二章 金森市連続失踪事件

二章プロローグ

◇金森市 某所

 薄暗い地下室に一人の少年と言える程若い男が居た。いや、一人と言うのは語弊がある。

 正確には、一人の男と、大量の死体が存在していた。

 男は死体を調べるが、思った通りの結果は得られなかったようだ。


「チッ……もう半年もやってるのに進展無しかよ」


 そう言って男は死体を放り投げる。そこには様々な処置が行われ、生前の面影を失った死体がいくつも転がっていた。腐っている者、薬物や魔術により変色している者、体中を切り裂かれた者などが居る。

 だが、最もおぞましいのはこれらの死体が、こんな状態になっても動いているという事だ。

 アンデッド、死してなお動く者の総称。

 彼らは非道な魔術の実験により死してなお動き続ける亡者に変えられてしまったのだ。

 人間の生命と尊厳を踏みにじる行為だが、男に罪悪感を感じる様子は無い。男にしてみれば、一般人など自分の目的を達成する為の生贄に過ぎない。


「おーい、次の被験者捕まえてきたぞ」


 そう言って壮年の男が大きな袋を担いで入って来た。袋はもがくように動いている。


「いやー、人が出歩かなくなってきたから大変だよ」

「どうして愚民どもは俺たちに使われる幸せを理解出来ないのだろうな」


 そんなことを言いながら男は袋から中身を取り出す。中に入っていたのは後ろ手に手錠を付けられ、猿轡で言葉も奪われた一人の少女だった。


「んー、んー!!」


 少女は必死に逃げようとするが、直ぐにどうしようもない事を悟って絶望の表情を浮かべる。普通の人間に逃れられる拘束では無い。

 恐らく年齢は高校生ぐらいだろう。若い男は少女に見覚えが有ったが、そんな事を考慮する必要は無い。知り合いだろうが何だろうが、魔術を知らない者など生贄でしかない。


「実験は後だな。俺は明日早いんだ」

「じゃあ殺すだけ殺しておくよ」


 彼らにも表社会での用事がある。彼らの実験は時間がかかるため、今からやった場合壮年の男性の方は遅れてしまう。よって、いつも通り夜から行うことにした。

 壮年の男が立ち去るのを見届けた男は、少女の首を絞めた。


「うー!! んんー!! んッ……」


 少女は涙目になって必死に抵抗するが、無駄なことだ。しばらくもがいていたが、やがて呼吸が不可能になり体から力が抜けた。

 男は少女の死体を寝かせると、寝室に向かった。

 彼らは魔術において不可能とされる事象の一つに挑戦していた。今のところ成果は無いが、自分が望んでいるのだから絶対に上手くいく、少なくとも男はそう思っていた。

 だが、彼らは知らない。自分たちのやっている事がどれ程無謀で、的外れなのか。そして何よりも、それをある魔術師が知ったら、どういった結果が齎されるのかを。

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