4話 晴れ時々曇り、所によって人間が降るでしょう

 ワームホールを潜り抜けると、霧に包まれた空間に出た。どうやら雲の中の様だ。

 下を見ると先行した麻衣が、スカートを抑えながら落下している。上を見上げると、メイド服のスカートが、全てまくれ上がったララが居た。ララは下着を着用しておらず、マネキンの様なツルツル表面の、ロボットボディを晒していた。


 つまらない物を見てしまったな・・・

 しかし、初めてスカートの中を見たが… なぜに、あの場所にUSB端子が付いているんだ? まぁ、俺には関係ないか…


「麻衣止まれ、地上を確認してから降りるぞ」

「おっけぃ」


 雲を抜けた辺りで停止した。麻衣もララも、まくれ上がって乱れたスカートを整えている。


「ご主人様、ドキドキしましたか?」

「何言ってるんだ、するわけねーだろ」

「それは・・・残念です」


 行く前は、生体融合型ロボットで行こうとしていたララ。生体型はある部分を除けば、人間の女子と変わらない、戦闘能力も防御能力も人間と同等である。一応何かあるかは分からないので、いつも俺の側に控えている、最高性能ロボットで来てもらう事にした。

 よって金属ボディの裸体である、そんな物を見ても興奮するはずがない。そして、なぜ下着を履かないのかが疑問である、まぁ聞きたくもないが・・・


 下を見ると大地が見える。所々に短い雑草が生い茂り、まばらに10mほどの木が点在している。その木を縫うように、2本の線が長く続いている。おそらく馬車の様な物が、通った後だろう。地面を圧縮されていて、そこだけ草が生えていない。上空から見た感じでは、木も草も地球の植物と、さほど変わらないようだ。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 下を見ていると、上空から女子の悲鳴が聞こえた。悲鳴の聞こえた方を見上げると、濃い紺色のヒダ付きスカート、白のシャツに紺の襟が付いている。襟には赤色のリボンが結ばれている。よく見かける、セーラ服を着た女子学生と言うやつだ。


 その服を着ていると言う事は、日本の中学生か高校生だろう。その女子が俺達の上から、落ちてきていた。最初は手と足を振り回していて、飛ぼうとしていたのだろうか? 雲を抜けた辺りで、下を見たのか気絶した様子で動かなくなり、そのまま頭から落下を始めた。


 黒髪ストレートの女子・・・どこかで見たような顔つきだ。

 あっ・・・


「城島瑠偉か? ・・・なぜ?」

「瑠偉ちゃんが、落ちてきたよー」


 頭から落下してくる女子。俺達の側を通り過ぎようとした時、ララが素早く抱き止めた。


「ご主人様、人間が降ってきました」

「そんな物拾うんじゃない! 捨てなさい」


「はい」

「ちょっと、まって! なんで捨てるの? 瑠偉ちゃんだよ?」

「冗談だよ、本気にするなよ。地上に人影はないようだし、このまま降りるぞ!」


 ここに瑠偉が居るってことは、ワームホールから落ちてきたことになる。すると、このタイミングで浮遊島にテレポートしてきたことになる、しかもワームホールの真上に。

 なんというタイミングで、テレポートしてくるのだろうか・・・ 

 そして、なんという不幸な女なのだろう、天性の巻き込まれ体質なのか?


 上を見ると、ワームホールはすでに消えているので、もう地球に戻すことはできない。

 しかし、これから瑠偉を連れて旅をするのは、面倒になるな。特に恋人候補でもないし。

 そんな事を考えながら、ララに抱えられている瑠偉を見ながら、地上に降り立つ。


「いきなり予定を、変更される事態になったわけだが! どうしてくれるんだ?」

「だからぁー、私は瑠偉ちゃん達に連絡した方がー・・・って言ったよね?」


 そうだが、わざわざ平日の昼間で、しかも彼女達は学校で過ごしている。そんな状態でテレポートしてくるとは思わないだろう?

 とりあえず瑠偉の体を改造しないといけないな、このままだと紫外線とか、恒星の放射線などで死ぬ危険性がある。


「ララ、瑠偉を寝かせろ、体の改造を行う。目覚めないうちにな!」


 俺は苦しそうな顔つきで、気絶している瑠偉の体の改造を行う。

 素早く、迅速に、気づかれない様にな。


 右手を瑠偉の体に向け、俺の本体を繰り出す。瑠偉の体を包み込み、体の内部まで俺の本値を染み渡らせ改造を開始した。一度麻衣の体で行っているので、要領はえている。それに麻衣の体より、体積が小さいし早く終わるだろう。


 感覚的に2分ぐらいかな? 麻衣の時は10分程かかったので、俺も成長したようだ。

 瑠偉の体に、浸透させている俺の本体を引き上げる。瑠偉の顔を見ると、苦しみの表情から普通の寝顔に戻っていた。


「終わった、さすが俺。で、これからの行動だが・・・」

「瑠偉ちゃんも連れてくの?」


 麻衣が心配そうな顔つきで、俺を見ている。帰すにしても無理だしな・・・

 10か月後に帰ってもらうかだな。だがその時に、俺の目標が達成されていなかったら、俺達が帰るのは、更に10カ月先になる事に・・・っち、手間かけさせやがって。


「面倒だな・・・このまま知らないふりして、置いていくのはどうだろう?」

「ちょっと、冷たいわよ!」

「それが抱ける女と、抱けない女の差だ!」

「あいかわらず最低っすね」

「麻衣、まず瑠偉を起こせ。現状を理解させ、絶望を与えてやろう」


 麻衣は瑠偉の両肩を持ち、上半身を起こし瑠偉の上半身を、激しく前後に揺すった。頭が取れるんじゃないか? と言う勢いで、麻衣は瑠偉の肩を揺すっている。


「瑠偉ちゃーん、起きて、起きて! 起きてってばぁ、オッキッローー!」


 麻衣の揺らす肩とは、逆方向に揺れる瑠偉の頭。その強い揺れで瑠偉は目覚める。


「ちょっと、起きたから! やめてって、首痛いから!」


 瑠偉は、肩に置かれている麻衣の両手を払いのけた「麻衣? 久しぶりで・・・」と言いかけると同時に、俺と目が合った。その時点で不安がよぎったのか、素早く頭を回し辺り状況を確認した。そして、再び麻衣の正面に向いた。眉毛をハの字にして、微妙な表情をしている、気づいたか?


「なんか、すごく嫌な予感がしますが・・・ねぇ麻衣、ここは何処ですか?」

「一角獣座の方向に8万5千光年離れた、名も無き惑星よ! 今から犬耳のイケメンさんを探しに行くんだよ!」


 瑠偉は麻衣の返答を聞いて、半口を開けた「あ‶あ‶ぁぁ・・・」と、その口から怪しげな声が漏れていた。そして目線を俺に向けた。


「帰れますよね?」

「当然だろ。確実に帰れるから、来ているんだよ!」


 瑠偉は俺の返事を聞いて、肩を落とし大きく息を吐いた「よかったー」と、小さな声でつぶやいた。まだ安心するのは、まだ早いけどな。


「ただし! 来るときに、力を使い切ったのでな。回復時間を考慮して、帰還は地球時間で10カ月後となる」


「なっ!」と、大きく目を見開く瑠偉。そのまま、両手を地面に着け力なく倒れこんだ「な、なぜこうなる・・・なぜ? なぜだ」と、瑠偉は地面と会話を始めた・・・

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