第34話 思い付きの末

料理大会の前半は終わったので

新マクネルファー研究所に戻って、明日の四回戦の準備をしつつ

作戦を練ることにする。

参加者が多いので

明日からは一日に一戦ずつらしい。


建物一階の応接間で作戦会議を始める。

「四回戦からは難易度が上がります」

バムが真面目な顔で言ってくる。

「そうですわね。何か新しい料理を考えないと」

ファイナはすっかりやる気である。


バムは小声で

「次からはレベルが違うんです。たぶんファイナさんでは……」

「分かった。じゃあ、ファイナさん

 今度は俺たちと一緒に、料理を作らないか?」

ファイナは腕を組んで、しばらく考えて

いきなり閃いた顔で


「魔法を使うのはどうですの?

 魔法で、悪魔を呼び出して、料理を作らせるのです」


とんでもないアイデアを告げてくる。

「悪魔ですか……冥界から呼ぶんですよね?」

「もちろんそうですわ!使役して

 透明になってもらい、料理を作ってもらうのですよ」

「そ、それ出来るの?」

戸惑いながら尋ねた俺にファイナは

「もちろんできますわ!わたくし闇魔法が

 最も得意でして。今から地下室でやりましょうか?」


バムが恐る恐る

「あの、ファイナさん、それ何か生贄が必要とか……」

「どうでしょう?呼び出してから尋ねてみましょうか」

ファイナはそう言いながら、早くも扉を開けて

地下室へと向かっていった。俺とバムも慌てて追う。


早くも地下室の床にチョークのようなもので

ファイナは魔法陣を描き始める。

「と、止めた方がよくない?」

「どうしましょうか……」

二人で悩んでいるうちに、魔法陣が光りだし

ファイナが詠唱を始めてしまう。


地下室を照らす、カンテラが全て消えて

いきなり真っ暗になると

魔法陣が怪しく揺らめきながら光はじめ

ポンッという音と共に

中に人影が現れた。


バムが近くのカンテラを慌てて

点けると、魔法陣の中の人影の姿が見える。

そこには、紫の肌で、黒髪のボサボサ頭の少女が立っていた。

何一つ纏っていないが、全身がツルッとしていて

性器や乳首も見当たらない。

紫のマネキンのような、身体だ。


「で、あたしを呼び出した目的は?」

少女は、尻についた尻尾を動かして

自分の右手で触りながら言う。

「料理を作って下さらない!?」

いきなりファイナが、紫の少女へと詰め寄った。


少女は物凄く嫌そうな顔をして

「無理じゃない?この世界の味覚って

 もう、地獄みたいなもんじゃん?

 そんなん、私が料理してどうこう……」

「料理大会で、お料理をするだけで良いのです!

 召喚者のわたくしに従いなさい!」


「……目的がショボイ上に、いきなり強気に出たねー。

 知ってる?悪魔に願い事する時は

 生贄が必要なんだよ?当てはあるの?」

俺とバムが同時に、帰ってもらおうと前へと

進み出るのを、ファイナは止めて



「生贄なら居ますわ!ラスネルと言う赤毛の

 魔導士の魂をあげますわ!」



いや、待て、それこないだバムにボコボコにされた

元魔法ギルドの長だろ。他人を勝手に……。

俺がファイナを諫めようとすると

紫の少女は、何とニンマリして頷いた。

「そいつ、あなたたちに強い恐怖心を抱いてるね。

 魂を支配されてるみたいなもんだ。

 じゃあ、そいつの寿命を一週間貰おう。

 それで一週間だけ、お試しで滞在する。

 どう?」


「良いですわ!」

いや待て、何か色々と間違ってるだろ。

とまたもや言う前に、魔法陣は発光を失い

紫色の少女は一息ついて

「あたし、ツヴァルナ・ナガガ・ピグナ。

 長いから、適当に呼んでいいよ。

 ちなみに仮名ね。真名は教えないから」


ファイナは手を差し出して、紫の少女と

ガッチリ握手する。

「……」

すげぇ……ほんとに悪魔を召喚してしまった。

しかも必要にかられてじゃなくて

ファイナのただの思い付きの末である。

俺とバムは嫌な予感に立ちすくむしかない。

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