第18話 魔術を教わる
3人揃ってまずはリティカの一番の得意魔術、石魔術を教わっている。ルピアは流石はおれとヴェストよりもずっと早く弟子入りしていたおかげでめちゃくちゃ上手い。
ルピアの周りにはふわふわといくつも石が浮いている。
そして遂に。
「出来た......出来たぞ! あっ......」
一瞬だけ出来たと思ったら、あっという間に霧散してしまった。でも、一歩前進と言っていいだろう。ヴェストが。
「リティカ! 見てた!?」
「おー見てた見てたやるじゃん」
言ってるリティカは石魔術で魔獣の彫刻を作っている。ヴェストのことなんて一瞥もくれていない。
「見てねえじゃん!」
ブーたれつつ再び土魔術に集中するヴェスト。
かく言うおれはと言うと、土魔術の授業が始まって三日、一度たりとも成功していない。
ようし、今度こそ!
と、手先に集中する。
手から魔術を放出し、まずは石の形に魔力を集める。そして魔力の粒子一個一個、いわゆる魔素だ。これらの形を変えることで魔術を出せる。
「ふん!」
力任せに魔術を行使する。
ピカッと光る。
ホイ来た!
——ひのきのぼうが出た!——
ってまたかよ。
「相変わらず魔力の量と質は段違いだけど、上手くいかないね」
ルピアがそう言う。
「お前ならさっさとできるようになると思ったけど、意外と苦戦してるよな」
今度はヴェストだ。
「大丈夫、次は成功するから」
そう啖呵を切って、再び魔力を練る、......練る......練る!
——ひのきのぼうがたくさん出た!——
ひのきのぼうは一瞬だけその場に留まり、落ちる。カランという音が実に虚しく響く。
おれはガックリと肩を落とした。
「ねえベン、これ動かせないの?」
ルピアが地面に転がったひのきのぼうを手に取り、ブンブン踊るように振り回しながらそう尋ねる。
おれは首を横に振る。
「ムリ、出せるだけなんだよね」
「出せるだけ? でもこないだ私のキック止めたじゃん」
「うん。これ出たら一瞬だけその場を動かないんだ」
「ふーんそれ絶対に動かせないの?」
「え? あーどうだろうね」
そういえばわからない。試したことがないしな。でも魔獣の攻撃も止めたしなそれなりの防御力はあると、思う......。
「試してみようぜ」
ヴェストが手をポキポキと鳴らすフリをした。音は一切鳴ってない。
「ベン、棒出して。おれが動かしてみるから」
「おっけ」
ヴェストが構える。
目の前にパッとひのきのぼうを出してやる。
「おらあ!」
ヴェストが現れたひのきのぼうにアッパーを見舞う。微動だにしないひのきのぼう。
「いいったあ!」
悲鳴を上げて転がるヴェスト。ふっ、出直してこい。
「私もやる!」
ちょっと待って、と言いながらルピアが短剣を抜き放った。剣を口元に寄せて何事が呟く。それからルピアは魔力を短剣に集中させた。おいおい、ガチじゃん......。
「よし、出して」
「はいはい」
ひのきのぼうを出す。
ルピアがサッと短剣を振り下ろした。バキィっと甲高い音がした。それからルピアは短剣を取り落とした。
「ビクともしない......」
ルピアは痛むのか、利き腕を抑えた。
にしてもここまでやっても動かないとは。いよいよどうやっても動かないんじゃないか? ふふふ。
「なあリティカ! リティカもやってみろよ!」
「え、やだよ」
「なんでだよ」
「失敗して師匠の威厳消えんじゃん」
「失敗するの前提にしてる時点で威厳消えたよ」
「それにそれを動かすのはちょっとムリだよ」
「なんで?」
「なんでも」
ヴェストが納得いかないという顔を浮かべた。
「ヴェスト、師匠はそうなったら追求するだけ無駄だから」
「師匠はこれについてなんかわかるんですか?」
おれがそう聞くと、リティカがこっちを見た。
「自分で気づきなさい。と言いたいけどまあいいか。ベンのそれは固有魔術だね」
「固有魔術? なんですかそれ」
疑問をおれより先にルピアが聞く。
「魔素はね、人それぞれ形が異なるんだ。人だけじゃない、魔素を纏うもの全てが。形が異なるからこそ、得意な魔術も人それぞれだ。例えば、俺は土魔術が得意だ。これは俺の魔素の形が土の魔素と形が近かったからなんだよ」
「じゃあ、おれが棒切れを出せるのって魔素の形が棒切れの魔素に近いからってことですか」
「その通り。でもね、ベンのそれは、近いっていうよりほぼそのまんまって言ったほうがいいかもしれない」
「便利だな。固有魔術っていうの」
ヴェストの呟きにリティカは「それがそうでもない」と言った。
「普通の魔素はね、変えようと思えば形を変えられるんだよ。俺は土魔術が得意だけど、だからと言ってそれ以外が全く使えないってことはない」
そう言いつつ、リティカは自分の周りに火の玉や水の塊なんかを出して自分の周りの漂わせる。
「でも、固有魔術の使い手は魔素の形が確定されすぎているがゆえに、他の魔術を発現することが難しい」
そうなのか。困ったな。ってことはリティカが使う土魔術や、ゲルデが使うような水魔術は使えないのか。
「じゃあ、おれこの棒を出すことだけしか出来ないんですか?」
さぞ、悲しげな声を出したのか、リティカが近寄ってきて肩をポンと叩く。
「そんなこともないぞ。魔素の形は生まれた時に確定するわけじゃないんだ。自分の伸ばしたい系統の魔術をたくさん使えば、それに合わせて魔素の形も変質していく」
「さっき固有魔術の魔素は確定されすぎてるって言ってましたけど?」
「そう、だから沢山の系統を使いこなすのは無理。精々二つか、理想は一つだね」
「......そっか」
「そう落ち込みなさんなって。確かに生活で不便なとこはあるけど、闘いだったらわかりやすい方が強い」
「ちなみにひのきのぼう以外で使うとしたらオススメはなんの魔術ですか? ......って、自分で考えろか」
「ああ、そう言いたいところだけど。今回は特別サービスで教えてあげよう」
「え、ホント?」
まじかよ。このケチケチ野郎がこんな大判振る舞いとは。何か裏でもあんのか。
「ベンには”闘素”これ一択だね」
「私それ苦手......」
ルピアが弱々しく呟く。で、
「闘素ってなんです?」
「この世で最も万能な魔素だよ」
リティカは言いつつ、槍をクルクルと回してみせた。
「師匠個人の意見ですよねそれ」
「ルピアくん、自分が出来ないからってね。ま、いいやそれは」
「じゃあそれ教えてください!」
リティカがそこまでいうのであれば、それでいいだろう。なんか闘素とか、強そうだし。うん。
「教えたいところだけど、まあちょっと、ロサとゲルデに相談してみてよ」
ロサとゲルデに? なんでだ? まあいいや。相談してみようか。
「ていうか、おれの魔術のことわかってたんなら出来ないって教えてくださいよ......」
ホント、この3日完全に無駄にしたわ。
「あぁー......そうなんだけどさ。ベン、すごく一生懸命だったからさ」
その通りだ。剣と魔法の世界において、おれの憧れはやはり魔法だ。リティカやルピアが自由に魔術を扱う姿を見たら、どうしても魔術が使えるようになりたかった。リティカはそんなおれの思いをわかっていたのか。なんだこいつも良いところあるじゃん。ただの悪戯小僧だと思ってたぞ。
「それともう1つ、言い忘れてた」
「なんですか?」
「その刺青の魔術だけど」
10歳までのおれをレイなんとか、とかいう組織の傀儡に変える魔法陣みたいなのについてか。
「魔力の質を高めることで、術式への抵抗力を高めることが出来るんだ」
「へえ。あっ、だから戦闘の訓練を施してるんですか?」
「そゆこと」
はーん、そゆことね。
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