13話 第三勢力現る

 兼次達を載せた馬車は、川に架かる吊り橋を渡っていた。川幅は10mほどだが川岸が広く、川としての幅は50m以上はあるだろう。そんな川に吊り橋は架かっていた。吊り橋の幅は人が横並びで四人程度、兼次達が乗っている馬車がやっと通れる幅である。


 その馬車が吊り橋を渡りきった時、橋を吊っている太いロープが突然細かな振動をはじめた。そして吊り橋を両岸から引っ張っている個所が、何の前触れもなく突然切れ。その吊り橋は、その形を保ったまま川に落下を始めた。

 落下した吊り橋は、川に落ちると同時に大きな水の音を立て、中央から2つに折れる。組まれていた板やロープは、川に浮き川の流れに沿って下流へと流れていった。


 大きな音を聞いた馬車の運転手は、すぐに馬車を止め降りると、音のした方に向かって走っていく。運転手は前方を見ると、先程渡った吊り橋が跡形もなく消えていた。


「橋がぁー! 橋がぁー!」と運転手はそう叫ぶと、両膝を地面に落とし半口を開けながら、無くなった橋を呆然と眺め始めた。


「なにぃー、橋が落ちただとー! なんてことだぁー!」

「兼次ちゃん、顔が全く驚いてないよ。てか白々しいから…むしろ棒読み」


 馬車から出て行くなり、わざとらしく大声を張り上げた兼次。そして小声で彼に話しかける麻衣は、運転手の方に近づいていく。兼次は運転手の右肩に手置くと「運がよかったな、渡った後に崩れるとは…」

 運転手はその言葉に気づくと、ゆっくりと兼次の方見上げた。その目は若干潤っている…


「先月に架け直したばかりなんですよ? こんなに早く壊れるなんて・・・早く架け直したとしても、一カ月は掛かります。街に残した、妻と子が居るのに・・・ううう」

「もし、渡っている時に崩れていたら。無事では済まなかったぞ?」

「確かにそうですが・・・どうして突然崩れたんでしょう? 何時ものように、川の氾濫で崩れるなら分かるのですが・・・」

「さあな・・・俺が知るわけないだろう。よし、これをやろう。元気を出せ」


 妻と子供を残してきた、と聞いた兼次は少し罪悪感を抱いたのかもしれない。革袋から豆金を1個取り出すと、運転手の手を握りそれを渡した。運転手は、渡された物を確認するために、手を顔の近くに持ってくると。そこには、豆金1個が載っていた。

「え? いいんですか? こんなに…」と兼次の顔と、豆金を交互に見比べ始めた。


「かまわん、妻にいい物でも買ってやれ。それと言っては何だが・・・まあ、立て」


 運転手は立ち上がると、兼次は彼と肩を組む。そして近くにいた麻衣から、遠ざかるようにゆっくりと歩き始める。


「次の街に、女と遊べる店は無いのか?」

「へっへ旦那、とびっきりの店がありますよ。ちょと非合法ですが・・・しかし、お連れの方はいいんですか?」

「問題ない」


 そんな二人の背中を、冷ややかな目線で見ていた麻衣は、無くなった橋を見ようと振り返ろうとした時。彼女の視界の片隅に、何かが飛んでいることに気が付いた。


「あぁぁ! UFOだぁー!」


 麻衣は声を張り上げると同時に右手を突き上げ、人差し指を空に浮かんでいる物体に指した。その物体は、地上から見ると全長5cmほどの葉巻型をした、銀色の物体だった。窓は無く、金属光沢の表面はボルトなどで止めている様子もなく、継ぎ接ぎのない完全な長方形の筒状を形成していた。

 麻衣はそれを見るなり、左手をスカートのポケットに忍ばせスマホを取り出そうとした。


 麻衣の大声で振り向いた兼次は、彼女が左手で何かを出そうとしたのを見逃さなかった。兼次は運転手を振り払い、勢いよく麻衣の元に移動する。そして麻衣の後ろに回り込むと、左手で彼女の左手を押さえつける。ついでに右手は麻衣の腕を押さえ、上げていた腕を下げる。と同時に、その手は二つの膨らみに到達していた。その手は勿論・・・


「だから撮ろうとするなって! そして人前でスマホを出すな」

「ごめん、つい。それより…さりげなく胸揉まないでくれる? それこそ人前だし…」


「まさか…気づいたのか?」と兼次は、麻衣を抱いたまま上空に浮かんでいる、銀色の物体をを見上げた。その物体は相変わらず、兼次達の上空で音もなく浮かんでいた「まったく動いてないな、監視しているのか?」


「どうするの? 撃墜するなら、私が…」

「アフォか! こんな辺境の惑星で、宇宙戦争でも始める気か! 静観だよ」

「まぁ…いいわ、見逃してあげましょう。そして、そこの人は何してるの?」


 兼次は見上げていた視線を元に戻す。そこには膝を折りて曲げて、空に浮かんでいる銀の物体を拝んでいる、運転手の姿があった。運転手は、目を閉じて。指を交互に組んだ手を、顔の前に出し。なにやら小さな声で、何かを念仏のように繰り返し言っているようだった。


「これは、あれだ…『空から舞い降りた神は、実は宇宙人だった』と言う説だな。つまり、拝んでいるんだよ」

「なるほどね・・・『ラー』に書いてあった事は、本当だったと言う事だね」

「『ラー』って?」

「知らないの? 日本唯一のオカルト情報専門誌よ! 中学時代に、毎月読んでたんだよ。そう言えば…今あるのかなぁ??・・・あれから50年近く過ぎてるし」

「お前・・・妄想世界に身を置き過ぎだぞ」


「妄想って、宇宙人居るのは事実でしょ? この惑星にも住んでるし…」と麻衣は、さりげなく胸を触り続けている、兼次の手を振りほどく。そして振り返ると、右手を出し兼次の鼻の先を、人差し指で触れる「ここにも居るでしょ? 宇宙の頂点に君臨している、色情星人が!」


「ま…まぁ、地球以外にも生命体が居るのは事実だな。だが、魔法は存在しないぞ! よし、先に進むぞ!」と兼次は麻衣から離れ、運転手に向かって歩き始めた「おい運転手、祈ってないで先に進むぞ!」と言うと、麻衣の方を振り返る「そして麻衣よ、俺はオッパイ星人だ」


 キメ顔で麻衣の方を、指さす兼次。そんな彼を見ながら麻衣は、ため息が出てきそうな顔つきで歩き始めた「もー…真面目な顔して、言うセリフかなー」


 ……

 …


 日が沈んだカキレイの街。人々が寝静まった頃。ファルキア亭の食堂の一角で、3人の男女がテーブルを囲んでいた。ロート夫妻とララである。テーブルに置かれた、油皿から伸びる紐に灯る炎が、3人の顔周辺のみを照らして。密談をしているような雰囲気を演出していた。そんな中、最初にオーグが布で額の汗を拭いながら話し始めた。


「ララさん。ご相談とは何でしょうか?」

「はい、実は・・・」


 二階で熟睡している瑠偉をよそに、ララの描いたシナリオが始まっていくのであった。

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