一章エピローグ

 数日すると、エミリアとユリウスも霧崎邸に馴染んできた。最初、エミリアは氷華としか話さなかったが、やがて優斗たちにも話しかけるようになった。最も、氷華に対してですらかなり口数が少ないのだが。

 彼女は日本語を少しずつ理解できるようになってきたようだ。地頭が良いのと、周りが日本語ばかりだからだろう。優斗のドイツ語習得より先になりそうだ。

 ちなみに、琴音とユリウスはかなり親密になっていた。琴音が、意思と動作の接続が上手くできず悩んでいる時にアドバイスしたのがきっかけだ。ユリウスはかなり教えるのが上手かった。氷華は教えるのが苦手なことも有り、最近ではユリウスに教わっていることが多い。

 ちなみに、優斗は勝手に魔導書を読んで勉強し、分からないことが有れば氷華に聞いている。誰かに教えられるより、自分のペースで読んで学ぶ方が得意なのだ。ちなみに氷華もそのタイプで、優斗が持ってきた魔導書等を勝手に読んで勉強していることが多い。最も、優斗はじっくりやらないと理解出来ないからなのに対し、氷華は理解が速すぎるためなので理由は真逆だが。

 その優斗は地下の闘技場で刀を振っていた。最初は庭でやっていたが、こちらの方が涼しいし、邪魔にならないと言われたのだ。最近は午前中はひたすら剣の特訓をし、午後はエミリアのためにドイツ語を勉強し、深夜はひたすら魔術を学んでいた。睡眠時間は四時間を切った。何故ここまでするのかと言えば、氷華に追いつくためだ。才能で劣っているのだから、努力で補うしかない。そのためには氷華より長時間寝るわけには行かない。

 何が有って氷華があんなことになったのかは知らない。だが、それは自分の身を犠牲にしてやらなければならない事ではない。そして、一人で抱え込まなければならない物でもない筈だ。少なくとも優斗は彼女の役に立ちたいと思っている。


(だけど、今のままじゃ氷華がどう思おうが無理だ)


 今優斗が氷華と一緒に戦ってもただの足手纏いだ。それは、この前の戦いで痛感したことだ。見る事すら出来ないのにどうやって一緒に戦うというのだろう。

 だから強くならなくてはいけない。少なくとも氷華の役に立てるぐらいには。そして、彼女の背負っている物を一緒に背負いたい。そのためならどんなことだってやる。

 幸い、魔術の勉強以外にも手は有る。ヒントは戦闘時における氷華の変化だ。


(あの時、氷華はまるで機械みたいだった。あれ自体は凄く気持ち悪いし、嫌な予感がするけど、方向性は間違っていない筈だ。要するに極度の集中状態なんだろう。それなら似たような事は出来る筈だ)


 極度の集中状態になれば、それだけ魔術が速く、精密に魔術を使える。当然、その分だけ戦闘能力も向上する。

 だが、多分氷華はやり方を教えてくれないので、自分で試行錯誤しなくてはならない。瞑想や無心になって刀を振る等思いついたものは片っ端からやっているが、明確な成果は無い。そもそも仮に方法が正しくても直ぐに成果が出る物では無いだろう。

 成果を得るには焦らず努力を続けるしかないだろう。だが、頭では分かっていても気持ちの方は納得していない。少しでも早く強くなりたい、そう思って優斗は今日も刀を振り続けていた。


※「この後21時に登場人物集を投稿して一章は終了です。明日は休ませて頂いて、明後日から二章を始めます。まだ書ききれておらず、ストックが心もとない為、毎日更新は難しいですがご了承お願いします」

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