第6話 料理大会エントリー

買い物が終わったバムは、街の奥の石造りの安宿に部屋を取る。

そして、宿の、宿泊客用の小さな調理場を使って

俺たちの昼食を作り始めた。

「私たちの料理を食べてくれるって

 とっても嬉しいです」


誰も居ない調理場内に

良い匂いが広がり、出来た料理を

その場のテーブルに乗せて

二人で食べる。フルーツと肉を煮込んだ

不思議な料理だが、絶妙に美味い。


猛烈に食べる俺をバムは幸せそうに

見つめながら

「ゴルダブル様。食べて、少し休んだら

 料理大会にエントリーに行きましょう」

「ところで、その大会って

 どんなのなの?」


「各国の腕自慢の料理人たちが

 月に一度、その腕を競う。大きな大会です。

 審査員はエルフの王族たちで

 えっと……言い方は悪いんですけど

 私たちからすると、どれだけ……」


黙ってしまったバムの代わりに

「どれだけ不味い料理を作れるか、競うんだな?」

「はい……残念ながらそう言うことです」

バムは言い難そうに


「そこで、優勝して欲しいのです」

「……難易度高いな」

つまり料理の知識ゼロの俺が

最高に不味い料理を作って

審査員たちを唸らせないといけないらしい。


「優勝すると、このエルディーナの遥か西にある大国

 バルナングス共和国へと

 優勝者とその従者全員が、一切の審査なしで招待されます」

「その国に行くためには、優勝以外の方法は

 無いんだな?」


「はい、残念ながらセメカである私たち

 部族のものは、そういう特例以外で、

 このエルディーン王国から

 出ることを禁じられていまして……」

「通行証みたいなのが、一切発行されないの?」

バムは恥ずかしそうに頷く。


つまり行き先はバム頼りな俺も、同じということだ。

しかし味覚が違うだけで、

差別が酷すぎないかと思いながらも

「分かった。食べ終わったらすぐに

 エントリーに行こう」

バムは嬉しそうに頷いた。


昼食を二人で片づけ終わると

荷物を宿に置いて、二人で雑然とした広い街を

地図を見ながら歩いていき

コロシアムのような巨大な施設に辿り着く。


「ここ?闘技場みたいだな……」

「はい。料理大会は、この国最大の娯楽ですから」

バムはそう言いながら、コロシアムの入口から

伸びている行列の端に俺を導いて並んだ。


並んですぐに後ろに並んできた背が低く

恰幅の良い七三分けの男が

「あなたたちもエントリーするんですよね」

後ろから話しかけてきた。


警戒して俺の後ろに隠れたバムの代わりに

「ああ、そうですよ。あなたも優勝を目指して?」

男は人の好さそうな表情で

「いやー私はダメですよ。旨く料理を

 作る才能が無い。どうしても不味くなってしまう。

 しかし、何故だか、時々

 こうして大会に参加してしまいましてなぁ」


……いや、それって……ちょっと閃いたので

「お名前お聞かせ、願えますか?

 自分、ゴルダブルと言います。こっちはバムです」

「ああ、私は、マルギルと申します」


その後はマルギルと雑談していると

列が進んで行き、いつの間にか

闘技場内でエントリーが済んでいた。

夕方になっていたのでマルギルと別れ

バムと共に宿に戻る。


「良い人でしたね」

バムが荷物のチェックをしながら言う。

「そうだな。気さくに色々と話してくれたな」

やはり彼も、この世界の味覚に違和感を感じているような

雰囲気が雑談の節々で出ていた。

もしかすると、まともな味覚を持っている人が

俺たちの他に居るのかもしれない。


そう考えながら

一つしかないベッドに腰かけていると

バムが顔を赤くしながら

「あ、あの……うちの村では……

 夕食の前に……男女で……」

いきなり隣に腰かけて、真っ赤な顔して迫ってくる。

「だ、男女で……?」

もしかして、セ、セッ……。

ドキドキしていると


「……隣り合って、一緒に軽い体操をするんです。

 そうすると食後に胃もたれしないから……」

恥ずかしそうにバムは立ちあがって

ストレッチのような動きを始めた。

……ですよねー。俺も立ちあがり

隣で不器用にバムの真似をする。

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