第12話 ひのきのぼう、魔獣退治に役立つ

 リティカの後を追う。

 

 相変わらずパンツはウンコまみれだ。

 もしおれが主人公のラノベが発売されたら”ひのき太郎”とか呼ばれるかもしれないな。なんて思ったことがあるが、このままだと”糞漏らし便太郎”とか呼ばれかねない。一刻も早く仕事を終わらせ、パンツを換えなければ。


 村の中央、魔獣を呼んでいる魔獣の近くまでやってきた。

 例の魔獣の相手は、村長がやっていた。村長は石の弾丸をいくつも作って、魔獣に撃ち込んでいるが、見事に躱され続けている。

「村長!」

「今取り込み中じゃ! 後にしてくれ」

「魔術掠ってすらいないじゃないですか」

「しょうがないじゃろ、あいつ避けるばかりでこっちのこと見向きもしない」

「安心してください村長。あれは俺とベンで倒します。村長は村に侵入した魔獣の相手をお願いします」

「ベン? どういうことじゃ?」

「説明してる時間が惜しいです。とっとと行ってください」

「くそ生意気な、まあいいわい。任せたぞ」

 すれ違い様「ベン無理はするなよ」と肩を叩いて行った。随分とあっさり行くな。


「リティカさん、俺は何をすれば?」

「ああ、ベン例の棒はまだ出せる?」

 魔力の問題か。正直ひのきのぼうであれば、一日中でも出してられると思う。やったことないけど。

「まだいくらでも出せますよ」

「良かった。ベン、さっきルピアを助けた時みたいに。足場を作って欲しいいんだ」

「足場?」

「ああ、奴は魔術感知能力が高い。この距離ならいくら撃っても当たることはないな。あれのスタミナ切れを狙う手もあるけど、そんなことしてたら村が滅びる。奴と接近戦するには君があの棒切れで足場を作るしかない」

「でも、あの、あれ一瞬しか維持できないんです」

「ああ見ればわかる。俺の進行方向にいい感じに置いてくれ」

 それだけ言って、「じゃ」と言ってすぐに駆け出した。

「え、いやちょっと待って!」

 そんなこと全く聞かず、打ち合わせも何もしていないのにリティカは躊躇なく村の足場から飛び出した。

「待てって言ってんだろ!」

 おれはリティカの着地点にひのきのぼうで足場を作った。いくつも連結させて長めに作る。

 1秒しか保たないから、すぐにひのきのぼうは落ちていく。リティカは「うわ」とか言いながらバランスを崩す。ほら、言わんこっちゃない。


 落下地点にひのきのぼうを出す。リティカがそれを足場に跳ね飛ぶ。着地点を予測し、ひのきのぼうを置く、置く、置く。


 魔獣に近づくごとにリティカは、ひのきのぼうで作られた足場に慣れつつあった。

 ものの数十秒ほどで、これだけ出来るようになるとか。どんな鍛え方してるんだ。

 ひのきのぼうで作った足場の上を飛び回りながら、移動するなんて考えたこともなかった。

 何より危険すぎる。落ちたらとか考えないんだろうか。いくら鍛え方が違うとは言え、落ちて死ぬには十分な高さだ。


 リティカが槍で切りつける。見事に躱される。

 おれはリティカと魔獣の間を結ぶ、足場を作る。リティカは一瞬でそれを駆け抜け、槍を突く。またしても躱される。


 何度もそんなことを繰り返し、段々と「後少しで当たる」というところまで行くが、どうしても当てきれない。

 何か、あれの気を逸らすことは出来ないのだろうか。


 あれは躱すことだけに集中している。あれではリティカは倒しきれないだろう。

 そもそもあれは何しにこの村に来たんだ? 魔獣を呼んで村を壊滅させたいのか? 一体何のために?


 さっぱりわからん。そうだ、魔獣たちはおれ含めて子どもを見ると積極的に襲いかかっていた。もしかしたらおれに気付けば、こっちを向くかもしれない。よっしゃ、いっちょ呼んだろ。


「おーい!」

 思いっきり手を振った。ご飯よー!

 食べられる気は無いけど。


 魔獣がチラリとこっちを見て、目が合う。よく見ると片目に大きな切り傷があった。おっ、良い反応。このまま続けてみよう。

 なんて思っていた。

 

アアアアアアアアアア!!!


 魔獣が叫んだ。さっきまでリティカの攻撃を冷静に避けていた魔獣が明らかに怒りの表情を浮かべた。

 魔獣が猛スピードで俺の方へ向かってきた。


 あ、まずい。死んじゃう。


 魔獣が光る。この感じはマズイ。

 

 魔獣の両腕に光が集中し、魔獣が横に腕を振った。


 おれはとっさに、ひのきのぼうで盾を作る。

 ここだ、今しかない。決めてくれ、リティカ。


 おれは自分を守る盾を作りつつ、魔獣の背中までリティカの足場を作った。

 

 ガラ空きの背中、そこにリティカが自慢の槍の一撃を放つ。

 当たろうかという直前、魔獣がそれに気づき、躱そうと身を捩る。だが、一歩間に合わず、リティカの槍が魔獣の身体を掠る。掠った部分を中心に魔獣の体が吹き飛んだ。


 魔獣の腕が光り、腕をリティカに向かって振った。


 おれは、リティカを守る盾を作る。


 魔獣はその隙に、血をダラダラと流しながら森の方へと逃げていく。


「ああくそ」と言いつつ、リティカは戻ってきた。


「よくやった、ベン」

「はい、リティカさんも怪我がなくて良かったです」

「ああ、さっきのあの攻撃はやばかったな......」

 深刻な顔でおれの後ろを見るリティカ。何があるんだろうとおれも背後を見やる。


 そこには、おれが立っていた空間を除いて、横一線の切り込みが綺麗に入っていた。

 

 おいおい、あれ防げなかったら、おれの上半身と下半身がパックリ分かれてたのかよ。

 でも、生き残った。良かった。


 安心したのか膝から力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。

 ベンが駆け寄ってきて、何事が言ってきたが、何を言っているのかサッパリ聞き取れない。


 急激な眠気が襲ってきて、おれは思わず目を閉じた。

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