第17話 ベン&ヴェスト VS ルピア

 瞑想を終え、さて今日もヴェストと仲良く修行と言うところでリティカがフラッと現れた。


「ベン一緒に来て」

「一緒? もしかして......」

 リティカがにっと笑った。

「合格だよ。修行、次の段階に進もう」

「......よしっ!」

 思わずガッツポーズを決める。約4ヶ月かかった。イヤー長かった。掛かった時間はモンスだけど。

「リティカ、それ僕もいいか?」

「え、ヴェストも強くなりたいの?」

「うん」

「ふーん、まあいいけど。じゃあ一緒に来て」


 リティカに着いて行く。

 案内された場所にはルピアの姿もあった。


「で、修行はどんなことすんの?」

 ヴェストがリティカにそう尋ねる。

「うーん。どうしよ。あんま考えてなかった」

「考えてないって......じゃあなんで呼んだんだよ」

「だってヴェストも来るって聞いてないし」

 そんな二人の間に唐突にルピアが立った。

「ちょっと待って、修行を受ける前にその態度なに?」

 言いながらルピアがヴェストを睨みつける。

「たいど?」

「仮にもこれから何か教わろうっていうのに言葉遣いがなってない」

「ことばづかいって......別にいいじゃん。うるせえな」

「良くないから言ってんじゃん」


 段々と声が大きくなってくる二人、リティカが「まあまあ」と言いつつ二人の間に割って入った。

「じゃあこうしよう。二人が戦う。負けた方が勝った方の言うことを聞く。どう?」

「良いぜ。やろう」

「望むところ。返り討ちにしてやるわ」

 おいおい、早速なんか険悪ムードだよ。おれは大人しくしていよう。ルピアちゃん可愛いし、仲良くなりたいしね。フヒ。てかこいつら仲悪いな。前はヴェストがルピアに餌付けしてたってのに。


「ベンはヴェストの側ね」

 リティカがそう言いつつおれの肩をポンと叩く。え、おれも戦うの......?

「......はい」

「ぜってー勝つぞ! ベン!」

 殺気を放つヴェスト。

 リティカは離れるときに耳打ちしてきた。「本気でやってね。でなきゃ怪我するかも」

 恐ろしいな。正直、ルピアはおれが4ヶ月かかったことをたったの2週間でやってのけた天才だ。ヴェストと二人掛かりでも引き分けまで持っていければ御の字だろうな。


 ヴェスト、おれ。そしてやや距離を置いてルピアが立つ。ルピアは短剣を抜き放った。

「おい、それ普通に切れるやつだよな......」

 ヴェストがやや怯えた声を出す。正直おれも同感だ。まさかの殺し合いです?

「なわけないでしょ」

 ルピアが短剣に手を置いて、ここからでは聞き取れない小声で何事か呟いた。すると、短剣が光った。


 ルピアが短剣の刃を手の平にペシペシと当てた。本来なら手がスパッと切れるはずなのに傷一つつかない。

「短剣の周囲に結界魔術を使ったわ。切れることはない。でも、痛いから覚悟して」

 まじかよ。この子、魔術も使えるのか。めちゃくちゃカッコいい......。見たところおれの同い年くらいなのに。

 ヴェストも驚いているのだろうが、ちょっと悔しいのか。それを隠して言う。

「望むとこだ。ベン、あの棒切れくれ」

 ひのきのぼうを二本作り出し、片方をヴェストに放り、もう片方をまっすぐ構えた。


「準備はいいね。んじゃ始め〜」

 間の抜けた戦闘開始の合図がなされる。


 さすが、ヴェストだフライングすれすれで真っ先に飛び出していった。

 

 あっという間に距離を詰め、ヴェストはがむしゃらにひのきのぼうを振るう。ルピアはそれらを軽くいなし、「はいおしまい」と言いながらヴェストを投げ技で地面に倒した。

「まだまだ!」

 言いながらルピアにひのきのぼうを突き出す。ルピアはそれを余裕で躱し、短剣をヴェストの頭に振り下ろそうとする。


 今だ。

 おれはヴェストにトドメを刺そうとするルピアの腕にひのきのぼうを振るう。最悪骨折するかもしれない威力だ。


「ちっ!」

 ルピアは舌打ちしつつそれを受けた。確かに当たったはずなのに手応えが薄い。なんだこの硬さは。

 

 一瞬おれに気を取られた機会を逃さず、ヴェストが倒れたままルピアの足を払った。「わっ!」不意をつかれたルピアはその場に転がった。

 

 男二人掛かりで申し訳ないが、ここで手加減するわけにもいかない。「ごめん!」言いながら倒れたルピアにひのきのぼうを振り下ろした。

すんでのところでそれはルピアの短剣に防がれた。グッと力を込め、短剣を釘付けにする。

「ヴェスト!」

「わかってる!」

 

 ヴェストが無防備のルピアにひのきのぼうを振るう。その時だった。ルピアが片手をヴェストに向けた。向けられた途端ヴェストは真後ろに吹っ飛んだ。これは、衝撃波か?


 ヴェストは吹っ飛ばされ、そのまま倒れた。まじかよ。

 

 呆気にとられたおれ。その隙にルピアがサッと立ち上がり、短剣でおれの手を叩いた。鈍い痛みに持っていたひのきのぼうを落としてしまった。「うっ......」呻きつつおれは打たれた右手を反対の手で抑えた。


 ”勝機”そう見たルピアが回し蹴りをおれの頭めがけて放った。

 大振り一番、ここだ。


 回し蹴りの先、おれは自分の頭の横にひのきのぼうを置いた。ガンとひのきのぼうがルピアの蹴りを防いだ。バランスを崩すルピア。


 おれはひのきのぼうを更に作り、右手に持つ。 

 ガラ空きの懐に突きをお見舞いして終わり! そう思ったが、バランスを崩し倒れる瞬間、ルピアと目が合う。殺気を帯びた瞳がおれを見据えた。


 おれとルピアの間に、急に尖った石が現れた。これは、リティカが使っていた岩の魔術か? まずい、防御が間に合わな――


「そこまでだ」

 リティカの制止がかかった。

 ルピアが出した石が消滅した。こっわ......これ当たったら死んじゃうだろ。てかリティカの制止がなければおれどうなってたことやら......。

 

「結果は引き分け」

「......でもヴェストは倒したし、師匠の制止がなければ」

「勝ってた? まともに修行する前のベンとヴェストに二度も魔術を使って?」

「......」

 ルピアが俯いた。


 あ、ヴェスト。あいつ大丈夫かな。

 ヴェストに近寄ると、すでに起き上がっていた。

「大丈夫か?」

 そう言うとヴェストは悔しいのか目に涙を浮かべた。

「ルピア......やっぱすげえな」

 ......なんか負け惜しみを言うと思ったんだけど、素直にヴェストは負けを認めた。こいつ、意外と大人だよな。ホントに5歳か?


 ルピアは凄いけど、ヴェストだって凄い。てっきり異世界転生なんだからもっと無双できると思ったんだけどな。なかなかどうして。 

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