18話 詐欺っぽいけど、嘘は言っていない

 目的もなく森林を歩いている4人。左側に見えていた街が、徐々に森林に隠れて見えなくなり始めた。そんな中リディは、何かを決めた表情で、語り始めた。リディが話し始めると離れて歩いていた麻衣が、リディの隣に移動してきた。


「わかった、話そう・・・ お前たちは知らないと思うが、我々の国は一つにまとまっているわけではない。複数の部族が寄り添って生活している。ルサ族みたいに、国王と言う者も存在しない。部族同士は、主張している縄張り範囲を超えて、狩猟活動はしない。それに、異なる部族同士の交流もあった。そう… 上手くいっていたんだ。今までは…」


 リディは暫らく黙り込むと、右手を強く握りしめた。そんな彼女の横顔を兼次は、横から見ていた。


「国境辺りで、小競り合いがあると聞いていたが?」

「私が生まれる以前に、いや… もっと昔から競り合っていたそうだ。昔は我々の方が強かった、身体能力の差で圧倒していた。しかし… ここ最近だ。鎧と言う皮や金属に身を包んで、武器も持っている」


「なるほど… 文明技術に差が出始めたと言う事か。お前らは作らないのか?」

「皮の鎧程度なら作れるが、それ以外は作り方を知らない。金属の武器や防具は、奴らから奪って使っている。それに、奴らは臭いの強い水を撒いたり、夜に襲ってきたり、我々の嫌がる事を平気でやってくる」


「それでボロ負けして、逃げて来たと言う訳か」

「負けてなどいない!」


 リディは立ち止まると、兼次に向き強く抗議した。拳を握り、目線を上げ兼次を見上げていた。兼次も歩みを止め彼女の方を向き、彼女の肩に手を置いた。


「わるいわるい… 続けてくれ」


 と言うと兼次は、リディの腰に手を回し歩くように促した。リディは嫌な顔をしながら、彼の手を振り払い、再び歩き出した。


「我々の部族は、争いを好まない者たちの集まりだ。それに子供や女性も多く、戦士が少ない。奴らが攻めてきて、逃げる様に森の奥へと移動しているが、もう限界だ。移動した先が、他の部族の縄張りの近くに、迫ってきている」

「他の部族と、共闘して戦おうと言う事はしないのか?」


「協力は無い… さっきも言ったが、まとまっているわけじゃないからな。部族の問題は、部族で解決する、それが我々の共通するルールだ」

「そこで、住めそうな場所見つけて、移住しようと言う訳か?」

「そうだ。東の山脈を越えれば、ルサ族の領域外だしな。しかし、問題がある。どうしてもルサ族の領土を、通らなくてはならない。そこで、先に私とルディで見に来た」


「山脈を越えるのか・・・」

「そうだ。しかし、山の向こうは、お前の国だろ? 邪魔はしない、山の中で暮らすさ」


 兼次はリディの、移住計画を聞いて、何とか自身の国に… と思い始めた。


「リディ… 部族の規模はどれぐらいだ?」

「聞いてどうする? 私は、お前の全てを、信用しているわけではないぞ」


「信用か・・・ 信じてもらうしかないんだが・・・ リディよ、俺の国に来るか? ある程度の人数なら、受け入れてもいいぞ?」

「私は、お前に助けられた、と言う恩がある。だから普通に接しているが、ルサ族と一緒に、暮らせると思っているのか?」


「俺の国は、お前らを嫌う者など居ない! と王である俺が、断言しよう」

「信じられんな・・・」


「いいだろう。まずは俺の国について、話してやろう。聞いてからもう一度考えろ」


 と兼次は、リディの前に出て来て止まった。リディも兼次に防がれて、歩みを止める。麻衣とルデイも、つられて歩みを止めた。


「俺の国では・・・」


 と兼次は言うと、テレポートでリディの前から姿を消した。リディは突然姿が消えた兼次を見て、驚きの表情と「なっ」と言う声と共、に体が固まってしまった。

 兼次が消えたと同時に、リディの顔の横から手が出てきた。その手は、リディの頬を優しく触れた。リディは、素早く振り返ると、そこには兼次が立っていた。


「我が国の3人に1人の割合で、こんな事が出来る」


 と兼次は、伸ばした手でリディの髪を、得意げな表情で触り始めた。髪を触られるのが嫌なのか、リディは彼の手を振り払った。兼次は振り払われた手を、リディの前に出すと人差し指を出し、その指先を上に向けた。


「そして、3人に2人が・・・ こんな事が出来る」


 と兼次が言うと、彼の指先が光始めた。その光は少しずつ大きくなり、10cmほどの光る玉が出来上がった。兼次は辺りを見渡し、地面にある1m程の石を見つけると。その指先を、その石にゆっくりと向けた。動く兼次の指先につられて、リディは彼の指先のある石を見た。リディが石の方を向いた事を確認すると、兼次は光る玉を高速で石に向かって打ち出した。光る弾は、石に当たると…


 ドゴォーーーン


 と大きな音を立て、石は激しく砕けた。細かくなった石の破片は、四方に飛び散る。石のあった場所は、何もなくなり地面が大きく窪んでいた。

 大きな音に驚いたのか、大きな音を防ごうとしたのか、リディの頭の耳が前に倒れていた。彼女はしばらく、大きく窪んだ場所を呆然と眺めていた。


「そして、3人に1人が… なんと、未来を見る事が出来るぞ!」


 リディは、彼の言葉に合わせ振り向いた。


「未来… を見る?」

「そう… この先起こる事を、見る事が出来る力だ」

「3人のうち2人が・・・ あんな硬い石を・・・」


 リディは再び割れた石の後にできた、窪みの方を見ると放心状態で立ち尽くした。そんな出来事を、冷ややかに見ていた麻衣は、兼次を見ながら話かけた。


「なんか、詐欺・・・」

「詐欺とか難癖つけんな、嘘は言ってないだろ?」

「確かに嘘じゃないけど・・・ 3人のうちのって、そもそも3人しかいな…」


 兼次は麻衣が、国民が3人しかいない。と言う正解を言おうとした時、兼次は素早く右手の出すと。人差し指と親指を合わせる。そこに周囲の空気を集め、丸めると麻衣の額に向け、指を弾いて打ち出した。


「・・・ったいぃ、なんか飛んできたぁぁー!」


 兼次の放った空気の塊は、麻衣の額に命中する。そして、麻衣の頭は後方に仰け反った。麻衣は額を押さえながら、頭を戻そうとした時。彼女の目には、上空に浮かぶ銀色の大きな物体が、視界を埋め尽くした。


「兼次ちゃん! うえうえ!」


 麻衣は左手で額を押さえながら、兼次を見ると右手で空を指した。麻衣の言葉で兼次は上を見る。側にいたリディも、麻衣の上々と言う言葉につられて上を見た。


「ちけーな… 」

「なんだ、あの大きな鳥は」


 麻衣、兼次、リディが上を見上げている。麻衣に連れられているルディも、気になり上を見上げた。


「あわー・・・ 大きい」


 4人の見上げた先には、銀色の金属に覆われた、円形の物体が浮かんでいた。木々の生い茂る隙間から、見えるその物体は、おおよそ直径20mくらいはあるだろう。継ぎ接ぎや、ボルトなども一切ない機体であった。その物体は彼らの、頭上に迫っていた。4人は見上げたまま声も上げず、それを見ていた。

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