第17話:帰り道
「すみません。家族で楽しい買い物をお邪魔したみたいで」
戻った樹と天宮だったが、戻って直ぐに天宮は楓と東、菜月へと頭を下げた。
そんな天宮に目を見開いて驚く三人だったが、天宮の性格を分かってか、直ぐに優しい笑みを浮かべて口を開いた。
「気にすることないわよ。真白ちゃんだもん」
「そうだぞ。困っているなら助けるのは男の役目だからな」
「天宮さんのためならみんなで助けるよ!」
三者三様の言葉に、天宮は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「そうだ真白ちゃん」
「……はい?」
楓の言葉に天宮は頭を上げて見ると、二枚のチケットがあった。
「良かったら樹と行ってきたらどう?」
「え? あの、これって……」
戸惑う天宮だったが、楓は続けて口を開いた。
「丁度クジで当ててねを秋の紅葉ペアチケット。二人で行ってきたら?」
「そ、そんな悪いですって!」
両方の手の平を顔の前でブンブンと振る天宮。
そんな天宮の顔はどことなく赤くなっていた。
「いいのよ。若いお二人で楽しんで来なさい。場所は秩父みたいで県内だし。行ってきたら?」
楓は樹を見てウィンクをした。
(ナイスでしょ? とか思ってるな……)
「でも……」
「行ってきたらどうだ?」
「そうだよ! 楽しんできなって!」
そう言って東と菜月は樹をチラッと見て──ウィンクした。
見たくもなかった。菜月の場合は可愛いからいいものの、東のウィンクなんて見たくもなかった樹。
天宮を見るとこちらを見てどうするかを迷っているようだった。
「俺は構わないよ。後は天宮がどうするかだ」
「……わかりました。有難く頂きます」
天宮は楓からチケットを一枚受け取った。
「ありがとうございます」
「楽しんできなさい」
「はい」
楓は残りの一枚を樹に渡す。
「変な事はしないのよ?」
「それが息子に対しての言い方か!? まあ、ありがとう」
お互いチケットを仕舞った所で樹と天宮の目が合った。ふふっと笑う天宮に、樹は頬を紅く紅潮させた。
「あらあら~、ここは若いお二人でどうぞ。私たちは先に帰るわ」
「天宮さんをしっかり家まで送っていけよ樹?」
「お兄ちゃんと天宮さんばいば~い!」
「え? は? ちょっお前ら!」
「真白ちゃんもまたね~」
「え? は、はい。ありがとうございました」
手を振って帰る楓達に天宮は力なく手を振り返した。
樹を置いて帰る家族の背中を無言で見つめる樹。天宮も同様に無言で見つめていた。
嵐のような一時が過ぎた樹と天宮の二人には気まづい空気が流れた。
「あ、あの」
「あ、あのさ」
樹と天宮の声が重なった。
「天宮から」
「いえいえ。桐生さんからどうぞ」
「「…………」」
「……帰るか」
「……ですね」
二人はショッピングモールを出るため歩く。
ショッピングモールを出た帰り道、樹は天宮に聞いてみた。
「よくスカウトされるのか?」
「はい。いつも断っているのですが、さっきのような人は初めてでした。樹さんが来てくれて助かりました」
「そうだったのか……天宮さえ良ければだが買い物とかなら付き合うけど?」
樹の発言に天宮は「それは、その、どういう意味ですか?」と尋ね返した。
「一人で行ってそういうことがあるなら、俺を男避けとかスカウト避けとして使っていいってことだ」
これは紛れもない本音である。
「悪いですよ。桐生さんにも迷惑はかけられません」
断ることを樹は予想していた。
だが、困っているのだから見過ごせない。それは、祖父との約束でもあるのだから。
「言ったろ? 爺ちゃんとの約束だって。俺は爺ちゃんを裏切るような真似は出来ないししたくはない」
「……分かりました。でもスーパーとかは大丈夫です。こういった大きなショッピングモールの時はお願いします」
立ち止まり樹に頭を下げる天宮に、樹は胸を張って応えた。
「おう。任せろ」
「はい。お願いします」
そう言って頭を上げた天宮の顔は、朱色に染まっていた。こうして二人は家に帰るのだった。
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