五話 一日目夜
一行は一日目の宿に到着した。
「おお、思ったより綺麗じゃん」
「だな、築400年とか言ってたからもっと古いのかと思ってた」
(久しぶりに来たけど変わらないな。まあ魔術を使ってるから当然といえば当然だけど)
騒ぎ立てる同級生をよそに、優斗は考えを巡らす。かなり古い建物だが、保存に魔術を使っているので余り劣化はしていない・
「……あの、優斗さん」
「ああ、魔術が掛けられてるよ。まあ人の購買意欲を向上させる程度の物だけど」
「みたい、ですね。人に直接危害を加えるようなものは無さそうです」
右目の魔眼で建物を観察した氷華はそう判断した。
「じゃあとりあえず打ち合わせ通りに」
「ええ」
認識阻害と光学操作を併用し、優斗と氷華は姿を隠した。
優斗と氷華は完全に気配を消し、ほぼ居ない事になっていた。ちなみに氷華は入浴していない。全身呪詛まみれなのに公衆浴場に入る訳には行かないのだ。体を清潔に保つだけならどうとでもなるので特に問題は無い。
優斗は女湯を除くという愚考に走ろうとした同級生を(氷華が居ないので本人的には正直そこまで問題では無いが)諫めたり、枕投げを始めて埃と騒音を発生させるという迷惑行為を止めたりしていた。まあ高校生が馬鹿な事をしたくなるというのは分からなくも無いが、周りの迷惑という物を考えて欲しい。
一方の琴音は……
「すみません」
「はい? どうかしましたか?」
一人でトイレに行った帰り道、琴音に声を掛ける男が居た。どこかで見たような気がするのだが、思い出せない。
実は昼間氷華達と話していた相手なのだが、しっかり顔を見た訳では無いので繋がらなかった。
「随分と黒い感情に溢れていますね。痛哭、怨嗟、あとは嫉妬と言った所でしょうか」
「ちょっと何を言っているのか——」
「貴女も魔術師でしょう? まだ初心者の様ですが」
「ッ——」
怖気が全身を襲う。琴音には戦闘能力は無い上、今は氷華も優斗も近くに居ない。
「ああ、心配しなくても貴女に対する害意は有りません。ただあなたのように莫大な感情をため込んだ人が必要なのですよ」
「は、はあ」
「それに誰かに恨みがあるようですね。復讐する力が欲しいと思いませんか?」
「……」
「もし貴女が力を望むなら明日ここまで来てください。何度も言いますが我々には貴女に危害を加える意思は有りません。ただの見習い魔術師を攻撃する程暇では無いですし、せっかく見つかった貴重な被験者ですから。そもそもそのつもりならもっと直接な手段を取りますよ」
そう言って男は去っていく。
「えっと……氷華ちゃんに相談しようか。でも絶対に反対されるから……」
「あの、誰か居ませんでしたか?」
「え、いや誰も居ないけど……」
「そうですか……。それならいいです」
思わず氷華の質問を否定してしまったのはそれだけ興味を惹かれていたという事だ。琴音はどうするのか朝まで悩むことになる。
(うーん。魔術が使われた気がするんだけどなー。まあ建物全体に魔術が有るからその関係かな? 琴音さんが嘘を言ったのは考えにくいし、精神操作された形跡も無いからなー)
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