

「そう卑下するなよ。ほらもう保健室着いたし」


 失礼しまーす、と言って中に入ると、保健室には誰もいなかった。

 机には出張中とのこと。


「では変わりに私が。桐生さん椅子に座って下さい」

「……」

「座って下さい」

「……はい」


 断れなさそうだったので座ることにする。

 そこから頭の痛い箇所を聞かれ天宮に見てもらうと、たんこぶになっていたようだ。


「氷で冷やしましょうか」


 そう言って天宮は保健室の冷凍庫から氷を取り出し袋に入れた。それを樹に手渡す。


「これで痛む所を冷やして下さい」

「ありがとう」


 素直に感謝を述べた樹に天宮は微笑み、どういたしまして、と言葉を返したのだった。


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