7. セレナーデと最高位精霊たち

セレナーデは精霊城の庭にいた。


花は満開に咲き誇り、絶妙な角度で七色に輝く光が指す。

そこに美しいアンティーク調の椅子と机が並べられていて、実に幻想的である...


セレナーデと、最高位精霊たちはそこで一緒にお茶を飲んでいた。

今日は最高位精霊が全員揃っていて豪華な顔ぶれである。

光の最高位精霊リヒト。

闇の最高位精霊 ネム。

大地の最高位精霊 イアン。

植物の最高位精霊 レミア。

炎の最高位精霊 ライラック。

水の最高位精霊シルク。

風の最高位精霊ウィン。

そして神の愛し子セレナーデ。

8人で穏やかで平和な時を過ごしていた。



「いやぁ~~、セレナーデとやっとこうして話すことが出来て、嬉しくて俺は泣きそうだよ!!」


炎の最高位精霊ライラックがシルクの焼いたクッキーを物凄いスピードで食べ進めながら言う。

すると、光の最高位精霊リヒトはクッキーを取ろうとお皿に近づいて来たライラックの手を パシッ と叩き 睨み付ける。


「泣きそうなわりにクッキーを食べるスピードが異常すぎる。皆の食べる分がなくなってしまうだろう?それと、もっと味わって食え。」


リヒトの厳しい指摘に、むぅ っと口をとんがらせるライラック。

そんなライラックをちらりと見た植物の最高位精霊レミアが 心底不愉快というように顔を歪めると、


「食事中のマナーも分からないだなんて、本当に情けない男...うるさくてたまりませんわ。...精霊位精霊としての自覚が足りないのではなくて?ライラック。」


と言い放つ。

ライラックが ああ?!と言って立ち上がり、レミアと睨み合って険悪な雰囲気になっている......

すると闇の最高位精霊ネムがライラックの袖をキュっと掴み一言、


「ダメ。」


と言った。

レミアとライラックが驚いてネムを見つめる。

ネムはふるふると首を横に降ると、じぃっと一点を見つめ始めた。

レミアとライラックもネムの視線の先にいる者を見てはっ としたようであった。

視線の先にいたのはセレナーデ。

セレナーデは雲行きの怪しくなる二人を見ておろおろとしていた。だが、止め方が分からずしょんぼりしていたのをネムが見ていたのだ。

レミアとライラックは申し訳なさそうにセレナーデに謝ると、セレナーデは 慌てて 大丈夫です!と言った。


ネムはそんなセレナーデを無言でじぃぃっ......と見つめていたので、それに気づいたセレナーデが


「あ...あの...?」


と聞くと...


「セレナーデ、もっと肩の力抜いて。」


と言われてしまった。

確かに、セレナーデは最高位精霊が全員揃っているので緊張していたのだ。

まさか、気づかれていたとは...


「あっはは、ネムは結構人間観察してるからお見通しなんだよ。」


セレナーデの隣に座る大地の最高位精霊イアンが驚くセレナーデに言う。


「まぁ、私達に気をつかわなくていいよ。ゆっくり楽しんでいきな♪」


「そうですよ。」


イアンとシルクはセレナーデに笑いかける。

セレナーデも はい! と言って微笑んだ。

クッキーも紅茶もとてもおいしい。

セレナーデは言われた通りこの時間を楽しむことにした。

辺りは和やかな空気に包まれている......



「そういえば...エリザ様もビビアン様も最近お見掛けしませんが......お体が悪いのですか?」


セレナーデの突然の一言にビクリとする最高位精霊達。さっきまでの和やかな空気が一瞬にしてピリッとしてしまった...

セレナーデは聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと慌てて


「ごめんなさい!」


と言った。

周りの微妙な空気の中、シルクが苦笑いしながら説明する。


「大丈夫ですよ。気にしないでください...

それに、エリザ様も(精霊)王も体調が悪いわけではありませんから、心配要りません。最近は用事があって出掛けているそうなんですよ...」


それを聞いて そうだよ!というようにコクコクと頷く最高位精霊達。

セレナーデはそれを不思議に思ったが、嬉しそうに微笑むと、


「そうだったんですね!お体が悪いわけではなくて良かったです。」


と心から安堵した。


最高位精霊達はエリザとビビアンが何をしているか知っている。それは心優しいセレナーデが絶対に望まないこと...

今回の件で関係ない人には慈悲を持ってくれるであろうエリザとビビアン。

だが...関係者には無慈悲だろう。

最悪、なぶり殺されてもおかしくない。

最高位精霊達もセレナーデをいじめた者を許すつもりはないが、正直エリザとビビアンがどのような罰を下すかなど怖くて想像したくない。

この世界の者達はセレナーデが大好きだから...笑っていてほしいのだ。

セレナーデが悲しむようなことは知られてはならない。


最高位精霊達はセレナーデをちらりと見る。

セレナーデは心から安堵して嬉しそうに笑っていた...


その笑顔が、その心が、エリザとビビアンに選ばれた理由だと最高位精霊達は再認識した。


「本当に可愛いわね。」


レミアが愛しそうにセレナーデを見つめる。

セレナーデはそれに 可愛い...?と驚いて固まると、


「ああ、お姉様のことですね?!」


「......?!?!」


これには最高位精霊達が驚く。

そんなこと気づかないセレナーデは、


「エリィお姉様もリリィお姉様もとてもお美しくて、お優しいんですよ!!」


オネエサマ...?オウツクシイ...?オヤサシイ...?

最高位精霊達は疑問に思う。

勿論、レミアが可愛いと言ったのはセレナーデなのだが、セレナーデは可愛いなんて言われたことがなかったため、いつも可愛いと言われていた姉達の話しだと思ったのだ...

セレナーデは両親に似ていないのだが、エリィとリリィは似ている。

シュターナ家当主ビンと奥様クエルはそれほど美形なわけではなくて、それはエリィもリリィも同じである。

セレナーデは、精霊王ビビアンの双子の妹ウランにそっくりなのだから、それはそれは美しい......

それに、あの姉がお優しいとは...


「私はセレナーデのことを可愛いと言いましたのよ?」


レミアは姉の話しを続けるセレナーデを見て分かりやすいようにもう一度言う。

それを聞いてセレナーデはまた固まると、私......?と呟いて......



赤面した。



セレナーデは恥ずかしくて嬉しくて...


そんなセレナーデの姿があまりに可愛いものだから、しばらく最高位精霊達はセレナーデの頭をなでなでしていたのだった...


















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