12話 合流は出来ない
瑠偉とララ一行は繁華街を抜け、ファルキア亭に戻ってきた。扉を抜けるとカウンターに、遠くを見つめて呆けているヨルグの姿が、瑠偉達の視界に入ってきた。
ヨルグは二人の姿が見えると同時に、垂れていた頭の耳が起き上がる。それと同時にカンターを飛び出して、入り口に現れた二人に近寄って行った。
「おかえりなさーい。今日も素敵です、ルイさん。ヨルグの気持ちです、これをどうぞ」
ヨルグは、右ひざを床に落とし、両手で赤い一輪の花を瑠偉に差し出した。彼は瑠偉を見上げ、目を潤しながら彼女を見上げている。そして彼の尻尾は、絶えずフリフリと陽気に揺れている。
「あ…ありがとー…ご…ざ…います」
瑠偉は顔を微妙に引きつらせながら、ヨルグの持っている花を受け取る。同時に彼女は、ゆっくりと後退を始めた。今までに男子から、このような行動をとられた事が無かったた彼女は、ゆっくり振り返り後ろにいるララに助けを求めた。
「なにか、ご不満でも?」
しかし、何時もの無表情で切り返される。「なんでもないです」と彼女は、再びヨルグの方を向くと「お仕事、頑張ってくださいね」と言い、逃げる様に速足でその場を後にした。
二階の床を鳴らしながら、速足で自室に戻って来た一行。部屋に入るなり瑠偉は、すぐさまにベッドにうつぶせで飛び込んだ。そしてララは、静かに彼女に近寄った。
「思わせぶりな態度を見せていると、勘違いされてしまいます。2回目です」
「分かってますよ・・・強引に来られると、対応に困ります」
「確かに、そうですね。お嬢様の学校では、草食系しかいないようですし。今時、下駄箱にラブレターとか…笑えない冗談です」
「だから、何で知ってるんですか?」
「お嬢様。麻衣様よりお預かりしていた荷物です。お受け取りください」
瑠偉は枕に押し付けていた頭を浮かし、口を少し開けながらララを見上げる「直ぐ話を逸らすし……計算してるの?」と口元をとがらせながら不満気に、ララに差し出された自分の荷物を受け取ると。小物入れのポーチを側に置き、スマホを手に取ると枕にアゴをのせ、スマホを見始めた。
「あれ? 不在着信が・・・」
スマホを操作し、不在着信を確認していく彼女。履歴を見て見ると、美憂からであった。昨日の夕方から始まって、今日の昼までの着信があった。おそらく、学校が終わったころと、夜と翌日の朝、そして昼休みだろう。そんな事を考えながら、彼女は美憂に電話をしようと思った。が…ある事に気が付いた。そして再びララの方を見上げた。
「ここ地球じゃないですよね? なんで繋がってるんですか?」
「リュボフ国の内情を知っている人物は、監視対象になっております」
「つまり?」
「関係者のスマホは、量子通信方式に改造してあります。通信は私の本体を経由し、監視しております。プライバシーは保護しておりますので、安心してください。ちなみに佐久間様は、現在授業中です」
瑠偉は長い溜息をつく「まぁ、そんな気がしてましたよー」と、再び枕にアゴ載せポーチを手に取り中身を見始めた。中身を見て、何やら考え始める彼女。そして思い出したようにスマホを手に取り操作を始め、麻衣に連絡を取り始めた。呼び出し音が聞こえると、スマホを耳に当てる。彼女は<麻衣と話す>と言う事実から、無意識に日本語で話し始めるのだった。
「麻衣。瑠偉です、少しいいですか?」
『瑠偉ちゃん、起きたの。体は大丈夫?』
「朝昼と肉食で、胃が重い感覚ですが、問題ないですよ。ところで麻衣、アレが心もとないのです。余分に持ってきてませんか?」
『アレって?』
「アレですよ! アレ!」
『ああー、アレね…持ってきてないけど。と言うか、半年程無かったし…忘れちゃってた』
「そうでしたね・・・
『なに怒ってるの? 始まったの?』
「違います!」
『ところで瑠偉ちゃん。レッグちゃんとヨルグちゃん、どっち取るの?』
「だから、何で知ってるのよ!」
『あっ、待って待って! 強制クエストがぁぁ! じゃあ先輩、頑張ってね! またー』
「こらー、先輩ゆうなー!」
瑠偉は声を張り上げるが、応答は無かった「っち、切ったか…」
彼女は枕に顔を押し付ける。今日の疲れもあったのか、気分がよくなり浅い眠りに入っていった。しかし、すぐさま部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「ルイさーん。少しいいですか? 入りますよー」
瑠偉は聞き覚えのある声が聞こえ、目を覚ましドアの方を見た。<どうぞ>と言おうと、上半身を起こしベッドに腰かけた。彼女は周囲を見ると、ララはテーブル付きの椅子に腰かけて微動だにせず彼女を見ていた。そしてドアに向かって声を掛けようとした時、ドアが開くとセーラ服姿のファルキアが現れた。ファルキアは瑠偉を見るなり、小走りで駆け寄って彼女の隣に勢いよく座る。そして、彼女の手を取り顔を近づけた。
「さきほどの言葉は何ですか? やっぱり神様と交信していたんですか?」
「やっぱり? あっ・・・いや、あ…あれはー・・・」
瑠偉は輝かしい目つきで、質問をしてきたファルキアを見ていると。先ほど麻衣と日本語で会話していた事に気が付いた。彼女は口に手を当て、ファルキアから目線をはずす。そして必死に、言い訳を考えるのであった。彼女は少しの沈黙を置き、咳払いをしてファルキアと向き合った。
「先ほどの話し声は、私の住んで居る国の言葉です」
「そうですか。ルイさんは、山を越えてきましたよね? 神様も山の向こうから、飛んで来ます。一緒に住んで居たんですか?」
「住んでないですし、交信もしていません。勘違いしないでください、お願いします」
ファルキアは、手を瑠偉から離すと正面を見て考え始めた。暫らくして「あっ、そう言えば昨日の夜…」と言い、再び瑠偉と向き合った。
「昨日の夜です。神様が、山の向こうから飛んでくるのを見ました・・・まさか」
「え? 神様が飛んでくる?」
「なるほど、分かりました。酒場の噂は、本当だったのですね」
ファルキアは立ち上がると「お邪魔しました」と言うと、走って部屋を出て行った。そしてドアの向こうから「ヨルグー、聞いてくださいー」と言うファルキアの声と大きな足音が、部屋の壁越しから聞こえて来た。瑠偉は閉まったドアをしばらく見つめた後、ララの方をゆっくりと向いた。
「ララさん。神様が飛んでくるって?」
「おそらく・・・」
ララはここで、フォティマ教団の事を瑠偉に語った。さらにララの推測として<飛んできた物体から降りて来た>と言う可能性を伝える。
「つまり朝と昼間の治癒、それと先ほどの日本語の会話。そしてファルキアさんの勘違いで、話が膨れ上がる可能性があると・・・フォティマ教団とか、先に情報が欲しかったです」
「これからのシナリオをシミュレーションしておきます。全て私に、お任せください」
「何事もなく、平和に過ごせるようなシナリオでお願いします」
「無理ですね。私の計算では、三日間で噂は街中に広がると思われます」
「はー…もう嫌っ」と、ベッドの端に座っていた瑠偉は、そのまま上半身を倒しベッドに預ける。ベッドの作りが悪いのか、木のキシム音が部屋に響いた。目を閉じ考え始める彼女、そしてすぐに何かを思い出したようで。勢いよく状態を起こし、自身の首からかかっているネックレスの先にある指輪をつかむ。彼女の正面には、まだララが動かずに座っていた。
「ふふふっ、この指輪を使って麻衣達と合流しましょう。とりあず逃げの一手です」
「お嬢様、残念ですが。その指輪のテレポート機能は1回きりです。一度使ったら、再度マスターが力を込めないと使用できません」
「本当ですか? あやしんだけど…」
「私も指輪の制作に、関わっていますので事実です」
「なら、馬車に乗って後を追いましょう」
「隣街行きの馬車は、今朝出発しました。それが戻って来てからからの出発ですので、8日後になります。その前にお嬢様をこの街に、留めておくようにと命令を受けております。許可は出来ません」
「ええぇー・・・なんで?」
「マスターに、直接聞いてみてはいかがですか?」
「どうせ・・『抱けない女は、俺の側には必要ない!』と言われる気がしますが…」
「正解ですね、私も同じ考えです」
「あーもう…」と瑠偉は、足を上げ器用に回転する。そして再びアゴを枕に乗せうつ伏せになってスマホを見始めた。「ひまー、やることないよー」と膝を曲げ愛を交互にばたつかせ始める。
「恋愛小説の続きでも読まれては?」
「ポイントが・・・」と瑠偉はララの方を向いた。
「増やしておきました。貸し一つです」
瑠偉は微妙な顔つきで「か…かし…」と言い。それと同時に、何かやらされるんじゃないかと言う予感がよぎる。しかし、特にやることもないため諦めながらも、何時もの恋愛小説を読み始めるのであった。
……
…
兼次と麻衣を乗せた馬車は、何もない一本道の道なき道を進んでいた。馬車の中では、麻衣は足を組んで座りスマホを操作している。その組まれた足の正面には、兼次の顔があった。彼は麻衣の対面で横になりながら、スマホを操作している。
「また負けたし! おかしいから、絶対チートしてる」
「何を言っている。これが俺の実力だよ・・・ところで、何時まで足を組んでいるんだ? 血行が悪くなるぞ、股を開いてほぐしたらどうだ?」
「開きません!」
しばらくすると馬車は、上下にゆっくりと揺れ始めた。その揺れは規則正しく、同じ振幅を保っていて長時間続いている。「なに? 地震?」と麻衣は、スマホをしまい右手を近くの壁に当て体勢を安定させる。兼次は体を起こし、立ち上がると上部にある小窓から、外を眺め始めた。「川を渡っているようだな、この揺れからすると吊り橋かな? しかも、かなり川幅が広いな」と、しばらく眺めていた兼次は、そのまま麻衣の正面に腰かけ腕を組む。そして正面の麻衣を、じっと見つめ始めた。
「今日一番の、見どころだな」
兼次の言葉に聞いた麻衣は、その意味を一瞬で理解する。そしてスマホを椅子に置き、腕を組む。その上下に揺れている胸を乗っけて固定し、胸が揺れるの防いだ。そして正面の兼次の顔をじっと見つめた。
「男子の楽しみを奪うなよ・・・」
「エロ発言無ければ、まともな人間なのにねー。いや…そうでもないかぁ」
「麻衣、川を渡り切ったら。橋を壊せ」
「えっ、なんで? いきなり何言ってるの? バカなの?」
「バカは余計だ・・・橋を壊すのは、瑠偉が俺達を追ってくる可能性がある。と言う事だ、追っ手を絶つには、橋を壊す。これ定跡な」
「そこまでする? 兼次ちゃんのお腹の中真っ黒だね、いやそもそも本体は真っ黒か…」
「まぁいい、俺がやる」
「大丈夫? 教団に見つかるんじゃ?」
「俺の気配消しは完璧だ、問題ない」
この日、カキレイの街と隣町の、間に流れる大きな川にかかる吊り橋が、崩れ去った。
それから2日後に、橋が崩れた情報が、カキレイの街に届くのであった。
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