第2話 これが異世界転生
爆音に目が覚めた。誰だよ、うっせぇな。最初に感じたのは異常な空腹だ。腹が減った、ピザ食いたい。
おれは自分の目を擦りつつ、大欠伸をした。っておれの手めっちゃ小さい。あ、おれ異世界転生して今赤ん坊なんだっけ。はーどうりで。
手の向こう側に顔があり、誰かがおれをの顔をまじまじと見ていた。おれはその人物の顔を見てギョッとした。顔に真っ直ぐ大きな傷跡があったのだ。切り傷だろうか。右目のすぐ下から左頬まで続いている。
緑色の短髪で爽やかな見た目の男だ。歳の頃は20代後半だろうか。
なんて観察をしているとおれの腹がグゥーとなる。さっきの爆音これかよ。
おれの腹の音を聞いた男は優しげな笑みを浮かべた。
なるほど、よく見るとイケメンだ。大きな目にシャープな頬のライン。傷で潰れているが、鼻も高かったんじゃないだろうか。
イケメンは嫌いだが、この人は好きだな。
なんて考えていると、横から怒りを帯びた声が聞こえた。そちらに目を向けると、怖い顔があった。
赤みを帯びた皮膚に下顎から飛び出た牙を持っている。縦にも横にもデカい男だ。男はおれと目があうと、威嚇するように鼻を鳴らした。
怖すぎてさりげなく目を逸らした。
こうゆうときに、睨み返したらダメだ。かといって必死に目を逸らしすぎるとかえって相手を刺激してしまう。さりげなく、え? 目なんか合いました? と何事もなかった風を装うのが絡まれないコツだ。
怖い顔の男はおれを抱きかかえている男に、何事かドスの聞いた声で話しかけている。
なんといっているのかはわからない。どうやらこの世界独自の言葉を話しているらしい。
首を巡らせ、周りを見渡してみると人の多さに驚いた。20人くらいはいるだろうか。
個性豊かな人たち。人種? が揃って、おれの顔を見ていた。
獣の耳をしているもの。小柄だが、隆起した筋肉と長い髭を蓄えているもの。馬の足をしているもの。金髪に尖った耳のもの。
ここは亜人種の集まった村とかだろうか? もしかしたらこれがこっちの世界の普通なのかもしれないけど。
しばらく、周りのやり取りを聞いているとなんとなくだが、何を話しているのかわかってきた。
おそらく、おれの処遇を決めているんだと思う。おれを保護するのに賛成派が、おれを抱きかかえている男。反対派が怖い顔の男だ。
川を流れてきた得体の知れないガキ。
そりゃ不気味だろうな......。
言葉は喋れないし、これと言って役に立つ能力も持ってない。今おれに出来ることはないな。おれを抱きかかえている男が上手くやってくれることを祈って、おれは寝よう。することないし。
寝ようと思ったら「くわ」っと可愛らしい欠伸が出てきた。丁度いい。この体は寝つきが良くていいな。
◯
柔らかくて温かい。
体に揺れを感じておれは目を覚ました。おれは目を擦ろうとして手を動かすと、何かに触れた。
柔らかくて温かいものってこれか。なんだろこれマシュマロか? いや、違う。違うぞこれ。 これって、もしかして......。おれがこの世界に来て最初に求めていたものだ。そうだ、おれはこのイベントのためにこの世界に転生してきたんだ。
そう、これは。間違いない。
おっぱいだ。
ペシペシとその柔らかいものを小さな手で触れてみる。
おっとこれはデカい。デカいですぞこれ。
ちょっと泣けてきた。嬉しくて。
ここから始まるんだ、おれの異世界転生ライフが。おれはゆっくりと瞼を開けていく。褐色の肌が目に入る。赤っぽいかな?
なるほど褐色美女ですか。わかってるじゃない。
おれはついに目を開き、その大きな乳房を瞳に映らせた。なんというハリだ。そして何よりこの大きさだ。弾力もまた申し分ない。最高だねぇ。おれは手でその胸をプニプニと触れる。これが異世界転生だぞ。
さてと一体どんな女性の乳房なのかな。とおれは上を見た。
そこにはさっきの怖い人の顔があった。
......と一瞬思ったが、少し違う。さっきの怖い顔の人より、顔が怖くない。というか全然怖くない。牙は控えめで、目は大きく、丸みがあって優しげだ。ファンタジー世界のオークっぽいだろうか。
彼女は何事か言いながら、おれの頬に乳首を近づけてきた。「飲め」ということだろうか。
しかし、オークの乳って人間が飲んでも大丈夫なのかな? ていうか、おれって人間なのかな。オークってこともありえるよな。前世はほぼゴブリンみたいなもんだったしな。
そうこう考えている間に、じれったいのか乳首をおれの口元に無理やり押し付けてきた。
ええい、ままよ。
おれはオークの乳首にしゃぶりついた。それから、吸い上げる。
甘い。ていうかめっちゃ美味いぞこれ。このあいだ飲んだ市販の粉ミルクよりずっと美味いわ。
こいつはいくらでも飲めちゃうぞ。一心不乱に乳を吸い上げていると、すぐに満腹になってしまった。乳首から口を話した。その様子を見たオークママはおれの顔を肩に置くようにして縦抱きに変えた。オークママがおれの背中を優しくさすると、すぐにゲップが出た。
お腹がいっぱいになるとすぐに眠気が襲ってきた。喋ることは出来ないから感謝の意を込めて、オークママの顔を見た。オークママは穏やかな顔でおれに微笑みかけた。
それからオークママはおれを誰かにゆっくりと渡した。渡された人物は慣れない手付きでおれを横抱きし、おれの顔を見た。
目があった時、思わず目が覚めた。
背筋が凍るような美人だ。ブロンドの髪に緑色の瞳。特徴的なのが、尖った耳だ。キツイ印象のある目がおれを睨みつけるように見ていた。だが、そこには一抹の不安もあった。見つめるおれの顔をおっかなびっくり見つめ返している。
ブロンドの女性はゆっくりと立ち上がり、部屋から出た。差し込む日の眩しさに目を細めた。
誰かがおれを覗き込む。この世界では一番見慣れた、顔に傷がある男だった。
傷の男はおれを抱きかかえたブロンドの女性と並んで歩き始める。二人は仲良さげに会話している。もしかして夫婦だろうか。言葉がわからないのがもどかしい。
会話に入れないから実に暇だ。
そういえば、おれはこの二人と暮らすことになるのだろうか。二人の顔を改めて見る。
傷の男もブロンドの女性も20代後半くらいに見える。おれより年下かぁ。年下のパパとママて。
ていうかおれ、このブロンドの年下ママに寝かしつけられたり、あやしてもらったり、うんこしたおしめを替えてもらうの? え、めっちゃ良い。
なんて考えていると、思わず笑みが溢れた。美女の胸に抱かれて、うたた寝なんて、こんな幸せなことは産まれて初めてかもしれない。この世界からじゃなくて、前の世界から数えてだ。
ブロンドの女性がおれの顔を見る。見れば見るほど良ーい女ー! フー! なんて考えると女性は露骨に顔をしかめた。それからおれを胸元からやや離す。
何事か隣の傷の男に言って、おれを手渡した。解せぬ。
傷の男がおれに苦笑いを見せる。
あぁ温もりが......。仕方ない。切り替えよう。この人の胸の中は安心感あるしな。
なんて考えると、眠気が襲ってくる。この体は寝てばかりだな。
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