第6話
そうして、30分ほど車を走らせたところで雷道家に到着する。
家の脇に車を駐車させ、インターホンを鳴らす。
すると中から雷道の奥さんと思わしき人物が出てき、「はい、雷道です」と応える。
「先ほど連絡させていただいた刑事課の山川です」
「わざわざすみません。どうぞおあがりください」
家の中へと招かれ、玄関には雷道の奥さんが待っていた。
そしてそのまま客間へと案内され、椅子に腰かける。
「では、主人を呼んできますので少し待ってくださいね」と一礼し、奥さんは客間から出ていく。
「……電話の声からは迷いを感じたが、何かあるのだろうか」
「先輩、大丈夫ですか? 何か不安でもあるんですか?」
「あぁ、迷いがあるということは話しにくいことなのかもしれないからな。その内容がどういったものなのか少し不安があって」
「そうですか……でも話を聞くまで内容はわかりません。とにかく話を聞かないとです」
冬月の言う通りだ。何も聞いてないのに不安になるのは早すぎる。
しばらく待っていると雷道裕大本人と思わしき人物が客間に入ってき、俺と冬月と向かい合うように腰掛けた。
「急にお邪魔してすみません」
「いえいえ、こちらこそ。私が雷道裕大です。それで何用でしょうか?」
「二十年前に起きた黄野町変死事件についてお聞きしたいのです。この事件で唯一の生存者とのことでその時の様子などを伺いたいのですが、教えていただいてもよろしいでしょうか?」
俺の質問に少々戸惑いを見せ、話しにくそうな様子だ。
「……私は何も知らない。知らない間に色々何か起きたのです」
目を合わせようとせず、うつむいたままの雷道の様子に対し俺は少し不信感を抱いた。
この時、知らないというのは嘘なのではないか、本当は何か知っているのではないか、何か隠しているのではないかと思った。
言いにくいのかもしれないがこっちも情報が必要だ。
「……本当に何も知らないのですか?」
しっかりと顔を見て再び雷道に問いただしてみる。
俯き少し黙った後、観念したかのように息を吐きゆっくりと口を開いた。
「わかりました。なら話しましょう。ただ、極力思い出したくない話なのです」
「あの日、何が起こったのかは知っています。ですが詳しいことは知りません」
「知っていることだけでいいので、できれば教えてください」
俺は真っすぐ雷道の顔を見て、しっかり話を聞く体制をとる。
隣で冬月は手帳を取り出しメモを取ろうとしている。
「あの日、あの町にあれが現れたのだが何かがわからない。わかりたくもない。あの事件についてはあまり思い出したくないのだよ」
少し恐怖を浮かべる表情で雷道は話す。
その様子にどことなく嫌な予感がするが、もう少し情報がほしい。
あまり気は進まないが『あれ』というのについて聞いてみる。
「すみませんが『あれ』というのはどのようなものか覚えていませんか? 生き物なのか別のものなのか」
「……あんなもの思い出したくない。何かがわからないのですから……」
これ以上聞くのはさすがに胸が痛む、これ以上聞くのはやめておこうと思う。
やはり思い出すのが酷なのだろう。
「すみません、辛いことを思い出させてしまいまして」
「いえ、大丈夫ですよ。あの事件を追っとるのですかね?」
「はい、明日にでも黄野町に調査に行こうと思っています」
少し考えたのち、雷道はゆっくりと口を開いた。
「もしかしたらまだ何か残っているかもしれん。町にある高校に行くといいだろう」
「高校……ですか?」
冬月が少し不思議そうな表情でつぶやく。
この時俺は、この高校は根野海悟が通っていた高校なのではないかということが頭をよぎった。
もしかしたら黄野町変死事件というのは町が何かとんでもないことが起き、想像もつかないことが起こった可能性があるのではないかと思ってしまった。
それを思うと少しばかり恐怖する。
そして津村のことを思い出し、雷道に尋ねた。
「それともう一つ、依然そちらに津村というジャーナリストが尋ねてきませんでしたか?」
「えぇ、来ましたよ。刑事さん方と同じようなことを聞かれましたよ。それと、その津村という方も黄野町へ行くと言ってましたよ」
「「本当ですか!?」」
「えぇ、それは興味津々な様子でしたよ」
「そうですか、貴重なお話ありがとうございました」
2人とも雷道に対し深々と頭を下げた。
気が付けば日も沈みかかっておりオレンジ色の空に目が行く。雷道家を後にし、車に乗り込み警察署へと帰っていく。
警察署に戻り、自分たちのデスクに戻ると少し話し合いを始めた。
「さて、明日だが早速黄野町に向かうということでいいよな? 津村もそこにいるかもしれないし」
「ええ、構わないですよ。もとよりそのつもりですし」
「そうだな。とりあえずだ、何か得体のしれない何かが出てくるらしい。万全の状態で向かうぞ」
「それはいいのですが先輩って確か、以前の事件の時に刀をボロボロにして修理に出してませんでしたか?」
冬月はデスクに立てかけられている脇差に目をやる。
「あぁ、それに関しては問題ない」
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