9話 動き出す物語


地球から8万5光年離れた、名も無き惑星の上空。惑星全体が見渡せる大気圏外に、停泊している宇宙船があった。アレーシャが乗っている宇宙船である。その宇宙船の内部、窓際に彼女は立ち窓に手をあて、惑星全体を見下ろしていた。


「トロン… 管理者権限、解除コード『ትልልቅ ቡቦዎች』モード23、開始!」


彼女は思い出した様に振り返り、船内の中央の空間に向かって話しかけた。彼女の視界の片隅には、ヴィタリーが床に横たわっている。そして彼女一人しかいない静かな船内に、機械音声が響き渡った。


「極秘コード確認しました。モード23、ファティマ支援プログラムに移行しました」

「トロン、大気圏外からガイルアの反応を追跡。あと…」


彼女は言葉を詰まらせ、ヴィタリーの遺体を黙って見つめ始めた。彼女は、ヴィタリーと初めて会った時。そして数々の惑星に降り立ち、彼と行動を共にした出来事を、思い出していた。彼女は頭を横に振り、その思い出を忘れようと自身に言い聞かせていた。


彼女はヴィタリーから視線をずらすと「それを処分しておいて…」と気まずそうな表情と共に、小声で言った。


「ガイルアの追跡を開始しました。次に船内の清掃を、開始します」


固い金属製の床一部、おおよそ1m四方が開き四角い穴が開いた。そこから掃除用のロボットが、せり上がってきた。ロボットは動き出すと、もう1台出てきた。清掃ロボット2台は、船内の清掃を開始した。彼女は、ヴィタリーの処理が始まるのを見届けると、歩き始め通信機の側に立った。


「መልስ, መልስ, ወዲያውኑ መልስ ስጠኝ・・・・」


彼女は声のトーンを上げ、通信機に向かって話し始めた。通信が繋がると彼女は、調査中の惑星の現状、そしてガイルアの報告を始めた。

一通り報告を済ませた彼女は、長い息を吐くと窓の外を眺め始めた。窓の外から見える惑星を見下ろしながら彼女は「これで… よかったのか?」と自身に問いかけた。


「迷っているんですか? それとも、後悔ですか?」


その時アレーシャの後方から、突然声が聞こえた。彼女を素早く振り返ると、そこには先程出会った人型ロボット、ララが目の前に立っていた。彼女は素早く後方へ下がり、ララから距離を取った。そして銃を抜くと、腰を落としララに銃を向けた。


「動くな! 何処から入った?」


ララは問いかけに答えず、アレーシャに向かって歩き始めた。そしてアレーシャの目の前数歩のところで、ララは停止した。


「先程地上で言った言葉、そのまま返しましょう。私達の科学力を甘く見ていると、後悔しますよ。そして、その程度の武器では、私を破壊できません。撃てば宇宙船に穴が開きます。銃をしまってください、話し合いに来ただけです」


アレーシャの持っている銃は、わずかに震えていた。彼女はララを見上げながら、次の行動をどうするか必死に考えていた。今までは、船内に直接乗り込まれる事などなかった。それに、そのような事例も聞いた事が無かった。しかし現在、ララの侵入を許している。


「その銃では、私の体に傷一つ負わせる事が出来ません。それに私の侵入を許した時点で、貴方に勝ち目はありません」

「分かりました…」


アレーシャは一呼吸置くと、中腰姿勢から立ち上がり銃をホルスター※銃を収める物に差し込んだ。


「その前に質問があります。主の命令で動いているの?」

「質問には、お答えできません。現在の立場は、私が上です。貴方は私の要望に、答えるか、拒否するかの2択となります。大丈夫です、悪い話ではありません」


アレーシャは、ゆっくりと後ろに下がると計器の上に腰かけた。彼女は腕を組み、ララの全身を眺め始めた。そして小声で話しかけた…


「聞きましょう」

「それでは・・・」


それから、ララとアレーシャの話し合が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る