16.恋話こいばな
あれからしばらくして英先生の新作が発売された。
先生から連絡があり、本をもらってほしいと言われたが丁重にお断りし、保存用も含めちゃんと自分で2冊購入した。
私が買い占めなくても売れ行きは好調らしく、売り切れ続出!と小さなニュースにもなっていた。
私は大学の共通テストのためにバイトを大幅に減らし、忘年会や新年会などで人手が足りないと言う時だけ手伝いに行った。
御影さんには会っていないし、もちろん連絡も取り合っていない。
「杠葉さん、お茶飲む?」
「あ、ありがとう…渚さん」
コタツで勉強に集中していて、彼女が遊びに来ていたことも忘れていた。
「そんなに気を使わないでよ」
なぜ渚さんが私の家にいるかというと…英先生の説教がかなり効いたようで、あれからすぐに悪い仲間を精算し、学校にも来るようになった。元々成績も悪くない渚さんは、補習や追試などでなんとか卒業できるそうだ。
ただ彼女の家庭も少し複雑で、母親がよく違う彼氏を連れ込むらしいので、行き場がないときはうちのアパートに泊まってもらっている。
「でも試験近いのにまた泊めてもらっちゃって」
「いいよ。私も渚さんの手料理好きだから」
「ありがとう」
やりかけの問題集を閉じて、真向かいに座った彼女と熱いお茶をすする。
「あー美味しい。渚さん今日バイトどうだった?」
昨年末から彼女は英先生が執筆活動で使っているマンションの片付けのバイトをしている。
「アシスタントっていうから私で大丈夫か心配だったけど…部屋の片付け掃除がメインだし。片付けても片付けてもまだ積み上がった資料と本で埋まりそう」
「そんなに?」
「でも卒業するまで限定で、空き時間にきてくれたらいいからって」
「そっかよかったね」
「うん、先生には本当に感謝してる。御影さんにも、謝るきっかけをくれたし」
「そうだったんだ」
「早く一人暮らしして、卒業したらバイトしながらやりたいこと探すよ」
言って微笑む彼女がとても可愛らしく見えた。髪色がナチュラルになったせいか大人っぽくも映る。
「そーいえば杠葉さん、実家に帰ってる?」
「年末に帰ったけど、でも場違いな気がしてすぐ戻ってきた」
兄の奥さんの出産も近づき、母も待ちきれない様子。ますます幸せな家族の輪には入れない。
「そっか」
「渚さんって、恋したことある?」
「は?私、御影さんにふられたばかりなんだけど」
「あ、ごめん」
「いいよ。なんか、英先生に言われてただ甘えたかっただけなんだなって思った。本当の恋はまだよくわからないなぁ」
「そうだよね。私も」
「え?杠葉さんこそ御影さんじゃないの?英先生?」
「え?え?なんで」
「だって仲良いし」
「英先生は奥さんいるし、御影さんだって…好きな人いるし」
「えーそうなんだ。そりゃ落ちないわけだ」
「え?」
「いやいや。…英先生が、試験が終わったらゆずを連れて来なって言ってたよ」
「共通テストが終わってもまだまだ先は長いんだけどな、私」
「いいからいいから」
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