第5話 エルディーナに到着

「バム、おい、不味すぎだろ。

 どうなってんだ……」

肉を投げ捨てた俺は思わずバムに詰め寄るとなんと

バムは嬉しそうな顔をして

俺に抱きついてくる。


「お、おい、どうした。どうしたんだよ」

「や、やっぱり不味いですよね?」

「あ、ああ……最低の味だな。

 殺されるかと思った」


バムはさらに強く抱きしめてきて

俺の頬にいきなりキスまでしてくる。

「いや、だいじょぶ?」

あまりの喜びように、本気で心配になってきた。

「あのですね、ゴルダブル様」

バムは真剣な顔で俺を見つめてきて



「この世界のほぼ全ての料理は不味いです」



衝撃的なことを言ってくる。

「え、ちょっと待てよ。あのゲロみたいな

 味なのか?他の食べ物も……」

「味は……汚水みたいなジュースとか

 腐った草の味がするパンとか……」


もう帰りたくなりつつある。

なんだこの世界。どうしてそんなことになった。

「……私たちの村では、この世界に

 以前来られた、先代食王様の味覚がおかしかったので

 こんなことになったと云われています」


「食王ってなんなの?」

「私たち村人にもよくわかりませんが

 全ての生き物の味覚を変え得る、超絶的な存在だと」

意外とその超絶の範囲せめーな。

もっとこう、世界を征服するとか

そんなんじゃないのか。


バムはようやく俺から手を離して

「とにかく、エルディーン王国の首都エルディーナに向かいましょう。

 今はちょうど、料理コンテストエントリーが始まっている所です」

「想像したくない光景だな……」

ゴミのような味の料理が延々並んでいるはずだ。


「ゴルダブル様には、ぜひそれにエントリー

 していただいて、新食王としての

 第一歩を刻んでいただければと……」

バムは上目遣いで控えめに頼み込んできた。

「……なんかよくわからんけど、やってみようか」


あんなに不味いものをありがたがって

食っているんだから、もしかすると

俺にも料理で成り上がるチャンスが巡ってくるかもしれない。

そんな下心を抱きつつ、バムと人通りの多い平原の道を歩いていくと

遠くに、巨大な壁に囲まれた街らしきものが見えてきた。


「あれがエルディーナです」

「なんか中世っぽいな」

「エルディーナはエルフたちが治める国です」

「エルフか……」

耳が長くて綺麗な種族のはずだ。

ちょっと楽しみになってきた。


二人で人波に紛れてあっさりと城門を通過し

そして街の中へと入っていく。

大通りは行き交う人々で活気があり、

露店が左右に立ち並んでいる。

バムは食材を買い込みだした。


「料理は宿で自作します」

「その方が良いな。果物とかは大丈夫なの?」

「うーん、いまいちですが。

 料理ほどは酷くないので……」

バムは"5エル"と値札のつけられた

旨そうな真っ赤なリンゴを

売り物籠から出して、買って革袋に放り込む。


他のリンゴは熟しすぎて半分腐っているようなものとか

色が変わっていない硬そうなものとかばかりなのだが

他の客たちは、それらを躊躇なく買って行くのが怖い。

「私が買ったのは特価品です。普通の人は不味すぎて

 食べられないので」

「そ、そう……」


どうやら相当に味覚が狂った世界なのは

変な果物ばかり並べられて、それが買っていかれる

周りの様子から、よく分かってきつつある。

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