第9話 転生先の家族

 家への帰り道。ロサとゲルデとで3人で歩くなんて珍しいな。ゲルデもロサもなんとなくゲッソリとした顔をしていた。そりゃ、そうですよね。


 それからロサもゲルデもおれに何か言いたそうな顔をした後で、黙る。という顔を何度も繰り返した。二人からは罪悪感みたいなものを感じた。別に気にしなくても良いのにな。

 

 結局その日はまともに話すことなく、布団に入っている。いつもであれば、布団に入って間も無く気絶するように眠れたんだけど。今日は眠れない。


 話し声が聞こえてくる。ゲルデとロサが何か話している。なにを言ってるのは聞き取れない。秘密の会話? 聞き取れないな。おっぱじめるわけではないみたいだな。


 一時、会話が止んだ。それから足音がこっちに近づいてくる。あ、誰か来る。


 ガチャリとおれの部屋の扉を少しだけ開けた。おれは目を閉じて寝たふりとした。おれの寝顔を見たロサかゲルデのどちらかは、寝ていることを確認してから出て行く。足音的にはロサっぽいな。......

 

 耳をそばたて二人の声を聴き分けようと試みるがやっぱり聞き取れない。くそ、諦めて寝るか。


 しかし寝ようとしても、まるで眠気が来ない。怖いのだ。村を追い出されたらおれはどうなる? 今までの平和な暮らしができないのか? 不安でしょうがない。



 悶々と過ごすこと2日間。遂に結論が出たと、村長がおれを呼び出した。

 重い足取りでロサと一緒に歩く。


 今回は集会所ではなく、村長の家に直接呼ばれた。村長の家は村の中央に座す神樹へと至る通りの一番近い場所にあった。

 少しだけ周りの家より大きく、お金が掛かっているように見える。

 

「来たなベンよ」

「お邪魔します」

「おう、そう固くなるな。ほれ菓子じゃ、遠慮なく食え」


 ビスケットがたくさん乗った木の皿が出てきた。あれ、クッキー? ビスケットとクッキーの違いってなんだっけ。まぁいいや。あんまり物を食べる気分じゃないけど、一枚だけでも食べるか。


 出された物に手をつけないってのも悪いよな。


「......いただきます」


 内装はゲルデロサ夫妻の家と変わんないんだな。なんて考えつつ、ビスケットを一口かじる。......ん、これは。意外と、とりあえずもう一枚もらうか。うんうん。あーこれね。もう1枚だけ貰っとこうかな。あーはいはい。こーいう味なんですね。ってことでもう一枚。


「すげぇ食うな、この子は。ワシの分無くなるから少しは遠慮しろ」

「ふみまへん」


 おっといけねぇ。気がつくと、数枚のビスケットを一度に口に放り込んでしまっていた。美味いこれ。


「まぁ良いわい。好きなだけ食え」

「ごちそうさまです」


「さて、本題に入ろう。お前の処遇についてじゃ」


 遂にきたか。


「7歳までならここに居ていい」


 7歳までか......。良かった、と思うべきだろうか。だが7歳で外に放り出されて何が出来るだろうか。


「だが例外もある。ある条件を満たせば10歳までここに居ていい」

「その条件とは?」

「村の警備団に入団しろ」

「警備団て、ロサが入ってるあの?」

「それじゃ。警備団に入団すれば10歳までここに居ていいんですか?」

「うむ」

「じゃあ今すぐ入れてください」

「入団試験をパスしたら入れてやる」

「えぇ......試験をパスするには何が必要ですか?」

「ちょっとの知識と多少の戦いの心得じゃな」

「おれのことが怖いのに戦い方を教えるんですか?」

「怖いのはお前ではない。お前の背後にいるレイチェルカンパニーが怖いんじゃ」

「警備団に入団すればいいっていうのはわかりました。でもどうしてそれで10歳まで居ていいことになるんですか?」

「その辺の面倒な説明はおいおいするわい。今日はロサとゲルデと言ったりするんじゃ。随分と気を張っていたみたいだしのぉ」

「わかります?」

「あぁ、ここに入ってきた時のお前の顔と来たら、中年男のようじゃったぞ」


 間違ってねぇんだよなぁ。



 夕飯時、ゲルデが「で、ベンはどうなったの?」と聞いてきた。ゲルデも結果を聞いていなかったみたいで、どこか緊張した面持ちだ。


「居ていいって」


 おれはピースしてゲルデに笑いかけた。へっへへ、首の皮一枚繋がったぜ。


「そう、良かった」


 あれ? 意外とアッサリだな。もっと喜んでくれると思ったんだけどな。そう思ったのはおれだけでは無いみたいで、ロサが代わりに聞いた。


「思ったより、喜ばないな。まだベンと一緒に村で暮らせるんだぞ?」

「村に居ていい許可は出ると思ってたし。もし村からベンが追い出されても、どっかで一緒に暮す予定だったしね」

「それもそうか」


 あっけらかんと言ってのけてから、さっさと食事を始めてしまうロサとゲルデ。


 そうだったのか。二人はおれと一緒に暮らしてくれる予定だったのか。なんだよ言ってくれりゃあいいのにさ。無駄に不安だったじゃねぇかよ。この二人ってやつはホントによぉ。


 この2人のためにも、警備団に絶対入らなければだ。そもそも、強くなりたかったしな。この機会にモリモリ鍛えてクッソ強くなってやる。

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