六話 喧嘩
戦いは優斗が優勢だった。初めて会った時は氷華が色々手加減してやっと互角に見えるだけだったから大きな変化だ。優斗が強くなったというのも有るが、それ以上に氷華が弱くなったのだ。
ただでさえ精神状態が酷い上に、本能的な部分では氷華は負けて優斗のものになりたいのだ。今まではずっとそうなる事を恐れていたのに、いざ言われると嬉しくて嬉しくて仕方がない。優斗は嫌がる事を無理やりやらせたりしない事も分かっていた。
何故抵抗しているのかと言えば、氷華が異常なまでに自罰的だからだ。
「止めて……私は幸せになっちゃいけないの!! もう人が死ななくてもいい様に魔術を滅ぼして私も死ぬ!! 私みたいな人殺しが幸せになるなんて事が有って良い筈がない!!」
氷華は叫びながら魔術を散弾のようにばら撒く。優斗はそれを回避し、どうしても避けられない物は斬った。
「氷華が死んだら誰か得するのか? お前の願いは理不尽な死を少しでも減らす事だろ。罪を償いたいというなら、生きて一人でも多くの人を助けるべきじゃないのか!!」
優斗も声を荒げ、氷華に斬りかかる。
「だから魔術を無くそうとしてるんでしょ!! そうすれば理不尽な死は無くなるから!!」
氷華は防戦一方になりつつ言い返す。
「それは違うだろ。良いか氷華、目を背けるなよ」
優斗は氷華の剣を弾き飛ばし、胸倉をつかんで言い聞かせる。
「世の中の理不尽な死の原因が魔術だけだとでも思っているのか? 違うだろ。人はもっと簡単に死ぬぞ。それなのに魔術魔術と言うのはそれ以外の死から目を背けているからだろうが!!」
最後の分を叫ぶと同時に、思いっきり頭突きをする。それを受けた氷華は泣きそうになっていた。
「……分かってるよ。魔術だけ何とかしてもどうにもならないことぐらい……本当は皆助けたいに決まってる!! でも、魔術関係だけでも何人も私の手から零れ落ちていく!! 確かに優斗さんの言う通りだよ、でもじゃあどうすれば良いっていうの!!」
氷華は近くの机を投げて喚く。優斗はそれを避けて言い返す。
「分かってるなら死んで終わりにしようとしてんじゃねえ!! お前生きてより多くの人を助けられるよう努力しろよ。体の事だってそうだ。呪詛と傷の対策の分弱くなってるじゃねえか。もしお前が万全の状態なら助けられた人も居るかもしれない。それこそ雲宮だってそうだろうが!!」
「な……じゃあ助けられたかもしれない人を見捨てろって言うの?」
「体を治している間に助けられなかった人と、万全になれば助けられる人のどっちが多いかっていう話だよ。僕は後者の方が多いと思うぞ。結局お前は自分の事が嫌いだから、自分を虐めたいんだろ。人を助けたいって言いながら自分の感情を優先してんじゃねえよ!!」
「そ、そんなことないもん!! それに優斗さんだって言ってる事おかしいよ!! 私がやってる事おかしかったとしても、私みたいな罪人が幸せになる権利がない事に変わりはない‼」
両者共に次第に感情的になっていき、ついには癇癪のぶつけ合いと化していた。これでは戦いというより子供の喧嘩と言った方が正しいだろう。
「色々言ったけどさ、僕は何処で何人死んだとか、どうするのが最適だったのかとか、お前がやってきた事が正しいかどうかとか、幸せになる権利がどうとかどうでも良いんだよ。ただ僕はお前を幸せにしたい。世界の全てが氷華を嫌おうが、お前自身が自分を嫌いでも関係ない。良いか、氷華、例えお前の願いを踏みにじってでも、僕はお前を幸せにするって決めたんだ!!」
優斗は高らかに宣言する。そして、持っていた刀を捨て、虚空から透き通った漆黒の刃を持つ刀を取り出す。
雨木家の家宝“法滅”、これを抜いたという事は、本気という事だ。
優斗は一度大きく深呼吸をして、刀を一閃した。
そして、世界が変質する。
◇あとがき
余談ですが、氷華の怪我と呪詛が無ければ琴音は死んでません。大体万全状態の氷夜と同じぐらい強いですし。まあ制限がなくなった氷華がそこまで強いのは、制限ありの状態で無茶な戦いを繰り返していたからなんですけど。
次回最終回です。後日談とかは次回作で語るので有りません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます