3話 置いてかれる者
城島瑠偉が浮遊都市リュボフに、テレポートしてくる十数分前。
兼次達は、旅立つ準備を始めていた。
……
昼食後、夜巳を買い出しと称し追い出した。麻衣の体の改造も、寝ている間に終えている。あとはワームホールを作って、旅立つだけの状態である。
「麻衣、旅立つ前に注意事項がある。帰れるのは10カ月過ぎてからだ、くれぐれも変な事件に、巻き込まれるなよ?」
「だから・・・そういうフリとか、フラグ立てとか、やめてよねー」
パワーアップした俺の力により、人が通れるワームホールが作れるようになった。しかし、俺のエネルギーの大部分を消費する。それが回復するまで10カ月かかる。
でも、無慈悲に色々食べてしまえば、すぐに回復するのだが・・・
しかし今は、人間の体で生きている。理性のある行動をするつもりである、見境もなく食事をしていたら、飢えた野獣になってしまうだろう。
「あの~、感傷に浸ってるとこを悪いんだけど。私の体の改造って、終わってるの?」
「ああ、寝ている間にやっておいたぞ。現地に着けば、なにやら不思議な力が使えるだろう。まぁ、俺が与えた力よりは、劣るだろうがな!」
「ついに、ファイヤーボールが出せるのね!」
麻衣は話を聞いてなかったのか? あの漫画みたいな、気の玉みたいな、物が出せる程度じゃないかな。しかし、麻衣の後ろにあるスーツケースが6個が、とても気になる。まさか、持っていく気じゃないだろうな?
「ところで、後ろにあるスーツケースは何だ?」
「ああ、これね。まずシャンプーでしょ、リンス、コンディショナー、化粧水。それと、タオルが・・・」
まだまだ麻衣の持ち物説明が続く、これを持ち歩くのか? 文明的に道路は、舗装されていないだろう。6個のスーツケースを引くのか、もしくは俺に持たせるのか? まさか、浮かせて持ち歩くわけないだろうな、そんなことをしたら注目の的である。行く先行く先で、人に囲まれて、行動に支障が出るはずだ。
俺の旅の基本は、現地調達で手ぶらだ。そのために、ララに地上のあらゆる製品の、分子構造データを収集させている。後は現地で、俺の力で原子レベルで合成すれば出来上がる。
「却下だ!」
「えっ?」
指を折って、持っていく物を言っていた麻衣。途中でやめ、何言ってるのこの人は? 的な表情を俺に見せている。
「すべて現地調達する。と言うより、そんな大量に持って歩けないぞ?」
「荷物浮かせて、一緒に飛べばいいじゃ?」
なるほど、やはり浮かせるつもりだったか、しかも飛んで移動する気か・・・
フライングヒューマンとして、都市伝説として語られたいのか? 却下だな。
「人が見ていないところならいいが、街中はダメだ。違和感なく溶け込むのが、潜入の基本だぞ。シャンプーとかは俺が作るから、必要ない。スマホ1個で、後は手ぶらだ」
「えー、せめてこの柔らかタオルだけでも?」
「まぁ、タオル1枚なら。では、装備を渡す。ララ」
「はい、こちらです」
俺の後ろに控えていたララから、2振りの剣を受け取る。茶色の皮の鞘に入った、刀身60cm、身幅3cm程度の直線両刃の剣である。持ち手は布巻、
「なにその、ダサい剣は・・・エクスカリバーじゃないの?」
「見た目は、時代相応にしてある。だが、刀身は最先端科学技術が導入されているぞ。
ララ、解説を頼む」
「刀身の芯に当たる部分ですが、金属水素とベリリウムの特殊合金で、まるで持っていないような、感覚になるほどの軽さを実現しております。その合金は、柔らかく固いという、相反する性質があります。さらに、刀身の厚さは0.5mmと薄く、切断することに特化されております。その芯を、炭化チタンで覆い強度をさらに上げ、ウルツァイト窒化ホウ素で、表面をコーティングしております。ちなみに、現在の地球の科学力では、これを作ることのは出来ません」
ララの長い説明を聞きながら、麻衣に剣を渡す。麻衣は早速、剣を鞘から抜き振り回している。
現地では戦うつもりはないので、基本この剣は舐められない為の飾りとなる。俺は戦国時代を経験しているので、剣術は多少できるが、麻衣は期待できないだろう。まぁ、剣など使わなくても、俺の与えた能力で、相手を圧倒できるから問題はない。
鞘から剣を抜き見ると、刀身は白に近い銀色だ、光沢は無い。しかし、恐るべき軽さである、おもちゃのプラスチック剣よりも数段軽い。まるで持っていないような感覚、と言うのが嘘じゃないと言うのが解る。刀身を横に振ってみても、薄い刀身にもかかわらず、全くしなる事もない。
刀身を鞘に収め後ろを見ると、ララは準備できているようだ。メイド服の腰に、剣が差し込まれている。メイド服に剣は、かなり変だ。服は現地で他の人間が着ている服に、変更必要があるな。
「よし、さっさと行くぞ」
「あっ、瑠偉ちゃん達に言っておいて方が、いいんじゃない?」
「あいつらは、今学校だろ? 麻衣のスマホも、俺のと同じレベルまで改造しておいたから、現地でメールでも電話でもしておけ。あと、くれぐれもSNSに上げるなよ?」
「分かってるわよー」
右手を出し、俺の体内にある本体から、力を搾り取り右手に集める。行き先をイメージすると、床に直径1mほどの漆黒の円が出来上がる。
数回作ってるとはいえ、恐ろしく簡単に出来た、さすが宇宙最強種族である。
「では、行くぞ! 空中に出るからな、気よ付けろよ」
「いえーい、一番のりぃー!」
ワームホールができると同時に、麻衣が床に広がる漆黒の穴に、勢いよく飛び込んだ。
では俺も行くとするか…
「行くぞララ」
「はい」
俺はそのまま、重力に身を任せワームホールに飛び込む、ララも俺に続いて飛び込んだ。
……
…
兼次達が旅立ってから約1時間後、白井夜巳が人型テレポート専用ロボットと共に、部屋に姿を現した。
「ただいまー! 買ってきたよー!」
左手に買い物袋を持ち、右手を突き上げて元気よく声を張り上げる。
しかし、そこには誰も居なかった。
夜巳は誰もいない部屋を、念入りに見渡す。どう見ても、その部屋には誰もいないし、人の気配すらないかった。一抹の不安を感じた彼女は、隣で静止しているロボットに話しかける。
「ララさん。ダーリンは? お胸様は?」
「お出かけになられました」
「どこに? すぐ帰ってくるよね?」
「遠いところです。お帰りは10カ月以降になります」
「あぅ・・・それって・・・」
彼女は力尽き床に荷物を落とす、同時に目から涙が徐々にあふれ出てきた。グズグズと鼻水をすすりながら、隣に居るロボットに抱きつく。ロボットに抱き着くと、ゴンと鈍い音が部屋に響き渡った。
「置いてかれたよー・・・うぅぅ、固いよー、冷たいよー」
「夜巳様、ご主人様からの伝言です。『国を収める夫を持つ妻ならば、主人のいない国を守るのは妻の務め。後は頼んだぞ』とのことです」
ロボットに抱き着きながら、その言葉を聞いていた夜巳は、妻と言う言葉に強く反応する。彼女はロボットから離れると、床に座り込み満面の笑みを見せた。
「えへへへへへ、妻・・・つま、つまだ。ふふふふ」
両手を胸のあたりで交差し、目を閉じ妻と言う言葉の余韻に浸っている彼女。「っふ、チョロいですね」と、ロボットが発した言葉は、彼女には届いていなかった。
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