第35話 ピグナ

「ピグナ、紹介しますわ。

 マクネルファーさんです。機械が専門ですの」

長い名前の最後をとって、ピグナと呼ばれることになった

紫色の悪魔は、珍しそうに屋敷の大広間に

並べられたマクネルファーの機械を見回す。


「へー。製造にプラグナ二ウム使ってるのか。

 爆薬とか、武器の製造目的じゃないとこがイカレてるね」

マクネルファーは、バムから耳打ちで

ピグナが悪魔であることを告げられて

「……あんた、本物の悪魔なんか……竜といい

 最近、面白いもんばかりに会えるのう……」


「まあね、悪魔だよ。ほら見てよ。

 尻尾もあるし、肌の色も違うでしょ?」

「服は着ないのかね?」

「要らないよ。猥褻なものがこの身体にはないんだから

 ただの女に似た形でしょ?これがあたし」

「まあ、確かにな」

マクネルファーは握手してから、再び機械に向かって

何かを研究し始めた。


「応接間こっちでしょ?」

勝手にピグナは進んで行く。そしてソファにどっしりと座り

「じゃ、私とどうしたいか、ちゃんと話してくれない?」

「そっ、それは、料理大会でお料理をするだけですわ」

ファイナがそう言うと、ピグナは不満そうな顔で

「ちょっと、寝て貰ってていい?」

と言って、ファイナの頭に指を射してその場で寝かした。


そして俺に指をさしてきて

「あんたがリーダーでしょ?ちゃんとあたしの

 行動に指針を示してよ」

俺はとりあえず、ピグナの隣に離れて座る。

バムは床で寝たファイナを、寝室へと運んでいった。


「えっと、実はな。必要ないんだ。

 ファイナが先走って呼んだだけだ。もう帰ってくれ」

「……」

しばらくピグナは黙り込んだ後に

「いや、そうはいかない。一週間きちんと

 滞在させてもらう。契約を結んだでしょ?もう有効だよ」


「……じゃあ、一週間邪魔しないでくれ。

 そしてそのまま帰る。それでいいか?」

ピグナは不機嫌な顔になり

「あのさー、あんたも私と同じなんだよ?

 同じ"被召喚者"同士、もうちょっと楽しまない?」


「俺も同じ?」

「そう、同じだよ。この世界に呼ばれたってこと」

「……そうだったのか」

「魔法が効かないとか、そんな存在がこの世に許されるわけないじゃん。

 特例でそうされてるだけだよ。

 食王になるんでしょ?悪人の魂もっと喰わせてくれれば

 ずっと付き従ってもいいんですよ?地球人さん」


猫なで声で、俺の情報をどんどん述べてくるピグナが

怖くなって固まっていると、バムが帰ってきて

ストンと、俺とピグナの間に座り込む。

「ピグナさん、正直なところ、あなたの力で不正すれば

 各種大会を勝ち進み、ワールド・イート・タワーまで簡単に

 たどり着けますか?」


ピグナはいきなり笑い出す。あまりに腹を抱えて笑うので

バムと俺が唖然としていると

「あのさぁ、あたしがこんなに簡単にここに

 出てこれたってことは、他にも悪魔とか他の力を借りてる人も

 多数いるわけ。だからねーあたしが居てやっと

 あなたたちのハンデが無くなるわけよ。分かる?」


「つまり、無理ということですね?」

「簡単には無理だね。まあ、ここの大会の決勝くらいまで

 連れて行けるけど、もっと大きな大会になると

 あたしの仲間や、他の力を使ってるやつらも多くなるからね」

バムは決心した顔で


「分かりました。じゃあ、今から一週間

 料理大会が終わるまで、不測の事態が起こらないように

 護衛してください。それで十分です」

「随分楽な仕事だなぁ。それだけでいいの?」

「はい。それが終わったら帰ってください」

ピグナは不満そうな顔で

「契約延長は無し?」

バムは強く頷いた。


「ま、いっか。その間に、あたし無しではいられなくしてあげる」

ピグナはそう言って立ち上がり俺の耳元に

「よろしくねーさやまなおみくーん」

と本名を囁いて、部屋から去って行った。

固まっていると、バムが

「悪魔に惑わされてはいけませんよ。

 明日の料理大会をとにかく、自力で勝ち抜きましょう」

「そ、そうだな。頑張ろう」

というのが、俺は精いっぱいだった。

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